決闘で女をかける?馬鹿なの?
そして勝ったからとて何故選ばれると?
あぁ、貴方が無意味な賭けをした方ですね。
えぇ、無意味なあの決闘で勝ったのは一応見ましたけど。その場に呼ばれたので。
何故無意味だと?ですか。
だって何故勝手に私を賭けて決闘してるのかも不明ですし、勝ったからと言って私が貴方の所有物になる必要も感じませんし。
…所有物ではなく交際ですか、それなら尚更何故決闘なんてものしたんですか?彼の方と。
彼の方が私を?
例えそれが事実であったとしてもだからなんだと言うのでしょう?
私に直接もしくは、家を通して交際や婚約を申し込むのが定石ではないでしょうか?
私も貴方も彼の方も爵位は継がないものの貴族家出身なのですから。
まぁ実家は貴族の端くれではありますけど、既に家からは独立してますので、私に直接が正解ですけどね。
それも様々な確認をした上ですが。
それなのに勝手に貴方が彼の方と周りを巻き込んで決闘したのですよ。
そんな決闘に勝った人に、何故私が靡くと?
貴方を好きではないのか?ですか。
えぇ全く。
彼の方に対しては人として友好はありますけど、貴方に関しては興味のカケラすらありません。
何を落ち込んでいるのでしょう?
勝手なことやらかして引くに引けないのでしょうけど、私の気持ちを置き去りにしてやらかした事を私が尻拭いする必要もありませしね。
尻拭いとは?ですか。
だって貴方の気持ちを受け入れると言うことは、勝手に私を賭けた決闘で勝った貴方の尻拭いに他ならないと思いますけど?
ただ私が貴方に対して言えることは。
今後一切関わらないでください。
交際もその先の結婚もあり得ません。
ですね。
何故そこまで拒絶するのか?ですか。
勝手に賭け事に利用したのは謝るから?
終わってから謝っても意味ないですから。
無意味な行動ばかりですね。
あぁそうか、知らないんですね。
一番重要なことですけど。
まぁわざわざ言ってませんでしたけど。
何が?ですか。
私ね、既婚者なんですよ。
まぁそうですよね。
知りませんよね。
まぁ大々的に言ってるわけではありませんからね。
騙したのか?ですか。
聞き捨てなりませんね。
別に貴方に言い寄ったことないですし、貴方に媚び売ったこともないですけど?
むしろ適当にいなしてましたし。
は?自分に笑いかけた?ですか。
私が貴方に興味が無かろうと、貴方を嫌ってようと、わざわざ喧嘩売る必要もないですから適当に愛想笑いくらいしますよ。大人なんですから。
商人がお客に愛想笑いする様なもんですよ?
それくらいわからないんですか?いい年して。
え?何故結婚してることを言わなかったですか?貴方に?
籍を入れてからそこまで経ってないですし。
それに親しい友人知人と報告義務のある上司や職場には伝えていますが、貴方達が所属する騎士団の皆さんへの報告する義務はありませんから。
私の職場を通して上の方には通達されているでしょうけど、いちいち然程関わりのない貴方にわざわざ話すことではありませんから。
まぁ他の方から少しずつ夫人と呼ばれる様になっていますから、いつかは伝わったかもしれませんけど。
それに何なんですか。
今まで仕事でそちらの部署と関わった事はございますが、貴方とは個人的なやり取りしていた訳でもないですし。
そちらの職場に仕事で伺ったときにわざわざ絡んでこられるなとは思っていましたけど。
あ、あれがアピールだったんですね。へぇ。
彼の方とは恋人ではないのか?ですか。
先程も言いましたけど私は既婚者です。
そしてその相手はもちろん彼の方ではありません。
何故その様な勘違いを?
