ビビリ、決断を迫られる。 *手術内容に言及しております。苦手な方はご注意ください*
お目に留めて下さいましてありがとうございます。
文中、大雑把にですが、手術内容に言及しています。
苦手な方、行間を想像しちゃう方はお気を付けください。
皆様、ご機嫌いかがお過ごしでしょうか。
術後五日目の夜、フロ入りながら温めたのが効いたらしく、翌朝起きたら内出血がほぼ気にならないレヴェルまで落ち着いていた大高です。
いやびっくりしましたね。術後検診の際、G先生が『あとは温めたら良いよ』と仰ったので、おっかなびっくり試してみただけなんですが、お言葉たがわず、若干の腫れこそ残っているものの、右眼窩のどす黄色い跡は八割方消え、左も二重のラインに沿ってと目尻の辺りに赤紫の点々が散ってるものの、概ね元の色味に戻ったではないですか。
有難いことに頬骨下の迷彩柄もほぼほぼ見えなくなりまして、小鼻の横にはまだ少々の赤紫の点々があるにはありますけれども、ちょうど眼鏡で隠れる部分ですので、めでたくサングラスなしでの生活を送れる運びとなりました。ブラヴォー。
ただし、本日で術後七日め、ちょうど一週間が経過したところなんですが、未だ両目頭とも違和感というか異物感というかが残ってますし、目の下一帯が瞬きすると痛むうえ、スキンケアの際などちょっとでも圧迫しようものならイデデデデとなりますので、まだ当分の間はまともな化粧は出来なさそうです。が、そのくらいの不自由はね、もともとこの頃あんまりしなくなっちゃってたから、どうでも良し。
何よりもですね、あんだけだーだー垂れ流しだった涙が、ほとんど外に出て来なくなったんですよーーーー!!!
流石に全く出て来ないとまでは申せませんが、目頭に滲む、或いは薄っすらと下瞼に溜まる程度まで治まって来まして、いやもう快適だったらありません。
ここまで来れば、あとは何とはなし顔全体が浮腫んでるのがどうにか出来れば良いんですが―――実はひとつだけ目元がぶっ腫れて良いことがありまして、何の話かと言いますと、ほら、年齢を重ねてくると、目の下の隈が出るあたり一帯が凹んで陰が出来るじゃないですか。わたくしアレがここ一年くらい顕著に出るようになってまして、老け顔が加速して厭だなあと思ってたんですが、ええ、そらもう綺麗さっぱり無くなりましてね。
この陰が無くなると確実に顔全体が若返った感があってちょっと嬉しい訳ですが、でもこれもなー、精々あと一週間くらいの事だろうと思われますので、今のうちにしみじみ愛でておこうと思います。何せG先生、『術後だいたい二週間くらいで元の顔に戻れるよ』って言ってたもんなあ………。
*
そんな血も涙も無い、しかし冷静に考えるととても有難い事を仰るG先生は、紹介されたSt.M医科大学病院には週に二日しかいらっしゃらないと言う、たいへん多忙な非常勤のお医者様でした。
なので、紹介状をくれたYa先生の処の事務員さんからは、その限られたスケジュールの中にどうやって潜り込むかが最初のミッションですみたいな脅かされ方をされていたのですが、しかし思いのほか簡単に予約が取れまして、大高が初めて名医の診察を受けたのは十月半ばの事でした。
もんの凄く混んでる眼科外来で、まずは視力と眼圧などの基本的な検査をし、次いで本命、大高の目は所定時間内にどのくらいの涙を溢らかすのかを下瞼に挟んだ検査紙で計り。
瞼と眼球の際に紙を挟むと言うのはなかなか斬新な体験でしたが、そののち呼び入れられた診察室で初めましてのご挨拶をしたG先生の第一印象は、
―――あ、思ってたよりも全然お若い先生だ。
というものでした。
穏やかな風貌で、物言いも気さくで、ああ相性が良さそうな方だとひと安心した―――のも束の間。
G先生は実に手早く大高の両目の状態を確認してから、助手と思しき若い先生にばーっと専門用語で状態を説明し入力内容を確認し、それから大高に向き直って、本来ヒトには涙点が四か所あること、そして大高のそれは漏れなく四点全てが潰れ塞がり、きれいに無くなっているという事を教えてくれまして、なんかもう笑ってしまいました。
ある筈のモノがひとつ残らず無くなっているなら、そらアザラシ並みに涙がダラダラ出て来る訳ですよ。
「これまでにドライアイの診断を受けたことは?」
「傾向はある、と言われて目薬を貰ってましたが、本人としてはあんまり気にならない程度だったので、点したり点さなかったり、そのうちいつの間にか止めちゃった、みたいな……」
「成程ねー。結膜炎をやった形跡もあるので、多分、そのあたりも原因かなと思いますよ。で、頂いてる紹介状に因ると、右の涙道をこじ開けて流したけれどもすぐに塞がってしまったってあるし、確かにいま僕が見ても頑固そうな閉塞なので、その地元の先生と同じことをやっても良いんだけれども、あんまり意味が無いと思うんだよね」
とても穏やかな仰りようなのですが、―――なんか雲行きが怪しくないか?
