妖精のぼくが君にできること
妖精の男の子と人間の女の子の物語ですが、恋愛要素少なめです。
マーシャル子爵家に三百年ほど住んでいる妖精カタルは、大きさは人間の大人の人差し指くらい。
見た目は何年たっても青年の容姿をしており、髪は浅葱色をしている。
カタルはマーシャル子爵家の邸宅が建築される前の緑豊かな大地だったことからこの場所にいるけれど、二百年ほど前に子爵家の家が建てられてからは、家の中にも勝手に入っていって、人間の生活をのぞいたり、会話を聞いたりして過ごしていた。
人間にカタルの姿は全く見えないのか、目の前を飛んでみても全く気付かれることはない。
ずっとマーシャル子爵家の代替わりを見届けてきたカタルにも、今、気になっている事が一つある。
マーシャル子爵家の長女でサラと呼ばれている女の子がいる。
彼女は先日の、誕生日会をやっていたので八歳になったばかりのようだ。
カタルは彼女の笑った顔を見るのが好きだった。特に翡翠色の瞳が見えなくなるくらい弧を描いて笑う様はとても愛くるしいと感じていた。
いつものようにサラの成長を傍観してきたカタルだったが、ある時。
サラが熱を出したらしい。マーシャル子爵家に医者が出入りしていて、何だかとても慌ただしい。
先ほど、到着した医師は、昨晩訪ねてきた医師とは別の人物だ。
どうやら、高熱が全く下がらず、十日間も苦しんでいるようだ。
カタルは横たわるサラの寝台の上に飛んでいき、医師と子爵家当主の話を聞いてみる。
「先生!! ずっと熱が下がらないのはなぜですか? 薬も全く効きません!!」
「……申し訳ございませんが、原因不明です。私の手持ちの薬で効果があるかわかりませんが……」
そういうと医師は薬だけ置いて、マーシャル子爵家を後にした。
昨日も同じようなやりとりをしていたから、本当に病の原因がわからないだろう。
「サラ……辛そう……」
カタルは、ウンウンとうなされているサラの顔の横に行き、熱く火照った頬に触って、
「早く良くなりますように」と唱える。
いつも眺めているだけのサラに触れたのは、この時が初めてだ。
彼女の可愛い笑顔を早くみたいと願って、カタルはサラの傍に一晩付き添った。
翌朝。
あれだけ高熱が下がらなかったサラの熱が下がったようだ。
カタルは願いが届いたのか、薬が効いたのかわからなかったけれど、ひとまず安心して胸をなで下ろした。大好きなサラが苦しんでいる姿を見なくても良くなったからだ。
でも、なぜだかサラの様子がおかしい。
カタルも何か違和感を感じ取った時、マーシャル子爵がサラの部屋に入ってきた。
「熱が下がって安心したよ」
「心配かけてごめんなさい」
サラはマーシャル子爵に心配をかけたことを謝罪する。
(元気でいてくれたそれだけで親は嬉しいものだよ)
カタルはマーシャル子爵の気持ちを汲み取り、謝罪は不要だよと心の中で伝えておく。
「ところで……お父様? どこにいますか?」
「あぁ、サラ。ここにいるよ。体調はどうだい?」
「えぇ、楽になりました。お父様、カーテンを開けていただけますか?」
「ん? もう全て開けているから明るいと思うけれど……」
サラは、目を開けて周りをキョロキョロと見渡している。
それから、目を閉じて瞼を触ってみる。
「お父様……目が……全く見えません……」
「何だって!!」
慌てたマーシャル公爵家の当主は、再び医師に連絡をとるためにサラの寝室から飛び出していった。
「大好きなサラ……目が見えなくなったのか……」
カタルは自分の姿はいつも人間には見えないけれど、サラがこの美しい世界を見られなくなってしまったことに心を痛めた。
■■■
サラが失明をして十年が過ぎ、彼女は十八歳になった。
