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美魅ストーリー〜end〜



「――っ、何をするのよ……まったく、この子ったら」


ミサトに飛びかかったけど……それは反射のようなモノで、何の作も無しに飛びかかっただけだった。だからミサトに……簡単にあしらわれた……。

あしらわれた私は、冷たい床へと押し付けられた。両腕を、ミサトの右手で押さえつけられ、私のお腹の上に馬乗りに乗っている。


「“お前”が……お前が愛十を……!」


「……お前?」


「愛十が転校したのは……お前が追い出したからか!」


押さえつけられたくせに、頭の中は怒りで脳が沸騰していた。冷えることもなく、燃えたぎっていた。


「何、その言い方……」


「うるさい! よくも……よくも愛十を……!」


「……私に向かって、そんな酷い言い方するの?」


「黙れ! お前なんか……お前なんかいなければ! 愛十は……愛十はいなくならなかったんだ! お前が……私から愛十を奪ったんだ!」


「いい加減にしなさい!」


バチンッと、乾いた音が部屋に響いた。そして、右頬が熱く痛みはじめた。


「私は、美魅の為にしたことなのよ!? それを……恩を仇で返すなんて……」


ミサトの顔から、完全に笑顔が消えた。笑顔の代わりに、“焦り”が見えた。


「私の為に……なんて……そんなのいらない! 私はただ……愛十と一緒にいるだけで……幸せだったのに……」


「うるさい……うるさいうるさいうるさい! 美魅には、私がいるじゃない! 私以外の女なんか、必要ないでしょ! ね、そうでしょ……美魅? 美魅は、私の恋人だよね……? そうでしょ!?」


そしてまた、ミサトは私の頬を殴った。口の中に、血の味が広がった……。そして、いっきに怒りの熱が引いた。


「……ミサトは……家族……だよ。近親相姦したって……血が繋がってなくったって……私の家族だから……恋人じゃない」


「違う……違う……違う違う違う違う違う! 美魅だって、あんなに私と愛し合ってくれたじゃない!」


「……本当は嫌だった……」


「っっ!?」


ミサトの体が、震えてた。そして、私の両腕を掴んでいた手が、いつの間にか解放されていた。

解放されたからといって……私に抵抗する力が、残っているわけではなかった。


「ミサトが笑ってくれるなら……たとえ犯されても……初めてを奪われてもよかった……。でも、本当はとっても嫌だった……」


「嘘……嘘だ……嘘よ!」


「ミサトの事は……好き」


「ほ、ほらみなさい! どんなに言っても、私が好きなのは変わらないじゃな―――」


「でも……今は……“嫌い”」


“プチッ”と、何かが切れる音が聞こえた気がした。気がした直後に……私は“殴られていた”。


蹴飛ばされた……踏まれた……頭を床に叩きつけられた……鼻血が出た……口の中をいっぱい切った。


「あぁあぁ――――――」


耳をつんざくような、ミサトの悲鳴に似た怒りの声に、私の体は動かなくなった。

そして……意識もなくなった。




★★★★★★★★★★★★★★




どれだけの時間が流れたのだろうか……。一時間……もしくは一分かもしれない。

気がついても、体中が痛みで動けなくなっていた。

そして、視界に広がったのは……ぐちゃぐちゃになったリビングだった。


晩御飯のおかずが飛び散り、割れた皿の破片も飛び散り、ソファーやクッションも、ズタズタに引き裂かれていた。椅子やテーブルも引っくり返り、蛍光灯も割れていた。窓ガラスも割れていて、風が通り抜けている。


真っ暗な、今このリビングを照らしているのは、優しい月明かりだった。


そして私は……ミサトに膝枕をされていた……。



「美魅は……私だけの美魅なの……美魅は……私だけの美魅なの……」


繰り返し繰り返し、ミサトは呟いていた。ミサトの瞳には……光も闇も無く……ただ私だけが映っていた。私だけを映し……泣いていた。


「……ミサ……ト……」


「美魅……ごめんなさい……私……美魅に……こんな……」


ミサトが苦しんでいた……私のせいで、苦しんでいた。私が……苦しませた。


「ミサト……泣かないで……」


「でも……美魅……」


「私が……側にいるから……ずっとずっと……側にいるから……」


……ミサトが、こうなってしまったのは……私の責任だと気づいた。

私がミサトを……歪ませてしまった。歪にしてしまった。

私のせいで、私の選択がどこかで間違ったせいで……ミサトを歪ませた。私のせいで、愛十を苦しませた。


ミサトは悪くない。何も悪くない。悪いのは……私。弱い私。

弱い私はミサトを弱くした。

それは……償えない罪。

だから……私はその罪を……受け入れなきゃならない。



「美魅……私のこと……“好き”?」


「っ……」


そう……全ての罪を、受け入れなきゃならない。



「好きよ……ミサト。だから……泣かないで……」




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