表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影に囚われた愛  作者: 桜鬼
3/11

第1話 閉ざされた校舎 後編

廊下を進むと、教室の扉越しに声がした。

低く、緊張した声。私の足は自然と止まった。

中から顔を出したのは、藤堂辰一――頼りがいのありそうな中年男性だった。だがその瞳には、恐怖と焦燥が混ざり合い、底知れぬ影を宿している。




「君⋯⋯も、ここに呼ばれたのか?」




藤堂さんは震える声で問いかけてきた。うなずく私に、彼は小さく息を吐いた。




「俺も⋯⋯二度と生き返れないはずだった⋯⋯」




隣の教室から、黒髪の男が顔を出す。

相模優志、37歳。スーツ姿で冷静そうだが、肩は緊張で小刻みに震えている。


「お互いに生き残りたいな……」と、呟く声が廊下に響いた。

その横では、紫原南がエプロン姿で小さく身を縮め、恐怖で目を丸くしている。


中里真奈はフードを深くかぶり、無理やり笑顔を作ろうとしていたが、目が潤んでいるのが見えた。



私たちは、全員が「殺されかけた経験」を持つ人間たち――ここに呼ばれた理由もまた、死と生の境界線にあるらしい。

息を飲み、胸を締め付けられる感覚に耐えながら、私は一歩ずつ前に進む。



廊下の奥に、黒猫と黒カラスが座っていた。赤い目を持つ二匹は、人間の言葉で何かを囁く。




「時間は限られている」


「君たち、ここでどうなるか知りたいか?」




声は不気味に、でもどこか冷静で、私の全身に寒気が走った。


藤堂さんが小声で呟く。




「ここ⋯⋯のルールって?」




黒猫がゆっくりこちらを見て答える。




「朝六時から夕方六時までが探索可能時間。

それ以外は施錠され、異形の影からは安全になる。窓を見つければ、生への可能性がある⋯⋯」


「窓?」




私は声に出して問いかける。黒カラスがくるりと羽を広げ、笑う。




「それぞれの最後に見た記憶が映る窓。だが、偽物もある。見極めを誤れば、永遠に囚われるのだよ」




胸がざわつく。何を信じればいいのか、全くわからない。

しかし、ここで立ち止まれば、すぐに影に飲み込まれる――そんな予感がした。



教室の角を曲がるたび、影が長く伸び、私たちの存在をじっと見つめている。

歩く度に、床が軋む音や、遠くで聞こえる微かなささやき声に神経が張り詰めた。


藤堂さんが「誰か⋯⋯試されてるんだな」とつぶやく。まさにその通りで、私たちは知らない間に、死の試練の中に放り込まれているのだ。



初めて遭遇した異形は、黒い影の塊のようで、人の形ではない。だが、動きは確実に生物的で、目で追うと微かにこちらを意識している。心臓が高鳴り、呼吸は速まる。




「逃げるんだ⋯⋯」




自分に言い聞かせながら、私は他の生存者たちと距離を取りつつ、次の教室へ足を運ぶ。目の端に映る黒猫と黒カラスの姿が、私たちを嘲笑っているように見えた。背筋がぞくりとした。



少し進むと、壁に掲げられた黒板に文字が浮かんでいた。




『契約は絶対。下された命は、果たせ。』




文字は手書きのように揺れ、目に焼き付く。

生と死の狭間で、私たちはすでに試されている――そう実感した瞬間、胸の奥に小さな決意が芽生えた。まだ、誰も死んでいない。まだ、逃げられる。


しかし、すぐ背後から、冷たい視線が這い寄ってくるのを感じた。

歩を止める間もなく、影は確実に、私を――私たち全員を狙っている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