土偶が来たりて針で突く。 *術後の状態について書いています。苦手な方はご注意下さい*
! どんな風に痛かったか、筆者が感じたままに書いています。苦手な方はお気をつけ下さい !
早いものでもう十二月。
先日、二回目の術後検診を終えまして、目薬の種類が増えた大高です。
先月末辺りからどうにもこうにも目頭がムズムズ痒くて、でもチューブが怖くて触るに触れない。で、相談してみたところ、G先生曰く『チューブ=体にとっては紛れもない異物だからね、痒くなる人もいるよ』との事でして、抗アレルギー系の目薬が追加されました。
以来、朝晩ちゃんちゃん点してますが、ええ、お陰様でちょっと楽になったような気がします。多分。楽になってる。筈。……正直な処、もうよう判らん。
この痒い問題以外はどうという事もなく診察はあっさり終わったのですが、とは言いましてもですね、この術後検診もそこそこ恐怖心を刺激されるものでして。
たかが診察で何を怖がるって、注射器が出てくるところ。
涙道の状態を確認しなきゃならないという理由でね、注射器でチューブに生理食塩水をぶっこまれるんですよ……。
目頭に迫り来る注射針はなるべく直視しないようにしてるんですが(先生の指示で明後日の方向に黒目を向けてたりもする)それでも持たされてるツヤピカのステンレスのトレイにボンヤリ移り込んでたりするので全く見ないという訳にも行かず、しかも物理で痛かったりもしますもので(目の縁から内部に向けて、文字通り針で刺される感じがするんだこれが)年内にもう一回同じ検査をするのが今からちょっと憂鬱だったりします。
先生が『痛い時は遠慮なく言ってね』と仰るのを良いことに、全く堪え性なく痛い痛い訴える事にしているんですが、しかし訴えた処で検査をしないという選択肢は無いのが辛いところ。
それに加えて、今回から『チューブの入り加減を朝晩自分の目で確認する』という新たな任務が課されまして、これがまたやるたびに背筋が寒い。
チューブに付けてある印がズレていってないか(つまりチューブがアンバランスに体内に引き込まれて行っていないか)を確認しろという事なのですが、―――上手く見えないんだなぁコレが。
何しろモノ自体が半透明。そして直径一ミリあるかないかというソレが目頭の粘膜にほんのちょびっとだけ顔を覗かせているだけなので、裸眼になり、かつ相当真剣に目を凝らさないと識別できないんですよ。
そして肝心の印がまた『……ゴミ?』みたいな極小の黒っぽい三角形なので非常に視認し辛いうえ、そもそも大高の視力が低いものだから、鏡に顔面くっつける勢いで見入らないと全く判らない。
結果、出来れば見たくない己が患部を朝晩ガン見する羽目になりまして、あーもー見えないし見えたら見えたで背中がぞわぞわするーーー! を繰り返している次第です。ああ早く解放されたい…………。
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さて今回は、術後、麻酔が切れてから退院までの事を振り返ろうと思います。
術後の痛みや不快感についての話ですので、苦手な方はお気をつけ下さい。
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這う這うの体で戻って来て倒れ伏した大高ですが、もうこの段階で結構イヤーな予感がしておりました。
予定の倍ほど時間が掛かったとは言え、この時点ではまだ顔面にかなりの麻酔が残った状態でした。それなのに痛い。確実に痛い。先に処置を受けた右側は、そりゃ麻酔も先に切れるだろうしとまだ理解が出来ますが、ついさっき終わったばっかりの左側までしみじみ痛いのはどうなのさ。がっつり麻酔が残ってるって自覚できる状態でこんだけ辛いっておかしくね? 今これで効果が切れたらどうなるんだ??