目が見えないから、点字の勉強をしたり、本を読み上げてくれる人を雇って、自宅で勉強するという生活を送っている。
マーシャル子爵家の近くの森には魔女が何百年か前から住んでいる。
森に住む魔女にはカタルの姿は見えているので、昔から時々、話をするために空を飛んで遊びに行くことがあったのだ。
カタルは一度、マーシャル子爵家の近くの森に住む魔女に聞きにいったことがある。
失明を治す薬は存在しているのかと。
魔女に尋ねてみると、意外にも簡単に作れるらしい。
材料を聞くと、どうやら『妖精の羽 二枚が必要』と言われる。
普通の人間は、妖精が見えないから失明を治す薬を作ることはできないらしい。
「カタル、私が他の妖精の羽をむしり取ってきてあげようかい?」
魔女は、そんな提案もしてくれたが、他の妖精が傷つくのは嫌だった。
だから、この十年、サラが失明した目と向き合いながら生きていくのを見てきたのだ。
ある日のこと。
いつものようにマーシャル子爵家の中に入り込んでうろちょろと天井付近を飛んでいた時のこと。
「サラ……私もいつまでも元気ではいられない……サラのことを心から愛してくれる人を探してみようと思うのだが……」
「お父様。お見合いを勧めているのですか?」
「あぁ、そうだ。お見合いをしてみないかい?」
どうやら、サラの結婚相手を探すことにしたようだ。
目が見えないという状況だから、サラを大事にしてくれる人という条件だけで、探すことにしたようだった。
カタルはいつもサラを見ているだけで、転んでも助けてあげられない。
だから、素敵な男性が大好きなサラを助けて、守ってくれるといいなぁと思っていた。
でも、それを考えるともどかしくて、カタルの心臓はツキリと痛むことが日ごと増えてくる。
その感情の名前をカタルは知っている。『片想い』だ。
妖精のカタルにはどれだけ人間を愛しても、永遠に気持ちを伝える術はないのだとわかっていたから、カタルは自分の気持ちに蓋をすることにした。
■■■
サラは二十歳を迎えた。金髪の美しい美女に成長しているとカタルは素直に彼女が生まれてきてくれたことを喜ぶ。
彼女が幼かった時に見た翡翠の瞳は、八歳の時を最後に瞼が閉じられているので見えないけれど、それが見られたらさぞかし、美人なんだろうとカタルは想像してみる。
「ぼくが人間ならサラを幸せにしてあげるのに……こんなにも大好きなのにな……」
妖精なのに、人間であるサラのことをずっと見守っているうちに、いつの間にか彼女への気持ちがどんどん大きくなってきていることにカタルは気が付いてしまった。
どうやら、サラの結婚相手はなかなか見つからないらしい。
「失明しているのはちょっと……」
「常に誰か傍にいないと危ないですよね……」
迷惑そうにする者も同情する者も、嫌ってほど見てきた。
それでも、サラの心の良さを理解してくれる人間の男性は一人も現れなかった。
「サラ……心は優しいし、素敵な女性なのにな……誰も幸せにしてあげられないなら、ぼくがしてあげたいのに」
カタルは、サラの良さが伝わらないことが見ていてもどかしくなってきた。
妖精のカタルには彼女恋情を抱いたとしても、どうすることもできないのだから、サラを幸せにしてくれる人間はいないものなのかと腹立たしくも感じている。
三百年以上も生きてきて、こんなにもどかしい想いをしたことはなかった。
カタルはずっと、この十年考えてきたことがある。
(ぼくの羽で失明を治す薬を作ってあげようかなぁ……)
サラが心から笑ってくれる笑顔をもう一度見てみたいなぁと淡い気持ちを持っていた。
それがいつの間にかカタルの中で膨らんできたようだ。
たとえ、人間にカタルの姿が見えなくても、彼女の翡翠の瞳がにっこりと微笑む笑顔をもう一度見てみたい。