あぁ、私が個人的に渡していたものがあるからと。
あれは私からの物ではありませんよ。
えぇ、そうです。あれは私の友人からのものですので。
所謂、伝書鳩の様な役割をしていたにすぎません。
彼の方には婚約者がいますよ。
それも知りませんでしたか。同僚なんでしょう?それすら知らないって…既婚者でないのは知ってたと。
まぁいいですけど。
彼の方の婚約者は私の友人です。
私は友人からの贈り物や手紙を仕事のついでや通りがかりにお渡ししていたに過ぎません。
彼の方が街中で女性と歩いていたのを見たと。にも関わらず私とも親しげにしていたから二股はあり得ないと義憤に駆られて…ね。
それが今回の顛末ですか。
なら尚更ですが本当に意味のない決闘ですね。
街中で一緒に歩いていたのは件の婚約者である彼女でしょう。
最近、新しいカフェに婚約者と一緒に行ったと彼女から聞きましたから。
彼の方が自身の婚約者と睦まじく過ごし、婚約者の友人である私と多少話をしてても何の問題もありませんよね?
しかもね、彼の方は私の夫の親戚でもあるんです。尚更親しくても問題ないですよね。
別に触れ合ったわけでもなければ、2人きりで過ごしたわけでもない。
ただ友人に近い距離感で話しているだけなのに、勝手な思い込みで勝手な行動取って…本当に恥ずかしい方ですね。
それに彼の方に実力で勝ったと意気揚々に来られましたけど。
多分ですがかなり手を抜いて勝たされていますよ、貴方。
何故って?だって彼の方は、先程言った私の友人である“辺境伯令嬢”で且つ”次期辺境伯”が見初めた方ですから。
国防の要である辺境伯のご当主様、つまりは彼女のお父様にも気に入られているとお聞きしています。
そんな方がそう簡単に負けるとは思いませんもの。
普段の様子から察するものとかあったんじゃないですか?
武門に疎い私ですら何となくわかることを何故騎士である貴方がわからないんでしょうか?
これは憶測ですけど、決闘を公共の場で申し込まれて仕方なく受けられたのでしょう。
その場に急遽呼ばれた私と入れ違いに彼の方と親しい同僚の方が決闘の場から離れられたので、上に方に報告されにいかれたのかと。
その様子を確認されていましたから、色んな考えがあっての事でしょう。
頭に血が上って独りよがりの行動を取った貴方とは…
まぁ、それは良いとして。
そんな訳ですから私は貴方と交際も結婚もできませんし、する気もございません。
無理矢理押し通すならこちらも考えがございますので、努努お忘れなきようになさってください。
それでは失礼します。
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開口一番『なんだ?』とは。まぁ良い。
君と呼ばれているんだよ此度のことでね。
彼女は恋人ではなかったのか?
あぁ当たり前だろう。親しくしている親類の妻で私の婚約者の友人だよ?
そんな彼女を貶める様なことをする趣味はないよ。
それに僕は婚約者一筋だしね。
あぁそうだ。辺境伯令嬢だよ僕の彼女は。
だから最初に言われたことに心当たりはなかったし、何が言いたいのかもさっぱりだったよ。
いきなり決闘だなんてさ。
騎士道に反する振る舞いと言われてもそんなことしてないし、婚約者の友人を賭けての勝負とか意味がわからないからね。
まぁ仕方なく受けたけど、もちろんこんな私情の決闘など本来許されないことだからね、私の友人に頼んで上に事情を説明に行ってもらったよ。
当然だろう、決闘を受けるのも問題なのだからきちんと説明しないといけないのは。
わざと負けた?
…そうだな。彼女を賭けた勝負に勝つ意味もないからね。
コテンパンにのして勝っても良かったけど、負けた方が上手く収まると思ったからね。
まぁあんな決闘の結果なんて、君が僕に負けて物理的にボコボコにされるか、勝って彼女に精神的にボコボコにされるかの差でしかないけど。
ん?だって猪突猛進で独りよがり、言葉も上手くない君が、君が懸想している才女の彼女の口撃から逃れられると思ってないし。
実際にボコボコにされたんじゃないか?
あぁやっぱり。
でも僕も加減を間違えて君に無駄に怪我させるのもねぇ。
だから手を抜きまくって適当に負けるのが手っ取り早かったかなぁ。
あと件の彼女の鬱憤も晴らした方がいいと思って。君に絡まれて迷惑してたみたいだし。
うん、そうだ。
だって仕事や用事のついでにちょっと寄った部署で一々絡んでくる人間なんて面倒なだけだろう?親しくも無ければ用事もない相手だし。
まぁそう落ち込むなよ、これから更に厳しいことになるんだから。
こんなことで落ち込み過ぎてたら文字通りこの先生きていけないよ?
