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【8月】小春ちゃんってどんな人

 16年来の友人・小春ちゃんから、結婚式での新婦友人スピーチを頼まれた私。

 「私と小春ちゃんとの関係を表すエピソード」を探すも、初めて出会った中学1年生の記憶がほぼ無いことに気づく。他の中高時代の友人からも当時の話を聞けば、新たに思い出せることがあるかもしれない。


 夏のある日、私は中高時代の友達2人に会った。一人は、私に漫画やボカロの面白さを教えてくれた、いわばオタク友達。もう一人は文芸部に入っていて、創った物語や俳句を読ませてもらっていたので、文芸友達とさせてもらおう。

 最初に尋ねたのは、2人にも結婚式で役割があるのか、ということ。特にオタク友達は、私と違って大学も小春ちゃんと同じ。さらに大学のアカペラサークルでは、同じユニットに所属していた。彼女の方が、小春ちゃんとの在学期間は長いのだ。しかもこのオタク友達、高校では放送部のアナウンスのエースとして活躍していた。スピーチにはもってこいの人材ではないか。そのため、私なんかをスピーチにあてるということは、彼女は司会などのハイレベルな役割を任されているか、もしくは大学時代の仲間たちでアカペラを披露する余興があるのではと考えたのだ。

 これだけずらずら予想したものの、結果は「何もない」とのこと。文芸友達は招待を受けたものの、仕事の都合で参加できず。オタク友達は参加のみで、アカペラの予定は無いとのこと。

 そんな!私だけ!?何で私なんだよ〜!てかオタク友達がしてよ〜!……という内容を、2人にはさんざん聞いてもらった。

 

 そして、肝心な「私と小春ちゃんの初めての出会い」についてだが、こちらも2人とも覚えていなかった。考えてみれば、そりゃそうだよな。私と小春ちゃん、2人きりの思い出なんだから、他の人が知ってる可能性は低い。

 追加情報を得られぬまま、暫定スピーチ内容を、2人に披露。小春ちゃんがテスト範囲や提出物のまとめを作って配っていた話をすると、「あぁ〜!そんなことあったね〜!」と2人が反応。

 小春ちゃんといえばこのエピソードしか無いだろうと思っていたが、意外とそうでもないようだ。それなら、私がこのエピソードをチョイスして披露する価値って、自分で思うほど低くはないのかもしれない。

 

 しかし、スピーチに「優しさ」を多用しているとの指摘が入る。優しい小春ちゃんは、病み上がりの孤独な私と仲良くなってくれた。小春ちゃんは、手製のプリントを配る優しさがある。そして優しい小春ちゃんにぴったりな、優しい雅紀さん。褒め言葉の語彙が乏しいのは、自分でも要改善だと分かっていた。

 「そもそも、小春ちゃんは優しさからプリントを配っていたのかな?」と、文芸友達。オタク友達も「私は優しいイメージってあんまり無いなぁ。むしろドライじゃない?」と言う。

 私もそこは思っていたところ。小春ちゃんは、にこやかにみんなをふんわりと包み込むような、そういった雰囲気の子ではない。むしろサバサバしていて、感情の起伏があまり感じられないような印象なのだ。しかし、クラスメイトに手製のプリントを配るのは、優しさ以外の何ものでもない。小春ちゃんはどんな気持ちでプリントを作り、配っていたんだろうな。

 「やってることは結構すごいのに、それを当たり前のことかのようにやってるのが、小春ちゃんっぽいよね」とオタク友達。「そうよね、飾らない感じ」と文芸友達。

 それだ!小春ちゃんは「飾らない優しさ」だ!

 さすが文芸部。私だけでは絶対出なかった、的確かつお洒落な言葉選びじゃないか。


 ありがたく拝借し、2人が思い出話に興じる中、スピーチ原稿に組み込む。「優しい」というありきたりの表現が、徐々に具体性を帯びた言葉に置き換わっていく。

 小春ちゃんは、最初に見ただけでは小さくて可愛らしい女の子だ。しかし、その中身はしっかりと芯があって、マイペースなところもある。だが、誰に対しても当たり前に優しさを織り交ぜることができるのだ。

 2人のおかげで、スピーチで紹介する小春ちゃんの解像度がぐんと上がった。


 最後に、オタク友達からは有力な情報も頂いた。

 彼女も中学1年生時、小春ちゃんや私と同じクラスだったのだが、小春ちゃんに関して印象深い思い出があったという。それは、教室の後方に位置する掲示板に、各々の目標や夢を書くというものだった。そこに、小春ちゃんは「この学校で心友を作りたい」と書いていたそうだ。親友ではなく、心友。心から通じ合う友達。その掲示を見たオタク友達は、中学生という多感な時期らしい、ちょっと尖ったことを言うんだな、と思って、記憶に残っていたそうだ。

 思えば、私に宛てた手紙も「本当の友達」について書かれていた。この情報のおかげで、心から信頼できる友達を欲していたことへの裏付けができた。当時の小春ちゃんにとって、それがいかに大事な問題であったかが分かる。

 結局、小春ちゃんは「心友」を作れたのかな?

 来月は小春ちゃんと会う約束がある。果たして、かつての小春ちゃんの気持ちと答え合わせができるだろうか。

 

 昔の小春ちゃんに思いを馳せながらも、スピーチ内容を固めていく8月だった。

読んで頂きありがとうございます!

至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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