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世界樹シリーズ

世界樹を盗んだ夫と、最も強い毒

作者: Lemuria

ウケなくともこういう話が好きです

 ーバートン視点ー


「あ、あなた! これを見て!」


 妻のマリエが駆け込んできた。両手に乗せているのは、光を弾くような緑の葉だった。

 形が独特で、細い葉脈が透けて見える。こんな葉は庭でも見たことがない。


「……それは?」


「この木から生えてきたの。たった一枚だけ」


 マリエは窓辺の鉢を指さしている。もう何年も枯れたままだった木。

 そう言えばそんなのもあったな。

 全く興味がなくて忘れてたが、これはマリエが結婚し、同居する時に実家から持って来たものだ。


 マリエは机の上に置いてあった分厚い文献を広げ、指先で一つの挿絵を示した。


「ほら、これと同じ形でしょう?」


 文献に顔を近づけて覗き込む。

 図の横には大きな見出しがあった。


「……世界樹の葉?」


「そうよ。世界に三本しかないと言われている神木の葉。煎じて飲めば万病を癒し、錬金術師が扱えば死者すら蘇らせる……そう書かれているわ」


 ページの端が擦り切れている。彼女が何度も読んだのだろう。


 俺は葉と図を何度も見比べ、息を呑んだ。


「これが本当にこの木から……? 信じられん」


「木に対して愛情を持っている者にしか育てられないと書いてあるわ。毎朝かかさず水をあげていたおかげかしらね」


 マリエは嬉しそうに呟いた。


 世界樹の伝説は聞いたことがある。三本しかない、のではなく三本しか存在が許されない木だ。一本が何らかの理由で無くなると、世界のどこかの木が新たな世界樹に選ばれる。たしかそういう伝説だったはずだ。


「これも見て」


 マリエが差し出したのは、一枚の羊皮紙。


 これは鑑定書だそうだ。

 王都から鑑定士を呼んで調べてもらったという。


「結果が、これよ」


 小さい字が色々と並んでいるが、1番目立つところに大きく、真性と書かれていた。

 紙には確かに、王立錬金学会の紋章が押されている。


「……本物、なのか」


 文献と葉と鑑定書を順番に見比べる。

 世界樹の葉と言えば、これ一枚で国の財政が動くほどの価値を持つものだ。


 本当にそんなものがここにあるというのか。


 降って湧いた幸運にふつふつと実感が湧いて来た。


「すごいじゃないか! これさえあれば借金など一瞬で返せる! もう二度と生活に困ることはないぞ!」


 マリエはそれを聞いて首をふるふると横に振った。


「これは売らないわ。この葉は、お腹の子のために使いたいの」


 マリエは穏やかに言った。腹に手を添え、嬉しそうに笑う。


「これがあれば、どんな病気も心配要らないわ。それに万一命を落とすような事態になっても助かるかもしれない。……本当に良かった」


 言葉を失った。

 この葉を……使う?まだ産まれてもない子供のために?


 そんなバカな。


 これがいくらになると思っているんだ。

 売った金でどんな医者にだって診せられるだろう。

 もし死んでしまったとしても、欲しいならもう一人作れば良い。


 そんなもの、この葉の価値に届くわけがない。


「売るに決まってるだろう! 借金がいくらあると思ってるんだ! その上でもっといい暮らしができるし、贅沢もできるんだぞ!」


 思わず声が荒くなる。

 マリエもこっちをキッと睨む。


「あなたが賭け事で作った借金でしょう!これを売って、もし子供に何かあった時、売らなければよかったと絶対に後悔します!」


 言葉に詰まる。

 元はと言えば借金は自分の賭け事、浪費グセによるものだ。自覚はしている。


 だがあり得ない。みすみすこんな大金が入る機会を逃すなんてバカな真似できるわけがない。


「だがその葉を売らなかったら、これからもずっと苦しい生活を続けることになるんだぞ」


「私たちが頑張ればいいことですよ」


  マリエはお腹をさすりながら優しげにいうが、声の奥にとても強い覚悟を感じる。


「子供にその苦労を背負わせるつもりはありませんし、運命を変えられるほどの葉なら子供の運命が行き詰まった時に……使うべきです」


 返す言葉が見つからない。


 運命?


