じいちゃんのオルゴール
もし、”音痴なオルゴール”があったら、どんなだろう…。そんなことを考えながら創ったストーリーです。
「おい、なんかモゲてねぇか?」
じいちゃんが亡くなって、主のいなくなった家を片付けている。こういう片付けは、大体捗らない。何かを見つけては思いを馳せてしまい、本来の目的が果たされることはない。奥の和室を片付けていた母が古い木箱を見つけ、それを懐かしそうにいじっていた。その質素な“木箱”は、なんとオルゴールだった。母がゼンマイを巻くと、これまで誰にも気づかれずに眠っていた木箱に、今再び命が吹き込まれた。
「へぇ…。まだ、動くんだ…。」
それにしても…なんかヘンだ。
「これって、“春が来た”だよね…?」
「そうよ。なんで?」
オルゴールのゼンマイが緩むにつれて、曲がフェイドアウトしていくイメージだったのだが、それとも違う…。そこに、庭で片付けをしていた親父の一言だった。そうそう!メロディーがヘンなんだ。
「音がモゲてるから、思わず笑っちまって危うく皿落とすとこだったぞ!」
「はぁ~るがき~たぁ、はぁ~るがき~たぁ…だよね?」
「これじゃ、はぁ~るがき~たぁ、はぁ~るがき~たぁ、になっちまってるじゃないか!音痴なオルゴールって、あんのか?」
僕と親父で大笑いしていたら、母がムッとして言った。
「あんたたち、失礼ね!これ、お父さんが初めて創ったオルゴールなんだから!」
亡くなった母方のじいちゃんは、時計職人だった。じいちゃんはとにかく細かい部品を組み立てたり、製品を分解してまた組み立てなおしたりすることが大好きだった。実家が貧しかったこともあり、小学校を出るとすぐに時計屋に弟子入りしたそうだ。
「お父さんにはね、年の離れた妹がいたの。病気がちで外に出て遊ぶことが出来なかった妹のために、妹の好きな歌でこれを創ったって聞いたわ…。」
「じいちゃんがいくつくらいの時のハナシ?」
「15、6の時だったかなぁ…。時計よりも前に、見様見真似で創ったって言ってた。」
「すげぇな、じいちゃん。」
「初めて見るオルゴールにとても喜んで…曲が流れるとケラケラって笑って…。その笑い声を聞いて、自分も嬉しかったって。…でもね、病気で早くに亡くなったのよ…。こんな奥の方にしまい込んでいたなんてねぇ。」
もしかしたら、音がモゲてるのはわざとなのか?自分の妹を喜ばせたくて。まだ、当時は珍しかった“オルゴール”。ハイカラなのに音痴。クスッとなる。
「お兄ちゃん、すごいね、これ!」
「でもな、歌はちょっとヘタッピだな。」
了
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