4、好きになったきっかけ
「まったくもう!!エロ夏希!!」
校門を出て、ちょっと歩いた所で、美魅は怒った。
「…何で怒ってるんですか?」
「知らない!!」
「はぁ…。」
さっきからこればっかりだった。
すると、怒っていたはずの美魅が…。
「あっ!!そうだ夏希。
今から、駅前のデパートに行きましょ。」
笑顔で夏希に提案した。
「い、今から?」
「そうよ、今からよ。
だってまだ、夕方の4時よ。今から帰っても暇なだけよ。それに、夏希は転校してきたばかりで、まだこの町を知らないでしょ?」
「う、うん…。」
夏希はこの町に引っ越して、まだ2日しか経っていない。
だから、この町では右も左も分からないのだ。
「ってことで、早く行きましょ!!」
美魅は夏希の手を引っ張って、歩き出した。
遠くから見れば、手を繋いだカップルに見えた。
「そ、そんなに引っ張らないでください。」
「善は急げよ。」
夏希にとっては、全く善と思えなかった。
逆に、疲れたから夏希は早く家に帰りたかったのだ。
そんな夏希の気持ちを知らない美魅。とっても楽しそうだった。
「ね…ねぇ、春木さん。」
「美魅。」
「えっ?」
「私の名前、美魅って呼んでいいわよ。」
美魅は意地悪そうに笑っている。
「じゃ…じゃあ、“美魅ちゃん”?」
「ちゃん付けって…、アンタ小学生?まぁいいけど。で、私に何か言いたいの?」
「あ、うん…。」
夏希は顔を少し紅くしている。
「手、繋いだままじゃ…その、恥ずかしいかな…。」
「つっ!?」
改めて言われると、美魅もだんだんと恥ずかしくなってきた。
「ば、バカ!!」
美魅は振り払うように、夏希の手を放した。
「まったく、アンタってデリカシーの無い男ね!!」
「ゴメン…。」
子犬のように震えて、謝る夏希。それを間近で見た美魅は、キュンとなってしまった。
「ほ…ほら、早く行くわよ!!」
ちょっと照れているのか、あたふたしている美魅。夏希の前を歩く美魅、早足になっている。
「ま、待って美魅ちゃん!!」
「待たない!!」
つかつかと早く歩く美魅。照れているのを夏希に知られたくないあまり、周りの状況を見れていなかった。
だから、前から歩いてきている3人組の男達に気づくのが遅れてしまい、美魅は3人の中の1人にぶつかってしまった。
「いってーな、ねぇちゃん。」
「あ、ごめんなさい。」
美魅は、男達の目を見ずに謝った。
「はあ?お前、ちょっと態度悪くね?」
1人の男が、美魅の肩を掴んだ。
「ちょっ…触らないでよ!!穢らわしい!!」
パシッと、美魅は男の手を振り払った。
「ああ゛!?んだお前!!」
「キャッ!!」
怒った男は、美魅の胸ぐらを掴んだ。
「テメェ、調子乗ってんじゃねぇぞ!!ああ゛ん!?聞いてんのか!?」
美魅を弱いと感じた男達は、怒鳴りちらす。
すると。
「な、何してるんですか!?」
夏希が美魅に追い付いた。
「夏希…。」
美魅は我慢していたが、今にも泣きそうな顔をしていた。
「んだお前。女か?」
「いや違うぜ、男だ。多分コイツの彼氏だな。」
「美少女、美少年のカップルってか!?ガハハッ!!」
男達は美魅を捕らえたまま、笑い出した。
「何してるんですか!?美魅ちゃんを放してください!!」
夏希は男達に駆け寄るが。
「放せぇ?コイツが喧嘩売ってきたんだぜ?俺達は被害者だ。」
1人の男が、夏希の前に立ちはだかった。
「貴方達が被害者…?どう見ても、美魅ちゃんが被害者にしか見えないんですけど。」
怖かった。だけど、夏希は美魅を助けたいという気持ちが、恐怖より勝っていた。
「うるせえ!!」
「っ…がっ…!?」
突然、視界がぐちゃぐちゃになり、右頬に熱くて鈍い痛みが走った。
──殴られた。
コンクリートに倒れた瞬間、夏希は理解した。
「い…痛っ…。」
口の中を切った。血の味が口の中に広がる。
「夏希っ!!」
美魅の声が夏希の耳に響く。
「……。」
痛い。痛くて怖い。
喧嘩なんてしたことがない夏希。痛くて痛くて涙が溢れてくる。
だけど…。
「止めて!!夏希を殴らないで!!私が悪かったから!!
