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【6月】小春ちゃんとの出会い

 16年来の友人・小春ちゃんから、結婚式で新婦友人スピーチをしてほしいと頼まれた私。引き受けたはいいものの、何を話そうか?

 新婦友人スピーチの例を、ネットで漁ってみる。いくつか目を通していると、決まった流れが見えてきた。

 まず、新婦と自分との関係性を説明。次に、思い出エピソードを交えて新婦を讃える。それから新郎についても軽く触れ、最後に2人の幸せを祈って終了。

 この定型をなぞるなら、「私と小春ちゃんとの関係を表すエピソード」「小春ちゃんの良さを表すエピソード」「新郎についてのエピソード」の3つが必要になるわけだ。

 手始めに「私と小春ちゃんとの関係を表すエピソード」を考えよう。思い出再生ボタン、スイッチオン!


 ***

 

 小学6年生の私は、秋から中学受験に挑んだ。何故なら、なんかみんな受験してるから。

 私の地元には、創立10年と経たない、新しい中高一貫校があった。今では当たり前かもしれないが、当時では珍しい全室エアコン完備。寮があり、売店や食堂、自販機まで充実している。そして早くも東大合格者を輩出。さらに公立なので、私立に比べて学費が安い。そういった色々な要素から、倍率は県内でも群を抜いて高かった。

 たとえ私立を目指すにしても、中学受験の戦いは小学校低学年から始まっている。そんな厳しい世界に「友達がみんなやってるから」なんて甘い理由でポンと飛び込んだ私が受かるわけ……あったんですよねぇ、コレが。

 あっさり受かったかのような言い方だが、何もしなかったわけじゃない。秋から塾に入って、必死に頑張っていた。どんどん日没が早くなり、冷え込んできて。雪が降る中、真っ暗な道を、自転車を漕いで塾に通っていた。

 新しい学校なので過去問も少なく、データが取りにくい。それでいて気を衒った問題が多く、塾も手探りの対策で苦しんでいるようだった。

 まず、考え方や解き方を記述する算数問題。真っ白なエリアに自分で図を書き、式を連ねていく。私は公文で一問一答のシンプルな計算しかしてこなかったので、記述問題に慣れるのが大変だった。

 そして国語問題は作文。自分が筆記用具になったと仮定して、その気持ちを書け。4コマ漫画を見て、どこがどう面白いのか説明しろ。そんなトンチンカンなお題ばっかり。

 最後に面接。父の協力で、リビングを面接会場に見立てて練習した。扉を3回ノックし、開けてから失礼しますと挨拶。扉を開けながら、歩きながら、中途半端に挨拶をしてはいけない。最後尾なら扉を閉めるのを忘れずに。面接官に着席を促されてから、失礼しますと深く一礼。椅子を引いて座って、足と背筋に気を配る。質問と解答は、父がWordで色々なパターンを打ち、何度も練習した。好きな食べ物は?好きな言葉は?……もっと難しい質問もあったのに、今ではもうその2つしか覚えていない。

 急ピッチで詰め込んで、そして掴んだ栄光──その先に待つ友達は、誰もいなかった。同じ小学校で受かったのは私だけ。みんなが受けるから私も受けたのに、みんなはいなくて。私、何のために行くんだろう?

 しかし、せっかく手にした切符を捨てる勇気もなかった。私は知らない世界への片道列車に、独り飛び込んだのだった。


 迎えた入学式。当然、周りは知らない人ばかり。だが、みんなは塾や学校での知り合いがいるらしく、元気に話している。人見知りの私は輪に入っていけず、後方の席からそんな光景をぼうっと眺めていた。

 すると黒板の近くに、背の低い女の子が立っているのが見えた。色白の肌、茶色がかった髪、そしてきらきらと輝く大きな目。

 

 ……か、かわいいっ!あの子と友達になりたい!!