目が見えるようになれば、きっと素敵な結婚相手が見つかるはずだと意気込んだ。
カタル自身は妖精だし、サラを幸せにしてあげられないのだから、せめてサラが幸せを切り開ける手助けができるだけで、カタルは羽を失っても良いと考え始める。
それがカタルのサラへ与えてあげられる愛情表現だと思ったからだ。
カタルは、気持ちを固めると森に住む魔女の家に飛んで行った。
「ねぇ! ぼくの羽を二枚使っていいから、失明を治す薬を作ってマーシャル子爵家のサラのところに持って行ってくれない?」
カタルは魔女に、サラの失明を治す薬を作って欲しいと申し出る。
魔女は目を見開いて、本気なのかと尋ねた。
「カタル……お前さん、本当にそれでいいのかい? 羽が無くなったら妖精ではなくなるよ。人間に姿は見えてしまうし、小さな小人のようなものだよ? 犬や猫にだってすぐに襲われるし、食われちまうよ」
「それでも、構わないよ! もう三百年も生きているんだから、思い残すことはないし、羽が無くても困らないよ。サラの笑顔だけ、どうしてももう一度見たいんだ!!」
「そこまで言うならわかったよ。ほれ、そこに座んな」
魔女はカタルの羽を丁寧にハサミで切り落としてから、すぐさま薬作りに取りかかった。
■■■
カタルはしばらく魔女の家で、ウトウトと寝てしまっていた。
「カタル! 薬ができたよ!!」
魔女はニカッと笑って、緑色の液体が入った小瓶をカタルに見せる。
「わぁ! ありがとう!! もう一つお願いなんだけれど、ぼくの代わりにマーシャル子爵家にこれを届けてくれない? ぼくにはちょっと重たすぎて運べそうにないや」
「そんなこったろうと思ったよ」
魔女は、ぶつくさと文句を言いながらも小瓶を右手に持ち、カタルを左手の中に握ってそのままマーシャル子爵家の玄関扉を叩いた。
すぐさま、当主が表に顔を出す。
「わたしは近くの森に住む者だが、これを渡して欲しいとある人物に頼まれてね……届けに来たんだ」
(森に住む者と言えば……噂で聞いたことがある魔女か!)
マーシャル子爵は目の前の女性は魔女に違いないと確信する。
実は、サラが失明してから森に住む魔女の噂を聞いて、失明を治せないか人づてに聞いてもらったことがあったが、材料である『妖精の羽』を手に入れるのが困難だということで、サラにも話して一緒に落胆したことを思い出す。
「……あのう、失礼ですが、それは何ですか?」
不気味な色をしている液体の小瓶を見て、サラの父親は中身について尋ねる。
「あぁ、これは私が作った失明を治す薬だよ。飲ませてごらん。すぐに目が見えるようになるよ」
マーシャル子爵は驚いた顔をしている。
まさか、材料が手に入らないと言われている薬が自分の元に届けられるとは思っていなかったのだろう。
「本当ですか?! 一体、どこのどなたからの贈り物なのでしょう?」
「さぁ、それは教えられないね。じゃあ!」
魔女は言いたいことだけ伝えて小瓶を渡すと、玄関の扉をそっと閉めた。
それから、左手の中にいるカタルをマーシャル子爵家の軒下にそっと置くと別れの挨拶を述べる。
「カタル、もう小人の姿になっているんだから、人間にも他の生き物にも見つからないように気を付けるんだよ」
「ありがとう!! 気を付けるよ!」
カタルは魔女に礼を述べて、そのまま別れた。
外の窓から、サラの部屋を覗きたかったからだ。
カタルは、草をかき分けサラの部屋の窓下にくると、雨どいをよじ登って窓枠に飛び移った。
室内を覗き込むとちょうどサラが椅子に座って、失明を治す薬を飲み干したところだった。
「!!」
サラの表情が驚きの表情に変わり、ゆっくりと瞼が開かれていく。
カタルは窓に両手をつき、サラの喜ぶ顔を逃さまいと見続ける。
「お父様!! 目が!! 目が見えます!!」
