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【連載版投稿しました!】魔術師団の団長ですが、婚約者である副団長に役立たずと言われ追い出されました。愛想が尽きたので他国でのんびり生きます。ですが、私が夜な夜な相手していた魔物は強いですからね?

作者: 海月 花夜


「君は、この魔術師団にふさわしくない! 今日限りで出て行ってもらう!」


 野外に張られた天幕の中で、私は魔術師団の副団長であるオリヴァーから追放を宣言されていた。

 この男は何を言い出すのかと思い、困惑を通り越して吹き出しかけてしまった。


「どうして?」


「君のやる気のなさが皆の士気を下げているんだ! 昼間に何もしない団長が、許される訳あるか!」


「士気は下げてないし、やる気はあるわよ。それに私は、夜中に沢山魔物を倒しているのだけれど」


 私のその言葉を聞いてか、オリヴァーの顔に強い怒りが現れる。


「そんな見張り番としての仕事だけで、他の皆が納得する訳ないだろ!」


 見張り番……ね。

 余りにも酷い言いようだった。


 確かに、やってる事は見張り番と変わらない。けれど、団長の責務としては十分する程に働いている事に変わりない。何故なら、私一人と、それ以外の者で昼に対応する魔物の総数は、私の方が多いからだ。

 それを知った上で言っているのなら、副団長の方が現実が見えていない。


「でも、代わりがいないから仕方なく」


「関係ない! お前が楽したくて、ずっとやってるだけじゃないか!」


 楽したい様に見えていたのなら、どう説明しても無意味だ。

 こいつは夜勤の辛さを知らないんだ。

 夜勤、連続通勤記録が更新されていく、あの感覚を知らないんだ。


 私クローディアは、元は日本人だった転生者だ。

 前世の生活はとにかく酷く、会社に寝泊まりする事が基本で、家に帰れたとしても短い睡眠時間を終えると直ぐに会社に出社する社畜人生を送っていた。

 そんな私も、気づいた時には過労で死んでしまい、この異世界に転生していた。


 性別が同じだった事が救いだった。

 そして学生時代に読んでいたラノベの世界に入ったかの様な感覚は素晴らしく、社畜から解き放たれた私はこの世界の魔術を徹底的に調べ試し、魔物を倒している内に団長にまで任命されたのだった。


 誰が楽したくてやるか。

 夜勤って辛いんだよ。

 のんびりお菓子食べながら、誰かと話してる方が良いに決まってるじゃん。

 夜だから、まともに話し相手も居ないのに……。


「楽して……ね。そう……思ってたんだ。ちゃんと魔物をどれぐらい相手にしてたかは、言ったよね?」


 少し怒り気味に私が問うと、オリヴァーから見下す様な冷たい視線を向けられた。


「あぁ聞いているとも、団長様が言った異常に数の多い報告数も、夜行性の魔物ばかりで大変。という可愛らしい、文言も全て把握している。君のそういうのに付き合うのは、もううんざりだ」


 あぁこの人は、私が言ってる事を信じていない。

 理由はなんであれ、団長という立場に居る私が気に入らないんだ。

 私が居なくなれば、この人が団長だもんな。


「それで、私にどうしろと?」


「自ら、辞めていただきます。これは、師団全員の意思です」


「えっ……」


 流石に悲しかった。

 話す暇はなくとも、見張り番は他にも数名居る。

 その人達であれば、この役立たずよりは私がどう戦っているかを把握している。そう信じていたのに、師団全員の意思と言われてしまった。


「婚約者であるあなたも、それで良いと思ってるのよね……」


「当たり前だ。君が居ても、もう何の意味もないからな。今や、汚点とすら言える。婚約者が何もしない団長だったなんて、恥ずかしくて肩身が狭いだけだ。お前にこの気持ちが分かるか?」