何故って?
だって思い込みで裏を取ることなく暴走して、私情だけで決闘を平気で公の場で申し込むような無鉄砲で考えなしに、誰が背中を預けられるんだ?誰が信用できるんだ?
騎士としてやってはいけないことを平気でする様な君が、そのままでいられるわけはないだろう。
今までも色々やらかしてきたんだよ、君。
次に問題起こしたら退団の可能性すらあったのに、こんなこと起こすなんてね。
あと君は運もないね、今日はたまたま義理の父となる辺境伯閣下が登城してる日だったんだよ。
すぐに事の顛末を知って激怒されているよ。
何せ娘である令嬢は僕の正式な婚約者なのに浮気女扱いだからね。
君の行動を侮辱行為として君のお父上にすぐさま抗議された様だよ。
君のお父上もお気の毒に。
そうするとどうだろう?
君はすぐさま貴族籍を抜くための申請がされた様だよ。
多分異例の速さで受理されるんじゃないかな?
まぁ君のお父上も堪忍袋の緒が切れたみたいでね、次に問題を起こしたら除籍するつもりで根回ししてたみたいだね。
すごいね、実の親にすらそんな風に思われていた君は本当に多少剣の腕が立つだけの愚か者なんだね。
ちなみにうちの部署がお飾り騎士団って呼ばれてるの知ってた?
何故って?
だってうちの部署は貴族出身の子息息女で形成されているんだよ?
もちろん実力がある者もいるし一応皆真面目に訓練してるけど、半分くらいは他に進む道がないからって所属してる人間だよ?
だからそこまで騎士としての実力が高い訳でもない。
上に行ける人間は引き抜きされていくしね。
そんな中でそこそこ優秀程度の君は一般騎士のちょっと下あたりかな?
侮辱するな?ただの一般論だよ。
侮辱行為ですらない普通に知られている事実だよ。
で、だ。
貴族籍からの除籍となった場合、君は強制的に退団になる。
何故ならさっきも言ったが僕らの所属は貴族籍のある者であることが条件だからだ。
あ、それくらいはわかっているのか。
何故貴族籍が必要なのか。
それは高貴な方々の護衛にはマナーなども含まれるからだ。
だから幼少期からそう言った作法を叩き込まれている貴族出身の子息令嬢であることが、入団の最低限の条件なのもわかっているよね?
あとは身分がはっきりしてると言う理由でもあるかな。後ろ盾と言う意味もある。
そんな所に君は所属している。
しかも君は正式な騎士なんだよ?見習い以下の模範となる行動を心がけないといけないのにね。
そんなのだから除籍されるんだと思うよ。
家からも団からも。
あぁ、ようやく自分の立場の危うさを理解したんだね。
まぁもう遅いけど。
あ、これは先程君のお父上からの早急な面会を申し込まれて会っていた時に、謝罪と共に伝えられたことなんだけど。
ん?実の息子より僕を優先した?
そんなの当たり前だろう。
迷惑を被った私や私の婚約者、家族への対応が先に決まってるじゃないか。
あと君の思い人でもある彼女とその家族もか。
君は最後…いや顔すら合わせずに…ってこともあるかなぁ。
除籍した君を野放しにするのもどうかと言うことなので、貴族籍を持たない平民が所属する騎士団への入団テストを受けさせてそれに受かればそこに。
もちろん見習いから始まって正式に所属しても下っ端で基本的に昇進はなしで。
それすら無理なら国境の警備に就かせるか、どうしようも無ければ平民として田舎にポイ捨て?って感じみたい。
あ、その場合は一応仕事は斡旋されるみたいだよ日雇い系の。
積極的に死ねって感じではないけど、根性も矜持もないなら消極的に死ねって言ってる感じもするね。
と言ってもこの処遇は今現在の君のお父上の考えでしかなくて、正式なものではない。
僕からするとお父上からの温情も入っている気もするねぇ。
ん?さっきと言っていることが違う?
