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予定所要時間が一時間だなんて聞いてない。 *手術内容に触れております。ご注意下さい*



!!! 今回、手術内容にもろに触れます。ご注意を !!!





 お立ち寄りありがとうございます。


 術後、三週間が過ぎたという今になっても、相変わらず目薬を点すのが下手な大高です。


 ヘタすぎて予備に貰った筈のモノまで封を切る羽目になりまして、しかもそれすら眼球から溢れかえらせては着々と無駄にする有様。


 一体、いつになったら上達するんだろうか。


 G先生曰く『どうしても苦手だったら家族にやって貰うと良いよ。旦那さんなら、それもまた良いコミュニケーションにもなるってもんだし』とのことだったので、試しに連れ合いに持ちかけて見たところ、たいそう面白がってやる気満々。


 なので任せてみましたら、これがあなた、身長差があるのが災いしてか、正しく二階から目薬状態となりまして、どうやったって入りゃしねえ。余計に薬液を無駄にする結果になりましたので、それっきりとなりました。


 それで思い出したのが、親の介護をしていた頃のこと。請われるままに目薬も点してやっていましたが、そう言えばあれは両者どちらかでもちょっとでもびびったら大抵失敗するもんでした。今回はどっちがどうとか言いませんが、もう二度と頼まないという事だけは明記いたします。定まらないナニカが眼球の上をふらつくのって、なかなかに背筋が寒かったので。



 *


 さて今回は、いよいよ手術そのものを振り返ろうと思います。


 思い出すまま、割と赤裸々に感想も述べますので、そういうのが苦手な方は、どうぞここでお引き返し下さいまし。


 *


 入院当日。

 相変わらず洟っ垂らしの大高は、何と一時間近い余裕をもって病院に到着しました。


 路線バスで行くしかないうえ朝九時までに来いとの事でしたので、通勤ラッシュに巻き込まれ、すし詰めのバスで缶詰になるのを恐れての時間前行動だったのですが、これは流石に早すぎました。院内のカフェで時間を潰すこと暫し、それでも二十分ばかり早く入退院センターへと向かい。


 諸々の手続きを済ませまして、広い院内を若干さまよいつつも、無事に病室に辿り着きました。


 荷を解き着替えも済ませ、いよいよか……とどんよりながらも覚悟を決めようとしていた大高の下に(往生際が悪い)看護師さんがこの後の予定を説明しに来てくれたのは良いんですが、ここでわたくし、予想だにしていなかった内容に目を剥くことになります。


 ―――手術の予定所要時間がまさかの一時間。


 いやあの、そんな掛かるとか聞いてないんですが。

 それはね、片目を洗浄して貰った時よりは掛かるだろうとは理解してましたが、よもやそんなに長いってか。


「……何故にそんなに……?」


「飽くまでも予定ですので、恐らくもっと早く終わると思いますよ」


 半笑いしか出ない大高に、看護師さんは優しく言い残して去って行きましたが、ちょっと待って、マジで一時間は厭なんですけど。今までの人生で断トツでイヤだった処置が眼球への注射なんですが、それでもアレは注射自体はものの数秒。手術室に入ってから出るまでだっても精々がとこ二十分くらい、それですら何度やろうと都度新鮮な恐怖で心拍も血圧も上げ放題だったというのに! 局麻で顔面弄られるのに一時間も耐えろってか!!


 茫然としておりましたら、次は『眼科の者です~』という声と共に、若い男性医師がやってきました。


「大高さんですねー。ご本人確認のために生年月日とフルネームお願いします。―――はい、では手術の確認をします。今日はどちら側の目を手術されますか?」


「両目です……」


「はい、正解です。では間違いが無いように(しるし)をしますからねぇ」


 ああこれ注射の時もやる奴だ、治療する側の腕に腕章つけるんだよね、という認識でハイハイと調子よく返事をしたものの―――彼が手にしているものに違和感が。

 

 ―――どう見たって油性マジックにしか見えないんですけど、まさか。


「おでこに印をつけまーす。失礼しますね。両目なので両側に」


 そのまさかでした。

 ニコニコと近寄ってきた彼は容赦なく大高の両眉の上にぐりんぐりんと何かを描きこみ、じゃもう少し待っててくださいねえと言い残して退出。……マジ?