 そう高らかに話す男を見て、私は何とも言えない気持ちになっていた。


「そっか。分かった。国王陛下には、なんてご報告を?」


「安心して消えるが良い。貴方を団長に推薦した伯爵殿も、今では成り下がったただの、一貴族に過ぎない」


「なるほど、じゃあ退職……じゃない退団理由は、適当に報告しとくね」


 師団の士気低迷による問題解決のため。ぐらいにしておこう。


「あぁ、何でも良いから。さっさとこの戦地から、消えてくれ。君はお荷物なんだよ。僕にとっても、師団にとっても、邪魔でしかない」


「……そうですか、分かりました。それでは、後の事は頼みます」


「言われなくともこれまで通り、いや。これまで以上に、ちゃんとするに決まってるだろ。それぐらいの事も分からないのか? 馬鹿が」


 もう返す言葉もなかった。

 私は一人天幕を出て、静かにその場から離れて行く。


 **


 師団に入ってから宿舎で過ごしていた私の持ち物は、極端に少なかった。だからか、旅立つというのに、荷物だけで考えれば全然そんな気にならない。

 けれど、後ろを振り返って目に入る王城を見ても、既に何も思わなかった。


 ――何のために、頑張って来たんだろう。


 王都を出て、宛もなく街道を歩いていた。

 野営と戦闘なれしたからか、ゆっくりと歩くだけなら問題なかった。歩き続けていたら王都からもかなり離れ、周りに見えるのは木や草などの緑と、土の街道だけが目視出来る場所に居た。


「今って、どの辺りだろう」


 目的地も無ければ急いでる訳でもない私は、比較的というかかなり、のんびりとしている。そんな私に、森のざわめきと共に風が当たる。


「血の匂い……」


 慣れた匂いが鼻を突き刺す。

 私はペンダントに魔力を込め、瞬時に赤本よりも分厚い魔術書を取り出した。


「スペル。ライン・テレポーテーション」


 パっとページが開かれ、書き込まれた文字か光り輝くと同時に、目視で見えていた一番遠い街道に身体が移動する。


 再び街道の先に視線を向けると魔物に囲まれた馬車を捉え、直ぐに魔術を繰り返し行った。


 目で見ていた景色がガラリと変わり、馬車の上から見下ろす形で、怪我を負った数名の騎士と周囲を囲む獣型の魔物を目にする。


 魔術書のページが捲れた。


「お座り――」


 そのページが光ったと同時に馬車を除いた円状に魔法陣が現れ、獣型の魔物が体を地面吸い込まれる様に苦しそうに伏せた。


「これは一体……何が起こっているんだ……」


 突然現れた私を騎士が見上げる。


「今終わらせるから、待っていて下さい。それじゃ君たちには悪いけど、消えて――」


 たったそれだけだった。

 私が呟いた言葉に合わせ魔術が起動し、魔物の体が塵の様に消えていく。


「これで、一息つけるかな」


 魔物が一斉に消え去り、残された騎士達は起こった出来事を理解できず、固まっていた。


「貴方たちは、何処に向かってるの?」


「我々は、帝国——」


「帝国!? これから帝国に向かうって事ですか!?」


 帝国という言葉を聞いた途端に、私は馬車から飛び降りる。

 

「あぁ、そういう事になる」


 食い気味に一歩前て、騎士に近づいていた。


「でしたら——」


 私が言おうとした所で馬車の扉が開き、中から男性が降りて来る。

 降りて同じ高さの地面に立ったこの男性は私よりも背が高く、とてもスラッとしていた。整った顔立ちに、明るい茶髪の髪を清潔感のある長さで切り揃え、くっきりとした首筋が横からでも確認できる。


 綺麗な人。

 羨ましいな。


「君が命の恩人で、間違いないかな」


「そんな大げさな事はしていません。お気になさらずに」


「そういう訳にはいかないよ。助けてくれた事、感謝する」


 男性が頭を下げて、礼を言う。

 こんな礼儀正しい人がまだいたんだ。


「私の名前は、ノエル・ノーランス。良ければ、君の名前を教えてもらって良いかな」


 あれ、どこかで聞いた事あるような……。


「クロー」


 自分の名前を言いかけて、黙ってしまう。

 これでも私は、名前だけなら広く知れ渡っていると思っている。

 けれど、これからのんびり生きたいと思うなら、名乗ってはいけない。


「クロです」


 だから私は、名前を略した。


「クロさんだね」


 クロって、猫っぽいけどまぁいっか。


「はい、よろしくお願いします」


「所でクロさんは、人間だよね?」


「ん?」


 私は転生者ではあるけど、ずっと人間だ。

 それ以外になった覚えはない。


「そうですけど、どうかしましたか?」


「僕は、人の魔力を見る目で視覚的に見る事ができるんだけど、明らかに多いね。多いって言葉で片付けて良いのか、悩むほどに」


「……そうですねぇ〜人より、ちょっとだけ、多いかもしれません。でもでも、人間ですよ! 無害です!」


「さっきの実力といい、君……」


 え。もうバレるの……だったら、ちゃんと名乗れば良かったかも。


「もしかして、戦闘魔術師としての経験とかあるかな? だったら、ちょうどお願いしたい事があるんだけど、少し話せないかな。場所は帝国になってしまうから、王国からは離れ――」