なので、病室担当の看護師さんが痛み止めを出すかどうか訊いてくれた際、間髪入れずに要ると答えまして、貰ったその場で飲みました。が。
結論から言いますと、この鎮痛剤は気休めでした (笑)
いやあ、この後、面白いぐらい痛かったですねぇ。特に左目。施術中から変に痛いと思ってましたが、それもむべなるかなで、この数時間後に説明して貰えましたが眼球表面に傷がついてたんですね。
手術が長時間になってしまった為、ほぼ開けっ放しだった眼球が乾いてしまい、擦り傷が出来ちゃった。その事には執刀医であるG先生は気が付いてらして(ええ、脳と口が直結していたわたくしが執拗に痛みを訴えましたから)術後に軟膏を入れ眼帯で保護しておいて下さってたんですが、これがねえ、そんなもんじゃ全然抑えられなくて。
目を閉じてようが開けてようがお構いなしにデカい砂が眼球表面をゴロゴロ転がり続けてる、と言えばお判り頂けますでしょうか。或いは何者かが先の鈍い針でもって絶え間なく眼球を触りに来ているとでも言いましょうか、とにかくもう、居ても立っても居られないというのはこの事かというくらいツラかったです。
痛みゲージで考えれば、開腹手術の後で麻酔が切れた時の方が何倍だかキツかったのは間違いない、しかし何と申しましょうか痛みの質が明らかに違うんで、必要とする忍耐力も違うんです。目頭の切開の痛みや眼窩から額にかけての圧迫されるような鈍痛を遥かに凌駕して、眼球表面のゴロゴロチクチクが耐え難い。眠れば少し楽になるかと思いきや、そもそも痛くて眠れないし、時間の経過と共に楽になるどころか、いよいよ麻酔が切れて本格的に痛くなってくる始末で、遂には横になっている事すら辛くなってしまいまして。
結局、二時間ちょっとで音を上げました。
通りすがりの看護師さんを捕まえて苦境を訴えたところ、G先生は無理だが手の空いている外来の先生になら診て頂ける運びになりまして、入院棟から外来棟まで車椅子で連れてって貰えることになりました。
いちいち看護師さんの手を煩わせるのは申し訳なかったですが、何しろ顔面が腫れあがってて目が開かないので、視界が狭いやら鼻から上が全部痛いやら熱っぽいやら鬱陶しいやら平衡感覚も可笑しいやらで、自力での長距離移動が大変に心許ない状態でした。で、ああ減量しておいて良かったなーとか思いながら全てお任せ状態で運んで貰って待つこと暫し。
外来の先生が点眼麻酔を入れて下さって劇的に楽になったんですが、続けて点せるものではないのでコレが切れたら後は耐え忍んで下さいと言われて絶望的な気持ちで (笑) 戻った病室で魂を飛ばしておりましたらば。
何と、とっくに夕食も終わってますがという時間になってから、G先生が病室まで来て下さったのでした。
―――これには正直びっくりしました。いま外来が終わったから様子見に来たよってセンセイ、もう十九時半ですけど?! こんな時間まで外来ってやってんの??! と開かない目を剥いている大高を、『左の眼球が痛いんだって? まだ痛い? ちょっと見せてみ?』とか言いながら同じフロアにある診察室まで連れて行ったG先生は、念入りに患部を確認・手当してくれただけでなく、『見事に腫れたねぇ。冷やすとちょっとは楽になるから』とナースステーションで保冷剤とタオルを調達してくれたうえ、大高の足取りが覚束ないと見て取るやご自身で病室まで送り届けてくれまして、いや、ほんと、何て良い先生なんだと思いました。
だって、ナースステーション前で話してたんですよ、我々。看護師さんがその場に何人も居たにも関わらず、『ハイこっちこっち』とか言って先導してくれるって、こんな時間まで働いた後で……と涙が出そうになりました。
『今日当直だから。何かあったらすぐ呼んでね』と言い残して飄々と去って行く先生の後ろ姿を、マジで拝みました、わたくし。後光が差してると思いました。あんまりちゃんと見えてなかったですけども。
その後は音楽を聴いて気を紛らわせつつ、貰った保冷剤で顔をアイシングし続けましたが、まあそんな簡単には腫れも痛みも引く訳が無い、というかどんどん酷くなっていく気しかしなくて、遂に好奇心に負けまして。
消灯前、トイレのついでに鏡でじっくり己の顔を観察し、面白すぎて大笑いしました。
この時はまだ左は眼帯で塞がれてましたので確認できたのは右半面だけでしたが、いや凄かった。眼窩全体がドス赤紫に腫れあがり、通常時の四分の一くらいしか瞼が開いてない。よく漫画で泣き腫らして目が肉まんみたいになってる絵がありますが、リアルでアレ。全体的に浮腫んだ顔の中、よりぽんぽこりんに膨れた瞼に糸目が埋もれてまして、どこからどう見ても遮光器土偶。
本当にこんなんなるんだなあ! と独りでゲラゲラ笑ってから、いきなり正気に返って今度は不安になりました。
実はわたくし、術後にこうまで酷く腫れあがるとは完全に想定外だったのです。
―――明日の午前中に退院ってことは、この顔のままで帰るんだけど……明日までに周りがちゃんと見えるようになるかコレ??