まぁ武としての実力もないなら生きていくのは難しいとは思ってるのだろうけど、就職先は斡旋してるじゃないか。
最低限の生きる糧を与えてくれている。
色々葛藤があるのかもしれないね、君のお父上も。
ただ実際には僕の婚約者の家と君の想い人の家族の考えも含まれるし、騎士団としての面子やら何やらも入ってくるからこの通りになるかは怪しいかな。
まぁとりあえず上司に呼ばれてるらから一緒に来てくれる?
抵抗しても転ばせて引き摺るだけだから大人しくついてくる方が身のためだと思うけど。
そ、ついて来るんだ。
なら行こうか。
*********************
コンコンコン。
入れ。
挨拶はまぁいい。
あれから2週間の謹慎はどうだったか?
そうか、多少なりとも考え気付けたことがあるのだな。何よりだ。
この2週間で話し合われてお前の処遇が決定した。
その結果だが東の辺境伯閣下がお前の身柄を受け入れてくれるそうだ。
ん?西ではないのか?か。
あぁ、東の方だ。お前がやらかした相手、西の辺境伯令嬢の婚約者である彼が婿入りするところではない。
西の閣下が東の閣下に相談した結果、森の多い地域の方の害獣の対処係への任命となった。
害獣?そうだ、害獣だ。
人間相手よりお前の猪突猛進さはそちらの方がいいと判断された。
と言っても害獣も頭が良いから、舐めてかかるとお前は簡単に血を見るぞ。文字通り。
今の害獣対処係は高齢の方が多くてな、次代を育てる必要があってこの度お前が抜擢された。
お前の教育係になるの方は元々王都の騎士団にいた方で今はそちらに勤めていらっしゃる。
かなり厳しい上に年齢を重ねても衰えず、実績も経験も積んでいらっしゃる方だ。
くれぐれもおかしな行動は慎めよ。
害獣は弱き者を簡単に亡き者にするし、田畑を荒らせば貧しさがより深刻になる。
西の閣下ももちろん領民のために身を粉にしていらっしゃるがそれでも追いつかないこともある。
それを努努忘れずに励めよ。
実績も経験も積めばお前も1人の人間として成長するだろうし、周りからも認めてもらえるだろう。
ただの愚かな乱暴者で終わるか、それ以外の者になるかはお前次第だ。
お前もまだ運から見放されていなくて良かったな。
どういうことか?
あぁお前は知らないだろうが、お前が賭けた女性の夫はかなり曲者でな。
穏やかないい人然としていながら、にこやかな顔で苛烈な罰を与える様なタイプだそうだ。
そいつに直接今回の様に喧嘩を売っていればもっとヤバかっただろうな。
武門ではないからそう言った方面はからっきしではあるが、文官として若いながらもかなり優秀だと聞く。
そんな奴に目を付けられたら…な。
彼は今回は一歩引いて他の人の意見を尊重したらしいからそれでこうなった様だ。
彼も彼の奥方もお前が今後関わってこないなら良いそうだからな。
だからまぁ命拾いしたなと。
私としてはお前は根っからの悪い奴ではないのはわかっている。
ただ真っ直ぐすぎて周りが見えてないところはある。
そのせいで団員の中で軋轢があったのも把握している。
騎士団には向いていない様にも思っていた。
だからどうするかを上の方で相談していた。
その中で裏どりもせずに勢いでしかも他の者が見ている中で決闘を申し込むと言う行為があっては庇いきれない。
だからこう言った処分に落ち着いた。
そうか、素直に受け入れるてくれるか。
なら良かった。
今後のお前の発展を願っているよ。
少なくとも私はね。
多分お前が決闘を申し込んだ彼もな。
このお話は最初の女性の視点だけだったのですが、何となく他の目線が入ってしまいました。
最後の上司の視点は、同僚と上司に呼ばれた時に謹慎を告げられ、それを粛々と受け入れ、謹慎が終わって再度呼ばれた時のものですが時間経過をどう入れるかまだ悩んでいるものです。
相変わらず書きたいところを書いてるだけですのでまぁ色々お考えあるかと思いますがこれは続かないですね。
他の作品は別視点で続きみたいなの書こうか悩みながら途中まで書いて形にならない…
そんなのばかりですねー難しい