6、姉
「何よ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。」
美魅は頬を膨らまし、教室の隅へと逃げた夏希を睨む。
「美魅ちゃんって…お…男の子…だったの!?」
「そうよ。」
さらりと言う美魅。
「私、自分が女だって一度も言ってないけど?」
「で、でも…。セーラー服だし。」
「いいじゃない。セーラー服も、制服でしょ?だって男の制服って可愛くないもん。」
「うぅ…。」
美魅が、男の子。
信じられない事実だった。
でも、確かに“アレ”があった。触った。男の子にしかない、“アレ”が。
「ねえ、もう触ってくれないの?」
美魅は頬を赤らめ、意地悪そうに笑った。
「さ、触りません!!
男同士は、そんなことしちゃいけないんですよ!?」
「そんなの知らないもん。」
美魅は教室の隅に逃げた夏希に近づく。
「ねぇ、私のこと知れたでしょ。」
「えっ?」
「次は、私が夏希のこと知りたいな。」
美魅は再び、夏希に抱きついた。
「教えて。」
美魅は、自分の唇を夏希唇に近づける。
「夏希って、ファーストキスまだだよね?私が、初めてになってあげる。」
美魅はじっと夏希の目を見つめて、だんだんと近づいてくる──。
「…っ、止めて!!」
夏希は大きな声を出して、震えていた。
「っ、夏希…?」
「ご…ごめんなさい。やっぱり、こんなことしちゃダメです…。」
夏希は美魅から視線を反らす。
「…男だから。」
「えっ?」
「男だから、拒否したの?
私が女の子だったら、キスしてくれたの…?」
美魅は夏希の胸に顔を押し付けていて、表情が分からない。だが、寂しそうな顔をしているのは分かった。
「ち…違っ…──」
「嘘つき。男だから嫌だったんでしょ。男同士がキスをするなんて、気持ち悪いんでしょ。私のアソコを触って、汚いって思ってるんでしょ。」
「美魅ちゃん…。」
「だけど、これだけは言わせて。私、産まれて初めて男の子を好きになったのは、夏希だけ。」
美魅は顔を上げた。涙ぐんだ顔をしていた…。
「“あの日”から、私は人を好きになれなかった…。だけど今、夏希を好きになれた。絶対、諦めないんだから。たとえ、同性愛でも…。」
美魅はそう言うと、走って教室から出ていった。
「…美魅ちゃん。」
教室には、複雑な気持ちの夏希が残された。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
美魅の家。美魅の家は、よくある普通の一戸建て。
美魅は、自分の部屋のベッドで大きなパンダのぬいぐるみを抱き締めながら、横になっていた。
「夏希…。」
さっきから、夏希の事ばかり想っていた。
自分が男だということを打ち明けるのに、とても勇気が必要だった。
だけど、夏希の優しい笑顔を思い出すだけで、勇気が湧いてくる。
だから、言えた。
どんな展開になろうとも、言えた。
「夏希…。」
ギュッと、ぬいぐるみを抱き締めた。ぬいぐるみを、夏希だと思って…。
「美魅、帰ってたの?」
突然、部屋にノックの音が響いた。
「っっ!?」
美魅は突然のノックに驚き、ベッドから跳ね起きた。
「入るわね。」
ガチャッと扉が開き、女性が入ってきた。
女性は
真っ黒の長い髪。
身長は高く。
スタイルはとっても良い。
綺麗な顔立ちをしていて。どこかのモデルみたいだった。
女性は黒いスーツを着ていて、大人の女性だった。
「ミサト…お姉ちゃん。」
「ただいま、美魅。」
美魅の姉、ミサトは笑って部屋に入ってきた。
「どうしたの?今日は帰ってくるの早くない?」
「仕事を早く終わらせたの。美魅に早く会いたくて。」
ミサトはベッドに座り、美魅に引っ付いた。
「み…ミサト?」
「仕事疲れちゃったわ。美魅に癒してもらおっかな?」
ミサトは腕を美魅の腰に手をまわす。
「やっ!?ドコ触って──。」
「美魅、“愛してる”。」
ミサトは美魅の耳を舐めた。
「ゃ…やめ…。」
力が抜けた美魅は、そのままミサトにベッドへ押し倒された。
「んっ…。」
ミサトの手が、美魅の服の中に入っていく。
「ゃ…止めて…!!今日は、ヤだ…。」
美魅は涙を流して、ミサトの要求を拒否した。
「…分かったわ。今日は止めてあげる。」
ミサトは美魅の頬にキスをすると、ベッドから立ち上がった。
「今からご飯の準備するわね。今日は、ハンバーグだから。」
そう言って、笑いながら部屋から出ていった。
「っ…く…。」
ベッドの上で、ぐったりしている美魅。
──泣いていた。
「っ…助けて…夏希。」