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【10月】あたたかな練習相手

 16年来の友人・小春ちゃんから、結婚式での新婦友人スピーチを頼まれた私。

 中高時代の友人たちの助けも借りて、何とかスピーチ内容を形にすることができた。しかし、ここからが更なる難関。私は絶望的に声が通らず、人前で話すのが大の苦手。スピーチの内容も大事だが、練習にも注力しなければならない。


 小春ちゃんは、WEB招待状という形でLINEにリンクを送信してくれていた。私は恐らく、参列者の中で最もWEB招待状を開いた人間だ。

 というのも、リンク先のページには、式の開始日時までのカウントダウンが表示されているのだ。しかも秒単位まで。

 刻一刻と減っていく数字は、私を焦らせた。

 

 わっ!式まであと1か月切ってる!あぁっ、どうしよう!まだ全然練習できてない〜!


 母からは「そうやって自分を追い込むな!」と言われた。しかし私はどうも気になって、事あるごとにWEB招待状を開いては、ひとり悶えるのだった。

 

 ***

 

 私に与えられたスピーチ時間は5分。初めは長いと思っていたが、話す内容が決まって詳細を詰めていくと、時間が足りなくなってきた。

 私は今回、小春ちゃんへ手紙を読むという形式でスピーチをする。しかし、実際にそれを聞くのは、推定50人超の、私のことを全く知らない人々。この人たちに、私と小春ちゃんの置かれた環境を説明するターンが要るのだ。

 

 私と小春ちゃんは地元を離れて受験した者同士で、あっ、受験っていうのは中高一貫校の進学校で、あっ、高校じゃなくて中学受験の方ですよ!だから同じ小学校だった友達がいなくて、そんな状況で私は病欠するんですけど、中高一貫校の1年目なもんだから、3年間どころか6年間の孤独を覚悟したわけです!で、そんな私と仲良くなってくれたのが小春ちゃんなんですねぇ〜!


 ……って、前置き長すぎるわー!

 こんな不毛な説明に、貴重な時間を割かれるわけにはいかない。そこで「スピーチ用の原稿」と「実際に渡す手紙」を分けて作り、前置きが要る話は「実際に渡す手紙」へ盛り込むことにした。結婚式が終わった後で小春ちゃんが手紙を読んだ時、プラスアルファの内容が書いてあれば、ちょっとしたサプライズにもなるかもだし。

 

 10月の中旬まで、ひたすら添削を繰り返した。

 そして同月25日、スピーチ原稿と手紙の下書き、両方に最終決定を下した。

 そのデータをA4用紙に印刷。

 向かった先は、私の推し・コメダ珈琲店である。


 ***


 木とレンガの内装。暖色を帯びた照明。赤いソファ。

 コメダ珈琲店は、心をほぐし、長く滞在するのに最適の場所だ。

 私調べでは、コメダに長時間居座れるのは夕方から。外はまだ明るいけれど、早めの晩ご飯を食べて、作業開始。


 まずは手紙。小春ちゃんが吹奏楽部に所属していたことから、音符をあしらったレターセットを選んでいた。これにA4用紙の内容を書き写していく。

 

 続いてスピーチ練習。読む前に、息継ぎや区切りの位置を確認しよう。

 私の中高時代の友人、オタク友達。以前も述べた通り、彼女は放送部のアナウンスにおいてエースだった。彼女は私の暫定スピーチ内容を朗読し、それを録音して送ってくれたのだ。添削を重ねたので、内容は完全に同一ではない。しかし、なるべくその録音を参考にして、スピーチ原稿に区切りの目印を書き込んでいった。

 この日のコメダはびっくりするほど人がおらず、広い店内はがらんとしていた。ホールスタッフの皆さんも暇なのか、キッチンの方へ引っ込んで世間話をしている。この機を逃すわけにはいくまいと、実際に声を出して練習した。と言っても、店内BGMのご機嫌な洋楽に溶けて消える程度の声量だが。

 2、3回ほど読んでみたが、4分10秒台。これは私が早口になるせいだ。本番では緊張して勝手に早くなってしまうだろうから、今の時点でこんなに早口なのはマズい。

 オタク友達の音声を聞き、読むスピードを掴む。彼女が読んだところ、所定時間の5分を超えたそうだ。せめて私もちょうど5分になるくらいの、緩やかな読み方を身に付けたいところだ。

 ほぼ無人のコメダで、何度も何度も、ゆっくり読む練習をした。

 

 私の近所にコメダができたのは、大学生の時だった。学生時代は、気が向いた時の息抜きに。就職してからは、自分へのご褒美に。彼氏にフラれた時は、私が心を慰める場となり。今ではコメダそのものが、私の推しである。

 そして今回は、結婚式の友人スピーチという大舞台へ挑む私を支えてくれた。

 またひとつ、私の人生にコメダが刻まれたね。


 ゆっくり読む練習を重ね、何とか4分40秒台で読めるようになってきた。オタク友達の録音よりも、今のスピーチ原稿の方が文量を減らしてある。まあ、このくらいのペースで読めたら御の字だろう。

 退店したのは22時過ぎ。6時間以上も長居させてもらった。ドリンク以外にフードメニューも頼んだし、許しておくれ。

 

 ありがとう、コメダ。

 私、頑張ってくるよ!


 推しと練習を共にし、近づいてくるその日にドキドキする10月だった。

読んで頂きありがとうございます!

至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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