3、放課後
夏希が教室を出てから10分経ってから、夏希は戻ってきた。
「か…買ってきました。」
夏希の手には、ペットボトル二本。自分のも買ったようだ。
「あら、遅かったわね」
美魅はお弁当を片付けている最中だった。もう食べてしまったようだ。
「ご苦労様。」
美魅はニッコリ笑って、夏希からお茶を一本貰った。
「っ…。」
夏希は一瞬、美魅の笑顔にドキッとしてしまった。
…先ほどの、男子生徒達の話を聞いたのに、ドキッとしてしまった。
──“美魅は、気に入らない生徒を、学校から消す”。
「……。」
その言葉を思い出した夏希。
「はい、お金。」
「えっ!?」
「えっ、じゃないわよ。お茶のお金よ。」
美魅の手には、130円握られていた。
この学校の自動販売機は、缶ジュース100円、ペットボトル130円で売っている。
「ぁ…ありがとうございます…。」
「何よその態度。私がお金を払わない人間に見えたかしら?」
少し不機嫌になった美魅。
「そんなこと思ってないです!!」
思わず嘘をついてしまった夏希、実は少し思っていた。
「まったく…。」
夏希は美魅を見ながら、席に座る。その視線に気づいた美魅。
「何よ、まだ文句ある?」
「な、無いです!!」
夏希は、分からなかった。今の美魅を見ていると、本当にそんなことをする人には見えなかった。上から目線で、偉そうな所もあるが、学校から消すなんて、思えない。
「どうしたのよ?早く食べなさいよ。」
「あ、うん!!」
夏希はお弁当の続きを食べて始めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
時間は過ぎ、放課後。
「ねぇ、一緒に帰らないか?」
「え?」
夏希は、オレンジ色の女物のリュックサックに、教科書など入れて、帰る準備をしていた。
そんなとき、夏希は女の子に声をかけられる。夏希のクラスメイトで、学級委員長だ。
短くて、赤い髪。
体は引き締まっていて、スポーツが得意なカッコイイ女の子。
夏希より背が高く。
セーラー服があまり似合ってないように思える。
「えっ…と」
転校初日で、クラス全員の名前と顔を覚えられる訳がない夏希は、戸惑う。
「あぁ、すまない。
私の名前は“蛍”と言う、“天水蛍”だ。」
夏希に手を差し出し、握手を求めた。
夏希は微笑みながら蛍の手を握る。
「ぁ、ボクは…─」
「雨宮 夏希。
フフッ、あんな可愛い自己紹介をされたら、誰だって覚えてしまうぞ。」
「ぁ、あはは…。」
可愛いと言われて、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか分からない夏希は苦笑いをしていた。
「本題に戻るが、夏希君、一緒に帰らないか?」
「え?別にいいですけど…。」
「よかった、じゃあ帰ろう。」
まだ手を繋いだままの2人。蛍は夏希の手を引っ張って、手を繋いだまま教室から出た。
すると…。
「な…ななっ!?何をしているの!?」
教室を出た直後、夏希と蛍は、廊下で美魅と遭遇した。
「あ…あなた達、離れなさい!!何で手を繋いでるのよ!!」
あたふたと、慌てている美魅。まるで、自分の玩具を他の誰かにとられるのを拒むみたいに。
「む、すまない。手を繋いだままだったようだな。」
蛍は優しく、名残惜しそうに夏希の手を放した。
「っ〜…夏希!!こっちに来なさい!!」
「えっ!?何で…?」
「いいからこっちに来なさいよ!!」
美魅は夏希の胸ぐらを掴み、自分に引き寄せた。
「委員長、夏希は私のパシりなの。勝手に手を出さないでもらえるかしら?」
「む?“私の”?
夏希は春木さんの“彼氏になったのか?」
「か、かか、彼氏ぃ!?んなわけないでしょ!!何で出逢っていきなり付き合うのよ!!運命の出会い意外ありえないでしょ!!」
「じゃあ、運命の出会いなのだな。」
「じゃあ、って何!?違うから!!運命の出会いじゃないから!!」
必死で否定する美魅。顔が真っ赤になっている。
「もういい!!行くわよ、夏希!!カバンを持ちなさい!!」
美魅は夏希に無理矢理カバンを持たせて、首根っこを掴み引きずる。
「あ、ちょっと!!天水さんと帰る約束が──」
「そんなの知らない!!早く行くわよ!!」
その光景を笑いながら見ていた蛍。
「今日は遠慮するとしよう。また近いうちに、一緒に帰ろう。」
手を優しく振っていた。
「は、はい。」
夏希も手を振り替えした。
「手を振らなくていいの!!ってか、委員長と絶対に一緒に帰っちゃダメ!!」
「えっ!?何でですか…?」
「何でもよ!!
そんなに1人が寂しいって言うなら、特別に私が一緒に帰ってあげるわよ!!光栄に思いなさい!!」
「光栄にって…。」
光栄に思えない夏希。
「何よ、文句ある?」
「ありません…。」
完全に言いなりの夏希。もうパシりでなく、下僕になっている。
そんな2人を見ていた蛍が、ボソッと呟いた。
「…。春木さんって、あんな明るいキャラだったかな?」