「本当か!! 良かった……本当に良かった……!!」
サラと父親は抱き合って、涙を流して喜んだ。
(あぁ、ぼくはこの表情が見たかったんだ……。サラの綺麗な翡翠色の瞳が笑うところが)
カタルはサラの喜ぶ顔を見て、心の底から良かったと安堵して喜びを噛みしめた。
大好きなサラがやっと心から笑ってくれたからだ。
一方的にだけれど恋い慕ってきた意中の人が幸せだと、こんなにも心が満たされるのかと驚いたくらいだ。
(ぼくがサラに捧げられる愛はこれしかなかったけれど、彼女のこれからが輝かしい未来と続く糧となれたなら、本望だ)
カタルは妖精ではなくなり、羽を失って小人になってしまったけれど、サラの瞳が開かれて笑顔を見られたのでそれだけで愛が届いたような気になった。
次の瞬間。
シュンッ ドンッ
鳥が飛来してきて、カタルを食べようとくちばしから窓ガラスにぶつかり、体当たりしたのだ。
「イテテテテ……」
鳥のくちばしが腹部を突き刺したのか、それともえぐりとったのかわからなかったが、カタルは身体の一部が無くなっていることに気が付いた。
気が遠くなり、窓枠からポトンと地面に落下した。
薄れゆく意識の中で想ったのはサラのこと。
(サラの笑顔を死ぬ前に見られて良かった……)
そしてカタルは意識を失った。
■■■
目が見えるようになったサラは、外の明るさがこんなにも眩しかったのかと、目を細めながらたまたま窓に視線を向けた時だった。
小さな小人が窓の外からこちらを見ていて、視線が合ったような気がする。
その次の瞬間。
鳥が窓ガラスに体当たりをしてきた。
「何だ? 鳥か?」
「ちょっと外に行ってきます!!」
不思議がる父親をよそに、サラは見えるようになったばかりの目で慌てて外に飛び出した。
さっき見たのは何だったのだろう。
その正体が知りたかった。
サラが自室の外の窓の前までいくと、小さな小人が倒れていた。
腹部は抉られ、息も呼吸も浅いようだ。
もう助からないのは一目瞭然だった。
「小人さん! 大丈夫?!」
サラが呼びかけても反応はない。
でも、その小人は口を微かに動かして何かを言っている。
サラは小人の口元に耳を寄せてみた。
「しあ……わ……せに……なっ……て……」
そこまで言うと、息絶えてしまったのか小人の腕がぶらんと垂れ下がった。
サラは自分の目が突然見えるようになったことと、小人が窓からサラの様子を見ていたことが関連があるのではと思い始める。
確か、失明の薬に必要なのは妖精の羽だと言ってはいなかっただろうか。
……もしかして……サラは一つの可能性に辿り着く。
「小人さん! 小人さん!!」
ひょっとしたら、目の前にいるのは妖精なのかもしれない。そんな気がして、鼓動が速くなる。
サラの直感が、間違いないのだと告げている。
「お願いだから死なないで!!」
サラは悲痛な声で叫びながら、サラの幸せを願ってくれた妖精に感謝のキスを落とした。
サラの口づけを受けたカタルの呼吸が静かにとまり、胸の上下運動が止まったのを感じる。
カタルは息を引き取ったのだ。
サラは妖精の亡骸をずっと優しく抱きしめながら、感謝の言葉を伝える。
マーシャル子爵も、失明の薬の贈り主だと感じ取り、サラの横に両膝をついて彼の最期を見届けている。
「私ね、八歳の時に失明して世界が真っ暗闇になったの。でも、ある日ね。近くで声がしたの。お父様に周りに誰かいますかって尋ねても誰もいないって答えるし……最初は気が付かなかったの…」
サラは、目が見えなかった時のことを思い出して、妖精に語り続ける。どうしても彼に伝えなければいけないと思ったのだ。