 いやあの、そういうルールなら仕方無いとは思うんですけど、私この後この間抜けな顔面晒して手術室まで行くんですよね? 皆そうなんだから気にするこたないと言うのはアタマでは判りますけど、いやでもやっぱ間抜けじゃね?? だいぶ間抜けじゃね??? などと益体も無い事を悶々と考えていましたら。


 やおらG先生(真打)が登場なさいました。


「おはよう~。今日はよろしくお願いしますね。ちょっと早いんだけどいいよね、行きましょう」


「えっ、このまま??!」


 って、執刀医が自ら大高の車椅子を押して手術室に連行、くらいの勢いだったので大変びっくりしましたが(そしてどうやら先生本人は本当にその気だったっぽかったですが)看護師さんが間に入ってくれまして、トイレを済ませ、髪を邪魔にならない位置で纏め直して眼鏡も取って、などの身支度を整えまして、ああ厭だイヤだここから一時間もかよーう、とプルプルしながら運ばれて。


 施術台に乗っかり、心電計その他の機器類を装着し、リラックスして下さいねったって出来るかそんなもん、という状態の大高の顔面をテキパキと消毒しながら、G先生は優しく仰いました。


「しかめっ面してると麻酔注射で内出血するリスクが上がるから、優しーい顔で居てね」


 無茶言うな。


「まだ始めないから。リラックスリラックス。それと、処置中は胸の上に機材が乗るからね」


 つまりジタバタすんなってことですね? 判りました勿論じっとしてますとも。あ、いや待て。


「先生、私いま鼻風邪を引いてる状態でして、洟が止まらなくて垂れてきたりするんですが」


「あー大丈夫大丈夫、どんどん垂らしてて。気にしないで。でもなるべく動かないでね」


 いや気にするて。あと啜ったら動くて。そう思う傍から前日の耳鼻科医によって植え付けられたくしゃみの恐怖も脳を過りまして、まだ初っ端も初っ端、点眼麻酔の時点から全身に力が入りまくる。―――いやダメだダメだ、洗浄の時を思い出せ、強張れば強張るほどダメージもデカいと学習しただろう、脱力しろ俺!! とは思うものの、ドレープが掛かっちゃったが最後で、お話にならないくらいの緊張状態に陥りまして。


 心電計って正直だなあと思いました。モニター音が揺れるったらない。


「右から行きます。まず麻酔打つからね、ちょっとこの辺がちくっとします。力抜いてー」


 ―――で、ここから先は、いま思い返してもちょっと涙目になりそう。


 ですので、具体的な話を目にしたくない方は、次の * まで飛ばして下さい。




 良いですか。大丈夫な方だけですね。ここから書きますからね。




 ―――この施術中、ちゃんと麻酔が効いていたのは間違いないんです。でもそれって、『何も感じない』と同義では、決して無かったんですよね……。


 それなりの時間、皮膚の下を探られていることを明確に感じ取れるというのは、なかなかの恐怖体験でございました。


 切開の痛みこそありませんでしたが、開けられた涙点から内視鏡が入って来るのも判れば、たまに先生が『んー??』だの『固いねえ』だの言いながら涙道を探したり、見つけた涙道の先を探ったりしているのが逐一判る。


 で、その動きに伴い、『ぐえ』とか『うげ』とか『あイタ』とかの苦悶の訴えがこっちの口から出るんですが、そのたび『あー苦しいかーごめんねー』だの『痛い時は口でゆっくり深呼吸してねー』だの『いま入ってる内視鏡すっごく細いから。折れたら大変だから動かない動かない』だの『今なら目を閉じても大丈夫だからリラックスして』だのと宥め賺され、しかし当然ながら先生の手は全く止まらないので、ドレープの下で手をぐーぱーしながら必死で口呼吸して耐えること暫し。


 漸くG先生が『水を流すから感じられたら教えて』宣言をしてくれた時には、ほとんど死に体でした。それでも有難いことにそこからは程なく開通が確認されまして、無事に右上は確保されたんですが―――ええ、まだ四つのうちのひとつが終わっただけで、まだ下の涙道と左眼が待っている。


 マジ……?? これをあと三回やんの……???