「詳しく聞かせて下さい!」


 それが、私とノエルさんの最初の出会いだった。


 **


 帝国の街並みは、王国よりも建物がビッシリと並んでいて、行き交う人々は活気に満ちている。

 そんな場所で働くのでもなく私は、陽が沈む頃にダンジョンに向かっていた。


「クロ殿、今日も来ていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます!」


 ダンジョンの入口に立つ騎士が、二人揃って頭を下げる。

 私が帝国に来てからというもの、私の仕事はダンジョンから溢れ出す魔物の始末だった。昼間は冒険者と騎士団がダンジョンに入り、魔物を狩っている事で魔物が外に溢れて来る事はない。しかし、夜になってダンジョン内から人が居なくなれば、すぐに取り返しのつかない事態に陥ってしまうみたいだ。


 そこで、私の出番だ。

 なんという事でしょう、私一人で夜に見張り番と、魔物狩りをしていた者の人数をたった見張りと伝令の二人程に抑えれてしまったのです。


 正直、やってる事は一緒だった。

 けれど、ここの皆は、一度苦労しているから、私に礼を言ってくれる。

 それだけで凄く嬉しかったし、悪気が感じられない。


 それに今は――。


「お疲れ様」


「「お疲れ様です! ノエル様」」


 わざわざ、来てくれる変わり者も居る。

 ノエルさんはこうして、私の所に来ては美味しい紅茶と菓子を土産に、話をする。


 私としてはありがたいけど、それで良いの?

 っと何度も思ったことは、内緒である。


「お疲れ様です。今日は、何をもって来てくれたんですか?」


 けど何でも良いや。

 今は、甘いものとでつられておこう。


 こうして前よりも簡単で、楽しい私の夜勤は始まっていた。


 ***


 オリヴァーの居る戦地は、夜だというのに喧騒に満ちていた。

 人の話し声や怒号に魔物の発する音。

 全てが入り交じり、昼間の交代した筈の師団員はまともに休めてすらいない。


「どうなってるんだ! 見張り役は何をしているッ――」


 天幕の中で休んでいた、オリヴァーは目の前の書類を腕で払い叫んでいた。

 オリヴァー自身、クローディアを追放していらい休めてはいなかった。


「まさか、あの無能を追放して、変わったとでもいうのかッ――クソがぁッ!」


「報告します。オリヴァー団長」


「何だ!」


 天幕に入って来た者に対してオリヴァーは怒鳴っていた。


「このままでは戦線がもちません、直ちに増援を送って下さい」


 オリヴァーは怒っていようとも、もう何も言い返せなかった。

 何故なら、既に十分過ぎる人員を割いている。

 それは昼間に魔物を相手していた者と同程度か、それ以上だ。


 他の師団からも人員を送ってもらい、なんとか維持しているに過ぎない。


「何故だ……何故、こんな事に……」


 オリヴァーは全てを失ったかの様に、虚ろな目を見せる。

 このまま戦線を維持出来なければ、ただではすまない。

 それもオリヴァー自身がクローディアを追放した事で始まった事だ。


 しかし、どんなに後悔しようとも、一度失ったモノはそう簡単には元に戻らない。

 戻る事の方が圧倒的に少ない。


 この国からクローディアは居なくなった。

 それが、唯一残された真実なのだから。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。もし楽しんでいただけたのなら、下記の『☆☆☆☆☆』をタップして、【★★★★★】にしていただけると幸いです。


 皆様の応援や反応が、執筆の原動力に繋がります!

 何卒、よろしくお願いいたします。


 ――海月花夜より――



2025/07/24-08:23

┗「日間・異世界転生/転移〔恋愛〕‐短編」17位になりました!

2025/07/24-21:33

┗「日間・異世界転生/転移〔恋愛〕‐短編」11位に更新です!

┗「日間・異世界転生/転移〔恋愛〕‐すべて」32位!

2025/07/25-18:16

┗「日間・異世界転生/転移〔恋愛〕‐短編」8位です!

┗「日間・異世界転生/転移〔恋愛〕‐すべて」24位!

2025/07/26-13:00

┗「日間・異世界転生/転移〔恋愛〕‐短編」6位

2025/07/26-20:00

┗「日間・異世界転生/転移〔恋愛〕‐すべて」16位

皆様、本当にありがとうございます!

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