大高の裸眼視力はかなり低い。よく見知った場所ならともかくも、来る段階で迷子になりかけたような大病院から自宅まで、眼鏡もナシで独りで帰れる気がしません。しかし連れ合いはどうしても休めない仕事が入っているため、送迎は頼めない。どうにかして自力帰宅せねばならないのだが、この糸目の視界のままでは心許ないにも程がある。
―――あ、しかもサングラス持って来るの忘れたじゃん。てことは、この色とりどりの土偶顔を晒してバスと電車を乗り継ぐんだ??
うーん、それは流石にこのオバチャンでもちょっとハズカシイ、というより、多分に周囲をぎょっとさせる。我ながらかなり不気味な顔です、病院から出ているバスの中なら察して貰えるにせよ、着いた駅から先が問題ではなかろうか。
―――タクシーか……。結構するだろうなあ、ここから家までだと、ていうか、また迷われたら面倒なんだよなあ…………。
小金を惜しむ訳では無く、タクシーには乗りたくない理由がある。それは以前、やはり目の治療後に裸眼で乗らざるを得なくなり、ナビを使えと言ったにも関わらず大幅に道に迷われて、言い訳しまくる運転手に無駄に連れ回されるというメに遭ってるから。
再び迂闊な運転手に当たると決まったものではありませんが、それでなくとも辛い術後、要らぬイライラを背負わされるのは出来ればご免こうむりたい。
斯くなる上はと、せめて朝までにちょっとでもマシになれよと念を込めてアイシングを続けましたが、これがサッパリ。相変わらず左眼球の傷はズキズキちくちく不愉快だし、両瞼の内側から鼻筋、頬骨に掛けてはミシミシと軋む。瞬こうものなら漏れなく引き攣れと刺し込みが来るうえ、何故か右の下顎までもが鈍痛を以て存在を主張し始めたお陰で、眠くもならない。
そのまま悶々と一夜を明かしましたからね。
翌朝の大高の顔面たるや、そりゃもうぱっつんぱっつんに浮腫みましたとも。
しかし、術後の経過そのものは順調でしたので、簡単な検査の後、めでたく退院許可が出ましたので。
わたくし、絵に描いたような土偶顔(マダラかつ派手な内出血痕アリ)のまま、帰宅することになったのでした―――当初の予定通り、バスと電車を乗り継いで。
痛覚には、相当な個人差があると思います。そもそも主観的な話ですしね。
なので、同じ処置を受けても全然平気、という方もいらっしゃる事でしょう。殊に大高の病状はG先生をして何回も切開しなければならないくらいには頑固な閉塞でしたので、そら腫れるに決まってる。
なので同じ涙小管形成の手術をした患者さんが全員土偶になるとは限らないと思います。
ただ、運が悪いと内出血するのは間違いないと思われますので、もし同じ処置を受ける方がいらっしゃいましたら、保険でサングラスは持ってっても良いかも知れないです。もしくは鍔広の帽子。