 運命だと?


 そこで死ぬならそれこそが運命じゃないか。

 そんなことより今必要な金の方が大事だ。


 心の中で舌打ちをする。


 クソ、マリエは金の価値を理解していない。子供がどうとか言ってる場合じゃないんだ。

 俺の運命の方がとっくに行き詰まっている。


「私の懐妊がわかってから、生えて来たんです。まるでこの子に対する祝福のようではないですか。」


 俺は口を開きかけて――閉じた。

 もうこの様子では、何を言っても無駄だと理解していた。


「そう…だな… 子供のために使うべき…だよな」


 机の上の文献に視線を落とす。

 ページの上で、世界樹の挿絵が薄い光を反射している。


 違う。


 違う違う。


 この葉は今までろくな事がなかった俺に対する唯一の幸運、祝福だ。


 俺の今までの不運は、この時のためにあったんだ。

 そんな俺に与えられた祝福を子供なんかのために使う方がよっぽど罪深い。


 この女はそんなこともわからないのか。


 今までの人生を耐えに耐えて、ようやく報われた瞬間だ。他の誰にも渡してたまるものか。


「ええ、わかってくれて嬉しいです」


 マリエはお腹をさすりながら言う。


「文献によるとこの葉は枯れることがないそうなので、必要になるその時まで、ずっと大事に取っておきましょう」


「ああ、わかった。」



 俺はその夜、世界樹の葉と、鉢の木を持って姿を消した。




 *  *  *


 ーマリエ視点ー



 朝の光が差し込む。


 葉が、ない。


 それに、鉢の木も。


 寝室の隅、いつも窓辺にあった鉢がきれいに消えていた。

 毎朝の習慣だった。

 枯れ木に水をあげる。それだけのこと。


 それなのに、今日はその木がない。


 代わりに、机の上に開きっぱなしの文献と、乱れた椅子。

 風に揺れるカーテンが、夜の気配をまだ少しだけ残している。



 私は部屋の中央に立ち尽くした。

 しばらく何も考えられず、ただ視線をさまよわせる。お腹の子が腹を蹴った気がして、ふと意識が戻ってくる。


 葉がどこかに落ちたのではない。鉢ごと、跡形もない。


 つまり……持っていかれた。


 誰に?