 本気で慄く大高を余所に、G先生と助手の先生は粛々と下側の処置を開始。


 やはりそれなりの時間と苦悶を経たものの、何とか右眼の涙道は上下とも確保されました。


 が、たいてい一本で済むという涙道チューブを念の為と言うことで二本通された大高、この時点で既に魂を飛ばしておりまして、『……もう左はイイにしません……?』と本当に、ほんっとうに言いたかったんですが、当たり前ですがそんな事になる筈もなく。


 サクサクと左側に着手したG先生は、こっちは麻酔注射でパンダ化(内出血)したことを詫びるという心遣いまで見せて下さったのですが、対する大高、『もう何でも良いです……』と返すのが精一杯という体たらく―――で済めば、まだ良かったんですが。


 何処かの時点で、どうやら脳と口が直結しました。

 

 それまで漏らしていた単なる呻き声で終わらなくなっちゃったんです。相変わらず必死で口呼吸をしながらも、『何か目玉の端っこがゴロゴロする……何か痛い……』だの『いーーーででででででで』だの『キーモーいーーいいい』だの『もう鼻水なんだか通された水なんだか判んないっす』だのと思考をそのまま垂れ流すようになりまして、先生方の笑いを取っていたのを鮮明に覚えています。


 最終的には、罠に掛かったケモノの如くじたばたしていたような記憶もある。上半身は根性で固めたままでしたが、爪先で苦痛を繰り返し訴えていたような気がするんですよねえ……。


 それでも体感的には右側の半分くらいの時間でチューブが入ってくれましたので、漸く(主に先生方の)苦闘と(全面的に大高の)苦悶の時間は終わりを告げてくれたのでした。



 *



 ――――――生涯イチ長く感じた一時間だった……。


 全てが終わった時、大高の頭にあったのはこれだけでした。


 左は厳重に眼帯で塞がれ、出ている方の右目も腫れあがって開かないという状態で病室へと運んでもらっている間も、『一時間ってあんなに長いんだ……』『苦痛を感じている時の時間の流れってあんなに遅いんだ……』などという一生得られなくても良かった知見で頭の中がぐるっぐる。麻酔が残った顔面は気色悪いし、それなのに患部は痛いし、顔面全体の違和感も半端ないんだけれども、それよりも精神的ダメージの方が圧倒的に大きい。施術そのものの度合いとしては、全身麻酔で受けた開腹手術の方がよっぽどだと頭では判ってるんですが、なんともはや、ヤられた感は今回の方が確実に大きかった。


 正しく這う這うの体で病室に戻り、放心すること数分。


 ようやく連れ合いに『終わりました』メールをしなきゃとスマホを手に取り、―――目を疑いましたね。


 ――――――二時間くらい経ってね…………? 


 開かない瞼をかっ開いて見直しましたが、やっぱり合ってる。


 ちょっと待て、大高の記憶では病室を出たのは十一時半過ぎなんだけれども、ただいま現在、十三時五十八分。つまり、予定の倍くらい時間が掛かってたってことになる訳で、そりゃ長く感じる筈だよ、実際に長かったんじゃん…………。


 これで完全に力尽きて寝込んだ、までは良かったんですが。


 このあと麻酔が切れまして、熾火に焙られるが如くジリジリ苦しめられる事となります……。 

 


  


意識がはっきりしている状態で手術を受けるのは初めてでは無いんですけど、マジで一番ダメージが大きかったです……。


ただしこれは飽くまでも『大高の頑固な閉塞に於いて』かつ『自ら妙な緊張状態に落ち込んでいた』からこそ辛かった、という主観的な話です。


相当に個人差がある話と思いますので、もしも同じような手術を受ける方がいらっしゃいましたら、主治医を信じ、過度な緊張を持たずに臨まれましたら、こんな阿呆な目には合わない事と存じます。








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