表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

【9月】小春ちゃんとのランチ

 16年来の友人・小春ちゃんから、結婚式での新婦友人スピーチを頼まれた私。

 「私と小春ちゃんとの関係を表すエピソード」を探すも、初めて出会った中学1年生の記憶がほぼ無いことに気づく。しかも、当時の私は小春ちゃんからの手紙を無視したのでは、という疑惑まで出てきた。

 謎に包まれた、中学1年生時代。小春ちゃんと記憶をすり合わせたら、真相が明らかになるのだろうか?


 9月某日。私は小春ちゃんとランチをしていた。新婦友人スピーチをお願いされてから、初の対面。そして恐らく、次に会うのは結婚式だろう。

 小春ちゃんはまず、スピーチを頼むに至った経緯を教えてくれた。新郎には、仲の良い友人が2人いる。過去に片方が結婚した時、もう片方が友人スピーチをしたそうだ。それを聞いて「自分もこの人にスピーチをしてもらいたい!」と思ったのだという。新郎が友人スピーチを希望したが故に、小春ちゃんの新婦サイドからもスピーチする友人を出さざるを得なかったというわけだ。私が断ったら、各テーブルで数名にコメントを求めるようなテーブルスピーチでも良かったらしい。

 そっか。そういう事情があったんだ。小春ちゃんが、どうしても私にスピーチして欲しかったわけじゃないんだ。肩の力が抜けたのは、安堵だったか、落胆だったか。


 そして、話の途中、小春ちゃんは事もなげにこう言った。

 「新郎側の参列者が多くてさあ、私の方が少なかったから、まだ60人行かなかったんだけど〜……」


 えっ!?それはつまり、50人は超えてるってこと?

 ……終わった。そんな大勢の前で話すなんて無理だ。


 小春ちゃんサイドの参列者を考えてみよう。親御さん、お兄さん夫婦、中高時代の友人、大学のサークル仲間、職場の人……多く見積もっても15人くらい。

 

 つまり、新郎サイドと新婦サイドが3:1くらい!?

 ……終わった。完全アウェーじゃないか。

 私は心の中で白目を剥いたのだった。

 

 ***


 披露宴の開始から友人スピーチまでの段取りを大まかに聞いた後、私は小春ちゃんに中学1年生時の記憶を問うてみることにした。

 「あのさ、小春ちゃんは、私とどうやって仲良くなったか覚えてる?」

 「それは同じクラスだったからでしょ?」

 「そうなんだけど、もっと詳しい部分だよ。まず入学してすぐ、私はマイコプラズマ肺炎で休んだでしょ?」

 「えっ?そうだっけ?」

 

 ……なんと、小春ちゃんは、私がマイコプラズマ肺炎で休んだことすら覚えていなかった。同じクラスだったオタク友達ですら、初日から長期欠席した子がいたのは衝撃的だったと言って覚えていたのに。なんだか拍子抜け。いや、私からの感情の湿度が高いだけで、小春ちゃんはこうやってあっさりしたところがある。別に不思議なことではなかった。


 「じゃあ、手紙は?私は小春ちゃんから手紙を貰ったんだけど、それに返事をしたかは分かる?」

 「うーん、手紙なんて書いたっけ?でも、なんか貰ってる手紙はあったかな〜」

 

 うわぁーっ、それ、たぶん私が書いた返事だ!

 無視してなくて良かったけど、書いてたら書いてたで恥ずかしいな!

 

 今度読み返そうかな、と言うので、読まずにそのまま燃やして下さい、と言っておいた。私のことだ、どうせ汚い字で意味分からんこと書き殴ってるぞ。


 2人で話せば当時の記憶が蘇るかと思いきや、双方覚えていないということが分かっただけだった。

 それにしても、今の小春ちゃんが手紙の内容を覚えていないのは、「本当の友達」で悩む必要がなくなったからなのかな。

 私が「本当の友達」になれたから?

 ……残念ながら、それは違うだろう。「本当の友達」たりうる資格がないのは、私自身が一番よく分かっていた。なぜなら、私は全てにおいて受け身だから。


 昔も今も、小春ちゃんにはたくさんお世話になっている。本当に、お世話になりっぱなし。テストにおいては、手製のプリントを配ってもらい。苦手な数学や化学を教えてもらって。ご飯や旅行も、全部小春ちゃんの方から誘ってくれて、手配してくれて。

 私はただ後ろを着いて歩くだけ。16年もの付き合いがあると言っても、ただ長いだけ。私は小春ちゃんに何もしてあげられていない。中高の部活動の友達、大学のサークル仲間の方が、よほど濃い付き合いをしているのではなかろうか。

 ……ならば、逆に考えてみよう。もしもテーブルスピーチだった場合、何人かが同じくらい話すから、私は「小春ちゃんの友達のひとり」でしかなかっただろう。でも今の私は、小春ちゃんの友人スピーチをやる、たったひとりの人物だ。それを成し遂げたら、少なくとも参列者は私を「小春ちゃんの一番の友人」と認識するだろう。

 

 どうしてそこまで小春ちゃんの一番にこだわるのかって?

 私が一目惚れした女の子だからさ。


 そうだよ。惚れた女のために腹括るのが漢ってもんだろ!男じゃないけどさ!

 スピーチを成功させたとて、得られるものは小春ちゃんからの評価ではなく、第三者からの評価だけかもしれない。だが、このスピーチこそが、小春ちゃんの「本当の友達」になれる活路のような気がするのだ。

 そんな大層なことを考え、心の中の漢気を奮い立たせる9月だった。

読んで頂きありがとうございます!

至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