 考えるまでもない。

 犯人は決まり切っている。


 バートン、私の旦那だ。


 それ以外あり得ない。

 家を一回りしてみるが、やはりバートンの姿はない。


 夜のうちに、葉と木を持って蒸発した。

 間違いない。


 俯いて、肩を振るわす。

 声が漏れる。


「……あはは。ほんとうに、行ったのね」


 起きたばかりの声は、自分のものではないように聞こえた。

 床に散らばったわずかな土を見つめ、私はゆっくりと息を吐く。


「まったく……単純な人」


 机の端に置かれていた鑑定書を指でつまみ、拾い上げて、目の前にかざす。


 そこには、私が書いた“偽物の印章”がくっきり残っていた。雑な出来だが本物を見た事がないバートンには違いなんかわからないだろう。


「こんなものに騙されるなんてバカね」


 羊皮紙を丸めてゴミ箱に投げ入れる。


 世界樹の葉は、文献に似せた葉を探し、加工して用意していたものだ。その上で文献自体にも細工して見た目には全く区別つかないものにしている。


 そもそも毎日水を上げていても何年も枯れ木だった鉢が、急に葉などつけるはずがない。


 つまり……すべて嘘。全て偽物だ。


 そんなことした理由?いくらでもある。


 あのクズの借金はあの男名義のものだ。あんな奴のためになんで私が苦しい思いをして返さなきゃいけないのか。


 私が身ごもっているというのに、バートンは平然と愛人を囲っている。

 しかも、すっかり夢中で、私や子どものことなど興味もない。

 だからこそ、“子どものために使おう”と言ったところで、心には何ひとつ響かないと分かっていた。

 それでもあの男は、うなずいたのだ、もう持って逃げることぐらい想像がつく。


 正確には、そうなるように仕向けたのだ。きっと彼の頭の中では、愛人を連れて、葉を売り払い、新しい土地で人生をやり直す未来しか見えていないだろう。


 本物の世界樹の葉に比べれば、この家と、家にある資産なんて微々たるものだ。全て残していくとも思っていたし、残していった以上私のものだ。


 バートンが居なくなれば私は自由だ。

 お腹の中にいる子もバートンの子ではない。

 これからこの子の本当の父親のところに行く。




「上手くいったのか」


 扉を閉めると同時に、低い声が響いた。


 男、レオパルドが壁にもたれて立っていた。


「ええ、驚くほど簡単にね。あなたの方は?」


「ああ、あいつも夜のうちに消えていた」


 あいつと言うのはレオパルドの妻、カトリーナのことだ。

 クズ旦那のバートンは、カトリーナと不倫していたのだ。まあ不倫していたのは私のほうも、だけど。


 でもそれだってバートンが悪い。

 あの男の行動が怪しくて、ある夜あとをつけた。そこで辿り着いたのが、この人、レオパルドの家だった。

 その後のことは、話が早かった。お互い、裏切られた立場で、恨みの矛先も一緒だ。

 愚痴をこぼしているうちに、なぜか私まで愛人になってしまった。


 世の中、皮肉なものだ。


 まあつまり、互いの配偶者同士が密通していたという事になる。


 クズ旦那のバートンと、邪魔なバートンの愛人カトリーナを一気に追い払うために、私とレオパルドの二人でこの計画を考えたのだ。



「完全に計画通りね」


「だがいいのか?あの鉢の木、大事にしてたのだろう?」


「別にいいわ。昔、誰かが大切にしていたのを見てね。どうしても欲しくなって持ってきたものなの。『私も同じの持ってる』って言って誤魔化したけど、結局どれだけ水をやってもずっと枯れたまま。もう死んでる木よ」