「えーと、と仰いますと……?」
「涙点から極細のチューブ、涙管チューブと言うんだけど、これを鼻まで通して三カ月くらい留置して涙の通り道を確保する、ていう手術をすると、だいぶ状況が改善されるからオススメだね」
――――――出たよ。それ、絶対に避けたかった奴ですやん……。
この先生を紹介された時点で半分以上は覚悟していたものの、実際に宣告されると来るものがありましたね……。
と言いますのも、大高、最初にどやしてきたO先生から既にこの解決法を聞かされておりまして、もしも洗浄して駄目だったら次はガチでこの手術だよとの説明に震えあがり、是非ともそんな恐ろしい事にはなりませんようにと念じ続けていたのです。
だってさあ、その手術って、つまる処はですよ。
「……えーとそれは要はピアスホールを定着させるのと同じようなもんだって認識で合ってます……?」
「そうそう。通常、片目につき一本のチューブを入れるんだけれども、強固な閉塞の場合は二本挿入しておいて、状態に応じて時間差で抜いていくのね」
こんな感じでさ、と先生はモニター上でどう通すかも説明してくれる訳ですが、大高、もはや怖すぎてそれすら直視できない。
「―――それ、どうしてもやらないとダメな奴です…………?」
「まあやらずにこのままずーっと涙目を我慢するって方法もあるけどさ、いまや人生百年時代なわけで、あなた、この先も何十年とコレを我慢し続けるってぇのも難儀な話じゃない?」
――――――ご尤も。
しかし、ここで素直に手術に宜うには、到底無視できない非常に大きな懸念点がある。
「あの、そのですね、こちらへの紹介状をくれた先生がですね、一か所こじ開けて洗浄するだけでも相当苦戦してたように記憶してるんですが、そういう状態でもそのチューブって通るものなんです……?」
いま思い返せば先生の技量を疑うような、大変に失礼な事を言ったもんだと反省しきりですが、この時の大高はもう『やりたくねえ』しか頭にありませんでしたので、ぽろっと口から出ちゃった。
そしたら、G先生たら何とも不敵に微笑みまして。
「僕はその地元の先生がどんな方か直接存じ上げないから、こんな事を言っちゃあアレだけれどさ、敢えて言うとね―――回転寿司と銀座の回らない寿司屋くらいには差があると思ってくれて良いですよ」
………あ、そういう???
その宣言に、すんごい自信家だなこのヒト、と半笑いになる気持ちも確かに湧きました。しかし、奥に控えてる若い先生が真顔でウンウン頷いてるのも見えるんだよなあ……。
「それでもね、確実に改善してあげられるとは、この場では言えません。何故なら、実際に三割くらいの患者さんはチューブを入れる余地が無かったりするから。そして、実際に手術してみないと入るか入らないか判らないので、トライしてはみたけどゴメンナサイ駄目だった、の可能性は確かにあります。でも、これまでの経験上、僕はあなたの今の状態なら治療が可能だと思うんだけれど―――どうする?」
「……ぅえ~~~~~……」
成功率七割、はまだ良いとして、この自信に満ちたG先生を以てしても試してみないと入るかどうかは判らない、つまり怖いメに逢い損も無くはないという更に厭な情報が出て来てしまって、大高、唸りました。
で、『ちょっと持ち帰って考えてから決めても良いデスカ……?』という、得意の先延ばし戦法を繰り出したんですが。
先生は、からりと笑って仰いました。
「そりゃ幾らでも考えて良いけどさ、そうすると、心を決めてからまた改めて予約を取る処からスタートだよ。僕、ここには週に二日しか来てないし、三つも四つも県を跨いでわざわざここまで手術しに来るような患者さんもいる身だしさ、早く決断するに越した事ないよ」
と笑顔で即断即決を促されて、大高、アタマを抱えました。
そりゃ次もこんなに調子よく早い予約が取れる保証なんか無いけどさあ、えええええ、マジで―――? っていや待て、まだ大事な事を訊いてない。
費用です。
やるなら当然、両目ともの手術になる訳ですが、それっていったいお幾ら万円になるんでしょう???
「そうね、大体、片目五万くらいと思ってて下さい。それとは別に、一泊二日の入院費ね」
それはつまり、黄斑浮腫の注射を二回やるのとほぼ同等です。―――そこそこ、かなり、痛いぞ無職のフトコロには。
などと悩む大高に、G先生は更なる追い打ちを掛けて来て、
「どうする? いまこの場で決められるんなら、今月末の枠もまだどうにかしてあげるけど」
待て待て、そりゃ半月後のハナシやないか!!!
「いやいや、今月末は流石にちょっと。せめてその次の月とか」
「ああ、十一月入ってすぐでも良いよ、まだ何とか出来るよ」
いやいやいやいや、即断するのがキツイっす、と訴えてるのに、何でそう急かすか、この先生!! いやしかし、このところ明らかに加速傾向にあるアザラシ状態を我慢し続けるのがツラくなってきているのは間違いなくて、だからえーとえーとえーとどうしよう、怖えんだよどう考えても、でもなぁ連れ合いも治せるならとっとと治しとこうよと言ってたしなぁ、ああああ先生が満面の笑みで早よ決めんかと圧してくるーーーーーー。
で。
圧に弱い大高、気付いたら『……来月いちばん早い枠でお願いします………』と言ってしまっていたのでした。
という感じで済し崩しに治療を決断した大高です。社畜時代から上司の圧に決して勝てなかった情けなさが、ここでも遺憾なく発揮されました (笑)
次回は入院準備についてお話しようかなと思っています。
たかだか一泊二日と言えども、何を持って行くかで滞在中の快適さがまるっきり変わるんですよねえ、ほんと。
どなたか様の何かのご参考にでもなりましたら幸いです。




