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少女が死んだ日 -聖なる世界に救いを求めて-  作者: .ukU
序章 少女が死んだ日
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第1話 胎動

お付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

彼女の不幸は生まれ持ったその善性と才覚であった。

彼女には不思議であった、何の力も持たず何の功績もない幼女の自分に、すべからく民の傅くことが。

何の働きもなく、最大級の対価を得るような不整な生活が。

彼女は考えた、幼いながらに自らの置かれた状況の意味を。

本来、それは無駄に終わる行為であったろう。しかし彼女は賢すぎた。

そして年端もゆかぬ少女はたどり着いた、ひとつの答えに。

その日、彼女の善性は死んだのだ。

レステリア王国第3王女エリシア=レステリア、聖なる時代に終焉を告げる大逆の魔女が人生の、これは始まりであった。






レステリア王宮、ここはまさに世界の中心であった。聖教を戴き、他の地域に類を見ない繁栄を享受した人々は、自身らの土地を中央世界と呼んだ。

レステリアはその中央世界の中でも四大列強に数えられる再先進国のひとつである。

そしてその心臓部は言わずもがな王宮だ。

国家の権威の象徴たる王族の政務と生活の場、そこに奉仕する侍女もまた、品格と家柄、教養を求められる誉高い職であり、彼女らは日々誇りを感じ胸を張り鼻を高くしてどこか得意気であった。

彼女を除いては。


彼女、ハンナはエリシアの部屋付きであった。

ハンナはエリシアが齢3つを数えた頃より仕えて2年半ほどになる。

その間エリシアは、彼女にとって常に理想の主君であった。

何も知らぬ者が聞けば、子ども相手に何を大げさなと思うであろう。

しかしハンナにとって、それは当然の評価であった。物心もつかぬような歳であるはずのエリシアは、幼くして優秀で、何事にも真面目、何よりも自分に仕える者たちを大切にしていた。

王族とはそも尊大なものである。

いい大人であってもそうなのだ。

この世で最も貴い人たちなのだからそれも当然である。

まして子どもなど、不遜で我儘、道理の通らぬ暴威のような存在であるのが普通であった。

その中にあってエリシアの周囲を慮る性は異様なものであったけれど、それはハンナにとって心酔を覚えさせるに足る善性であった。

彼女は確信していた。

エリシアはいずれこの国を導く偉大な王族へと成長するであろうと。

そう、いずれそうなるはずであった。

10年後か、20年後か知らぬ未来に。

それは未だ歯も生え変わらぬような幼子が背負うはずの運命ではなかったのだ。






最近のエリシアは、前にもまして何事にも懸命に取り組んでいた。

幼くしてまさに王族の模範である、などと周囲は持て囃すばかりであったが、誰よりも側で彼女を見てきたハンナには、どうにも喜ぶ気がしなかったのである。彼女の知るエリシアは、その齢からは考えられぬほどの理知を感じさせる一方、年相応の愛らしさを持ち合わせる存在であった。

ハンナに髪をとかれながら、鏡越しににこりと屈託なく笑う14つ下の少女に、不敬と思いながらも姉妹愛にも似た感情を抱いていた。

しかし、近頃のエリシアからは完全にその幼さが消えていた。

ある日、同じように彼女の髪をといていたハンナは、ひとり気づいてしまったのである。

鏡越しに映るエリシアの瞳から光が消えていることに。

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