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【11月】小春ちゃんの結婚式・後編

 話している間、私は早口になっていることを自覚し、焦っていた。自分で入れた息継ぎの区切りを意識するが、言葉は坂道を転がるように口をついて、前へ前へと出てくる。

 小春ちゃんが手製のプリントを配ったエピソードに差し掛かった時、なんと、あのウェイ御一行様のテーブルからリアクションが。


 「えっ、すごくね!?」


 良かった、みんなに届いてる!

 この反応で、私はだいぶ気が楽になった。ありがとう、ウェイの皆さま。

 

 私は言葉に詰まることなく無事にスピーチを終え、小春ちゃんに手紙を渡したのだった。小春ちゃんにスピーチの感想を聞きたかったが、何だか気恥ずかしくて、ツーショットを撮るなり早々に席へ戻ってしまった。


 テーブルの同級生たちは、「すごく良かったよ〜!」「ウルウルしちゃった!」などと、口々に褒めてくれた。私の早口が、みんなに聞き取ってもらえるスピードに収まって良かった。内容より、その懸念に対する安堵の方が大きかった。


 ***


 続いて、新郎サイドの友人スピーチ。大役を果たした今、気持ちは軽いし、ご飯は美味しい。ようやくこの披露宴を真に楽しめるというものだ。

 

 そもそも、雅紀さんがスピーチを任せたい友人がいたために、小春ちゃんサイドも誰かを出さざるを得なかったわけで。そう、全ての元凶は、今から登場する雅紀さんのご友人なのです。友人スピーチをリピートされるなんて、そうそう聞かない。さぞかし面白いことを仰って、ドッカンドッカン笑いをお取りになるんでしょうねえ!さあさあ、見せて下さいよ〜!


 新郎友人、ウェイ系テーブルから出てくるもんだと思っていたら、前方の大人しいグループから登場。素朴で誠実そうな風貌からして、漫談をおっ始める雰囲気ではない。

 彼も私と同じく、手紙を読む形式を取っていた。ただ私と違い、ちゃんと渡す封筒から取り出して読んでいた。新郎の雅紀さんの就活や登用試験を応援し、不合格だった時には居酒屋で飲み明かした。そして次の試験では見事合格し、自分のことのように嬉しかったという内容。普通にいい話だし、正統派のスピーチじゃないか。

 そうか。きっとこのご友人は、他の結婚式でもこんな風に、心から新郎を思って祝福するスピーチをしたんだろうな。そのスピーチから溢れる真心に感銘を受け、雅紀さんは友人スピーチを希望したのだろう。勝手に漫談師の先入観を持って、勝手に敵視して、何だか申し訳ないね。

 逆に言えば、私が友人スピーチを断っていたら、このご友人が雅紀さんに思いを伝える場も無かったわけだ。そう思うと、私がスピーチを引き受けた判断は善行と言っていいわね。ふふん、私に感謝なさい。

 ……なんて、心の中で調子に乗る余裕すらあった。

 数分前には緊張で手が強張っていたのにさ。


 ***


 次々と料理が運ばれてくるものの、ムービーが流れたり、お色直しがあったり、余興があったり、めまぐるしいイベント進行。しかも私は初っ端の前菜に長いこと手をつけていなかったので、他の参列者よりも周回遅れの状態。料理をあくせく片付けながら、様々な催しを楽しんだのであった。


 最後の余興は、小春ちゃんのピアノ演奏。うわぁ、その手があったか!

 小春ちゃんは幼少期から高校生まで、ずっとピアノを習っていた。中学生の合唱コンクールでは、ピアノを弾く担当に選ばれていた。だから、小春ちゃんに関する要素としてピアノは挙げられたはずなのに、スピーチ内容を考えていた時には全然思い出せなかった。披露宴の会場にグランドピアノがあった時点で思いつけただろうがよ〜!悔しい。

 そういえば、私が小春ちゃんに渡した手紙は音符のデザインだった。あれは小春ちゃんが吹奏楽部に所属していたからだけど、奇しくもピアノ演奏を予見したかのようじゃないか。よし、あれはピアノの音符ということにしておこう。


 グランドピアノは新婦のテーブルが集まる側に設置してあった。しかも私の前には誰もいない。まさに特等席だった。

 雅紀さんに楽譜をめくってもらいながら、小春ちゃんはピアノを弾く。この時の小春ちゃんの横顔は、本当に美しかった。可愛いでも、綺麗でもない。美しい。それは容貌だけでなく、ピアノの練習という積み重ねた努力を発揮した時の輝きだったのだろう。

 演奏する小春ちゃんを撮影しながら、中学1年生の入学式の日、教室で初めて小春ちゃんを見た、あの瞬間を思い出す。こんなに可愛い子が世の中に存在するのかと我が目を疑ったものだ。

 色白の肌、茶色がかった髪、そしてきらきらと輝く大きな目。今もそれらは変わらない。

 だけど、今は間違いなく断言できる。

 こんなに美しくて、こんなに輝いていて、こんなに幸せな女の子は、世界にあなただけだよ。

 

 もしも私が死ぬ時に走馬灯を見るとしたら、きっとこの横顔を思い出すことだろう。

 おめでたい場なのに縁起でもないって?でも、一目惚れして、その上さらに惚れ直した彼女の、最も美しい横顔を胸に抱いて死ねるなんて、良い最期だとは思いませんか?

読んで頂きありがとうございます!

至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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