だから、夏希を殴らないで!!」
「やっと謝ったか。それでいいんだよ。糞女。
あー、なんか興奮してきた。コイツ、俺達で回そうぜ。胸が小さくて、無いのは仕方ないか。ギャハハハ!!」
ニヤニヤと、男達は美魅の体を舐めまわすように見ている。
「っ…く…穢らわしい…。」
「強がる女は、俺達の大好物だ。」
汚ならしく笑う男達。
美魅の胸ぐらを掴んだまま、何処かへ連れていこうとした──。
「ま…待っ…て…!!」
「あん…?」
夏希が、立ち上がった。
フラフラで、今にも倒れそうな体で立ち上がった。
「んだよ、まだ死んでなかったのかよ。」
夏希を殴った男が、再び夏希の前に立った。
「いい加減、死ねよ。」
再び、夏希の右頬をぶん殴った。──が、まだだった。
「っ…ぐっ…放してください…。」
「なっ!?」
倒れなかった。
口から血を流している。足はフラフラ。視界はぐちゃぐちゃ。
だけど、倒れなかった。
「美魅ちゃんを…放してください!!」
夏希は、殴った男に飛びかかった。
「っ…うあぁ!?」
いきなり飛びかかられ、バランスを崩した男は、後ろにおもいっきり倒れる。
そして、不幸にも…。
男はコンクリートに頭を激しく叩きつけた。
「っ…か…。」
あっけなく気絶した。
「はぁ…はぁ…。美魅ちゃんを…放して…ください。」
残り2人を睨み付ける夏希。
「て、テメェよくもやりやがったなぁ!!」
その残りの2人が、夏希に襲いかかろうとしていた──。
「こらぁ!!貴様ら何をしている!!」
男の怒号が、道に響いた。
「へっ…?」
夏希の後ろから、2人の体格のいい警察官が、走ってきていた。
「貴様らぁ!!」
「うわぁぁ!!」
2人の男は警察官から走って逃げた。
「君たち、大丈夫かい!?」
1人の警察官は男達を追いかけ、もう1人は夏希と美魅を保護しに残った。
「は…い…。」
夏希はフラフラと、崩れるようにコンクリートに倒れた。
「夏希っ!?」
泣いていた美魅は、夏希に駆け寄った。
「夏希!!しっかりして!!死んじゃやだ!!」
夏希を抱きしめて、美魅は更に泣いた。
「大丈夫。気絶しているだけだ。でも、早く病院に連れていかないと。」
すると、若い警察官の男性は、無線で何かを話していた。
「夏希…。夏希ぃ…。」
夏希の耳元で、美魅はずっと夏希を呼んでいた──。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
“夏希…。”
闇の中で、美魅ちゃんの声が聞こえる。
何だか、出逢ってまだ1日も経ってないのに。
ずっと前から一緒にいるみたい。
──“気に入らない生徒がいたら、学校から消すんだぜ。”
…そんなことはない。
まだ美魅ちゃんの事、よく分からないけど、美魅ちゃんはそんなことは絶対にしない。
美魅ちゃんは、優しい子です。ちょっと偉そうだけど…。
例えるなら…。
“仔猫”かな?
いつも一匹でいて。
誰かが近づいてきたら警戒して。でも、自分から近づいて甘えてくる。
そんな感じがします。
皆怖がってるけど。
本当は美魅ちゃん、優しい子なんだよ…。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
翌日、放課後。
誰もいなくなり、夕日が照らす教室。
「…美魅ちゃん?」
右頬にガーゼを貼っている夏希。あまりケガは無く、心配するほどではなかった。
だが、皆からは心配されて、夏希は困っていた。
そんな1日が終わり、夏希は帰ろうと思ったが、美魅に呼び出された。
“皆が帰った後、教室に来なさい!!”と、言っていた。
約束通り、夏希は誰もいなくなった教室に来た。
「美魅ちゃん?」
「遅い。」
美魅は、自分の席の椅子ではなく、机に座っていた。
「ゴメン…。」
苦笑いして、美魅に近寄る。
「……。」
美魅の顔が、紅くなっているのが分かった。
何か様子がおかしい。
まだ出逢って2日で、いつものと言えばおかしいが、いつもの偉そうな態度ではない。
ちなみに、朝からそうだった。
朝、教室で夏希は美魅に、おはようと挨拶した。
すると、美魅は“ぉ…おはよう…。”と、小さな声で返事をするだけ。しかも、顔を紅くして、口をモゴモゴしていたのだ。
「美魅ち──」
もう一回名前を呼ぼうとした夏希。だが、美魅の声で止められた。
「夏希っ!!」
「は、はい!?」
美魅は突然、夏希の名前を呼び、深呼吸をした。
「い、いい?
一度しか言わないわよ…。」
「うん?」
スッと息を吸って、美魅は言った。
「私、アンタのことが…好きなの。」
「えっ…。」
一瞬、ほんの一瞬。
2人の時が止まった。