 

 一目惚れだった。そう、この子が小春ちゃんである。しかし、人見知りの私は小春ちゃんに話しかける勇気など無く、入学式の会場へと移動するのだった。

 式では、やけに咳が出た。咳をしても咳をしても、ロケット鉛筆みたいに次の咳が出てくるのだ。母はそんな私に怒っていた。家でもずっと咳が止まらず、やめなさい、そんな咳!とキレられる。そんなことを言われたって、どうしようもない。


 ──翌日。病院の診察室で、レントゲン写真を前に告げられたのは、マイコプラズマ肺炎。入学初日から、いきなり1週間の欠席。

 1週間後、病院を受診してから学校へ。その日は、午前中いっぱいが身体測定・体力テストだった。各々が教室やグラウンドの会場を回っている中、ぬるっと参加。いつの間にか復帰してしまったことで、クラスのみんなの前で挨拶する機会も失った。

 そして、女子というものは群れる生き物。私がいない1週間で、クラスの女子は仲良しグループが完成していた。人見知りの私もなりふり構っておられず、近くにいたグループに「一緒に行動していい?」とか声をかけていた。いいよ、と言ってくれるものの、やはり明確に距離を置かれる。本当は私が嫌なんだ。ダメだ、この子たちとは一緒になれない。そしてグループをそっと離脱。そんなことを2、3回繰り返した。


 ***

 

 記憶のビデオテープはここで停止。これ以降の記憶が曖昧なのだ。

 いや、それじゃあ困る。まだ小春ちゃんとの思い出に辿り着いていないではないか。どこで小春ちゃんが再登場するんだ?

 次に思い出せるのは、中学2年生。私は小春ちゃんと別々のクラスになってしまう。その時は、仲良しの小春ちゃんと離れることを悲しんでいた。つまり、中学1年生のどこかで、小春ちゃんと仲良くなったイベントが絶対にあるはずなのだ。

 しかし、何度記憶を再生しても、中学1年生の記憶は全然蘇らない。

 

 ──そう。私は、小春ちゃんとの記念すべきファーストコンタクトを覚えていなかったのだ。

 

 いやいや!そこが一番大事なところだろ!

 初日に一目惚れした、憧れの小春ちゃん!

 どうせ私から話しかける訳ないので、小春ちゃんの方から話してくれたはず!

 孤独な私を救ってくれた小春ちゃん!

 そこに何らかの感動的ドラマが存在するだろーっ!?


 しかし、ついぞ小春ちゃんとの出会いは思い出せなかった。これはヤバい。小春ちゃんが明確に覚えてて、私が今世紀最大の恩知らずになってる可能性がある。


 いや、まだだ。まだ慌てなくていい。

 私には切り札があるんだ。


 実は小春ちゃん、中学1年生の時に、私に一度だけ手紙をくれたことがある。どういう経緯でくれたのか、どういう内容なのかは、例によって全く思い出せないが。

 大事なものをしまう引き出しに入っていたので、その手紙の存在自体を忘れることはなかった。これは絶対に、私と小春ちゃんだけしか知り得ない出来事。ここに2人だけの感動的ドラマがあるはずなんだ!

 

 手紙を引っ張り出し、読み返す。

 小春ちゃんも、同じ小学校から上がった友達はいなかった。知らない子たちが話しかけてくることが書かれている。

 みんなは、小さくて可愛いって言ってくる。でも、それはちびっ子扱いされてるようで嫌だ。そんなこと言われたくない。そんなこと言うのは「本当の友達」じゃない。言わないのはあなたと○○ちゃんと○○ちゃんだ。だからあなたはずっと「本当の友達」でいてね。

 

 ……マズい。それこそ私は、小さくて可愛いで一目惚れしてるんだが!?

 当時13歳から、現在29歳。下手したら16年越しの絶交なんてことが……!

 心がざわめきながらも、手紙を最後まで読む。


 これは私が本当に真剣に思ってることだから、なるべく早く返事を下さい。

 

 ……返事?なるべく早く!?

 私はカーペットにへたり込み、頭を抱えた。

 

 嘘だろ……私、あの時どうしたんだ!?

 手紙で渡されたのだから、メールアドレスを交換する前の出来事なんだろう。でも私は、手紙を書いた記憶も無ければ、特別そんな話題で声をかけた記憶も無い。


 うわぁ、放置したのか?

 過去の私よ、これを放置したのか!?

 過去の小春ちゃん、ごめーん!!


 罪悪感を抱えるばかりで、私のスピーチ原稿作りは一向に進まない6月だった。

読んで頂きありがとうございます!

至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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