 少し肩をすくめて続ける。


「それより万一あの男が戻ってきたら困るから、それに備えて早くうちの資産を移動させたいわ」


「怖い女だな」


「あら、心外ね。この子のために一生懸命なだけよ」


 お腹に手を当てながら私は言った。


 私はきっかけを与えただけ。

 こうなったのはあの男の自業自得よ。


 まあ強いて言うなら……あの男より私の方が、ちょっとだけ毒が強かったということなのかもしれない。





 *  *  *


 ーカトリーナ視点ー


 バートンは愕然として、両手で頭を押さえ込んだ。

 口の中で、同じ言葉を何度も繰り返している。


「……もう、おしまいだ」


 手のひらに握っていた世界樹の葉が、ぱらりと崩れ落ちた。

 一週間前まで瑞々しい緑を放っていたはずのそれは、今や色を失い、指先で触れると粉のように崩れた。


 本物の葉は決して枯れない。


 バートンはこれが偽物だと言うことにようやく気付いたのだ。


 私は、はぁ…とため息をついた。


 バートンはマリエに騙されていた。

 家にはもう戻れないだろうし、借金も返せない。

 この一瞬で人生が八方塞がりになったことを理解したのだろう。


 私に向かって、縋るように声をかける。


「な、なあ……俺はこれから、どうしたらいいんだ?」


 私は、一瞬口を開いたが、言うべき言葉が見つからず静かに首を横に振った。


「とりあえず、落ち着ける場所を探さないといけないわ」


 私は淡々と言った。


「これからのことは……それから考えましょう」


「どうにかなるんだろうな!?」


 バートンが声を荒らげる。


「元はと言えば、お前が『これを持って一緒に逃げましょう』なんて言い出したせいなんだからな!」


 私は一度だけ瞬きをした。

 そのあと、短く息をついて――


「……そうね」


 それだけ言って、視線を外した。

 私に八つ当たりされても困る。

 そもそもこんな葉が本物のわけがない。

 正直に言えばこんなの騙される方が悪い。


 でもまあ気持ちは理解できる。

 このまま借金が返せなければどうなるかは想像したくもないことだろう。


「そうね、じゃないだろ!」


 バートンが怒鳴った。

 髪をぐしゃぐしゃにかきむしり、血走った目で私を睨む。

 今にも殴りかかりそうな剣幕で叫ぶ。


「お前も借金の返済を手伝うんだ! 娼館ででもなんでも働くんだよ!」


 そんなことを私に言うバートンを冷えた心で見る。


 私は少しだけ目を伏せた。

 しばらく黙り込み、ゆっくりと顔を上げた。


「……わかったわ」


 なるべく穏やかに言ったつもりだけど、どう受け取られたかわからない。

 私はバートンの神経を逆撫でしたいわけではないのだ。


「とりあえず、ここに泊まれるのは今日までだから、今夜の宿を探してくるわ」


 淡々とそう言いながら、私は荷物の横に置いてあった鉢植えを抱き上げた。


「これも……処分しておくわね」


 バートンが何か言いかけたが、私は振り向かなかった。私はバートンを部屋に残して外に出た。




 そして、今私は手配しておいた馬車の中にいる。


 ふぅ、とついため息が出てしまう。


 長かった。

 ようやく、ようやく全てが終わったのだ。


 手に持った鉢を見る。


「……おかえり」


 思わずそう呟いた。




 私は長いあいだ、夫であるレオパルドからの暴力に耐え続けてきた。

 逃げても見つかるし、泣いても許されない。

 離婚を願い出ても、首を縦に振ることは決してなかった。

 骨を折られたこともあったし、暴力がバレるからと医者にも診せて貰えなかった。


 苦痛に耐え、恐怖と戦う日々。


 辛い日々の中で、私はどうしたらレオパルドから解放されるかを必死に考えていた。


 そして気づいた。


 私が解放されるには、私の代わりが必要だったのだ。


 つまり。


 レオパルドが私を手放しても良いと思うには、次の生贄が必要だった。


 次の生贄は私はすぐに思い付いた。


 マリエだ。


 私は小さい頃、マリエに世界樹を奪われた。


 この鉢の木。

 この木は本物だ。


 私が小さい頃母から受け継いだ形見、正真正銘、本物の世界樹だ。


 マリエは私のことを忘れている。20年も前の話だから無理もないのかもしれない。

 だけど私は覚えている。

 大事な母の形見を盗んだ女を忘れられるわけがなかった。


 その木を「自分の宝物」と言って笑っていた顔を。

 あの日の悔しさを、ずっと抱えて生きてきた。



 マリエがバートンの妻だと聞いたのは、バートン本人からだった。


 そもそも私はバートンに特別な感情を抱いていない。

バートンがレオパルドと賭けをしてたまたま大勝ちした時に、支払いのカタとして私が差し出されただけ。それをどう勘違いしたのか愛人扱いしていた。


それだけの関係性だ。


 だから、今後バートンがどうなろうと私は関心がない。


 だけど、マリエがバートンの妻だと聞いたとき……私は頭の中でパズルが勝手に出来上がるように、この計画を思いついた。


 レオパルドに世界樹の話をして、文献や似た葉を部屋に置いてレオパルドに目撃させるのだ。


 見た目にはわからなくても、鑑定すれば本物とわかることも伝えた。


 そうすれば逆に、鑑定書があれば本物に違いないと思わせる事ができる、と気付かせた。


 レオパルドとマリエが繋がってることなど当たり前に気づいている。そもそもレオパルドに隠す気などなかようにも思う。


 つまり、私はふたりに世界樹の詐欺計画を思いつくように仕向けたのだ。


 それをバートンに実行するとどうなるだろうか。


 あの小心者は、葉の事を私に相談しにくるだろう。ダメ押しに、一緒に逃げようと言ったなら。


 その結果がこれだ。


 私の手元には世界樹の木。


 そしてレオパルドの元にはマリエが。


 バートンにはもう二度と会うこともないだろう。


 全て想定通りの結果になった。


 だからこれから起こることも大体わかる。


 最初こそ優しいレオパルドが豹変するのはすぐだ。


 それにマリエだって相当したたかな女だ。暴力を受けたまま黙っているなんて思えない。



 私は目をつぶって息を吐く。


 私はただ、この木を持って実家に帰るだけ。


 それだけだ。


 毒の沼みたいな人間達の中からようやく抜け出せたのだ。もう二度とかかわりあいたくない。



 ふと見ると、世界樹からは小さな緑の芽が芽吹いてる。

 あんなところにいては芽を出すことすらできなかっただろう。そんなことを思いながら木をなでる。


 人間の醜い部分を見過ぎた。

 それに比べれば、植物の何と美しいことか。


 私にはこの木があればそれで十分。それが真実の愛だって構わないじゃないか。


 実家に着くまで、私はぎゅっと大事に鉢をかかえていた。



 *  *  *


 ー後日談ー



 半年後。

 私は人伝に聞いた。


 結局借金を返せずバートンは奴隷落ち。


 レオパルドはやっぱりマリエに暴力を振るい、その衝撃でお腹の子が流れてしまった。


 怒り狂ったマリエは、レオパルドを刺し殺し、今は獄中にいるそうだ。


 それを聞いて私は、心の中でつっかえてたモヤのようなものが幾分晴れた気がした。


 やっぱりそうなった。

 過去を清算出来たような気がして、なんとなく頭の片隅にだけ留めておく事にする。



 世界樹は、あれから芽吹き、葉を一枚だけつけた。 柔らかい青葉が、今、私の手の中にある。

 売る気も、誰かに渡す気もない。


 世界樹の育て方には伝承がある。


 木に対して愛情を持たぬ者には育てられない。


 それは別に世界樹がこの人は愛がある、この人は愛がない、などとやっているという話ではない。


 本当の意味を、私は母から教わっていた。


 世界樹の葉は、世界樹を育てるための肥料にしなければならない。


 葉を刻んで根元に撒くのだ。


 運命を変えるほど貴重な葉。


 何周分の人生を買えるほどの価値を持つ葉を、自分のためにではなく木のために使う。


 愛情を持っているものしか育てられないというのはそういう意味だ。


 だけど、葉を刻み、世界樹の根元に蒔いた時ふと思った。


 世界樹はマリエの元にいるときには芽を出さなかった。 

 私のところに来て、初めて芽吹いた。


 世界樹にとってはそのほうが良かったのだろう。

 自分に葉を使ってくれる人に葉を渡さなければならないのだから。


 世界樹を取り戻してからというもの、私はまるで中毒にでもなったかのように木を愛でている。


 自分で言うのも何だけど、私は毒にも薬にもならないような人間だ。

 けれどあの計画だけは、まるで何かに導かれるように動いた。


 本当に、あれは私の意志だったのだろうか。


 植物と毒は、切っても切れない関係にある。


 ――もしかしたら、この木にも、私の知らない毒が流れているのかもしれない。


 目の前の世界樹は、枝一本動かさず、ただ静かにそこに立っていた。  


 その時、窓から風が吹き込み、私の頬を撫でた。


 その風はまるで世界樹の意志が、私を労っているように思えた。








お読みいただきありがとうございました。

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続編はこちら → https://ncode.syosetu.com/n0810lf/

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バートン視点、マリエ視点までは、そうだよね〜と単純に面白かった。 お、カトリーナ視点?と読んでくと、途中までは、 うわ!バートンクズの上塗りゲスいと思い、 後半レオパルドはDV男でマリエは泥棒性悪?…
マリエも陰謀に加担したとはいえ、彼女は自分のためではなくあくまで他人(赤ん坊)のために罪を犯したわけだから 自分のためだけに動いてた男2人と同じ罰なのはちょい気の毒な気がするし、胎児殺しはさすがにきっ…
ヘイトキャラは確実に不幸になってカタルシスを得つつ、不穏さをほんのり残すような。最後は一見綺麗に終わった様に見えて実は・・・みたいな話いいですよね。 この世界樹、一見枯れ木で自分の葉のみが養分になると…
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