「…でもね、あなたいつも独り言を言っていたでしょう? 私のことをいつも大切に想ってくれているのを聞いて、とても嬉しかったの。……いつかあなたと会話してみたいってずっと思っていたのよ。……私もね、ずっとあなたの存在に助けられてきたの。いつも私の傍にいてくれて、私を支えてくれて本当にありがとう。私の愛を届けることはできなかったけれど……あなたのことをずっと大好きだったのよ」
サラが息をしていない彼に感謝を述べ終わった頃。
ドゥン ドゥン ドゥン
カタルの身体がドンドン大きくなり始める。
サラは慌ててカタルの身体を地面に置いた。どこまで成長するのかわからなかったからだ。
ドゥン ドゥン ドゥン
カタルは人間の成人男性と同じ大きさになると、成長が止まった。
マーシャル子爵もサラも妖精の身体が大きくなる瞬間をずっと静かに見守った。
何が起こったのかわからなかったからだ。
「あらら、言わんこっちゃない」
さきほど、サラに薬を届けてくれた魔女はまだ近くにいたようで、動揺しているサラとマーシャル子爵の横に歩いてやってきた。
「カタル……大丈夫かい?」
「……あれ? なんで? 死んだと思ったんだけど……」
「ははは、しかも人間にまでなってるさね」
魔女の言葉を聞いて、カタルは自分が人間の男性になっていることに気が付いた。
「あぁ、知らなかったかい? 自分の妖精の羽を使った薬を摂取した異性にキスをしてもらうと、妖精は一度、死んで人間に生まれ変わるんじゃよ」
カタルは、初めて耳にする内容で驚きを隠せない。
「何それ……」
驚愕の事実を知らされ、ガバッとカタルは大きな身体で起き上がった。
近くにはサラの美しい顔がある。
(サラが……ぼくにキスをしてくれたってこと?)
混乱するカタルは、サラと瞳を合わせたまま一言も話せない。
「あなた……ひょっとして、私の傍にずっといてくれた妖精さん?」
サラは、確信しているような表情で涙を浮かべたままの笑顔で質問をしてくる。
人間の目には妖精は見えないはずなのに、あたかも見えていたような口ぶりをするのでカタルは驚いた。
「えっと……」
カタルは、盗み見していたことがバレていたようで、気まずくなる。
「はい。ずっとあなたの傍にいて、見守っていました」
カタルは意を決して正直に打ち明けるとサラは「あなただったのね!!」と抱き着いて喜んでくれる。
「うふふふ。私ね、あなたと一度お話がしてみたかったの!! いつも傍にいて見守ってくれて、ありがとう!! 私もあなたのこと大好きよ!!」
どうやら、カタルの片想いはずっと聞こえてしまっていたらしい。
サラはふっと微笑むと、父親のマーシャル子爵の方に向き直る。
「お父様!! 私、結婚するならこの方がいいです! この方はずっと傍で私を励まして下さっていたんです!!」
サラは、カタルの両手を取って包み込むと「考えてもらえませんか?」と尋ねてくる。
そう聞かれても、人間になったばかりのカタルには家もなければ、仕事もないのだ。
お互いの気持ちがあったとしても、カタルが人間として生きていくのにはまだ不安があった。
そのことに触れると、マーシャル子爵は「ここで私の仕事を手伝ってもらえないか?」と言ってくれた。
その後、カタルとサラはゆっくりと愛を育み結婚する日を迎えた。やっと二人の愛が結ばれたのだ。
結婚式を遠くから眺めていた魔女は、二人の幸せな顔を見て安堵する。
今回のカタルが人間に生まれ変わった出来事は奇跡だった。本来では妖精が人間になるには、条件が難しくてクリアできないはずで、有り得ないことだった。
魔女は一つだけ言っていなかったことがある。
『自分の妖精の羽を使った薬を摂取した異性にキスをしてもらうと、妖精は一度、死んで人間に生まれ変わる』という条件が発動するには、もう一つ追加の条件があった。
『両想いで二人とも愛し合っている場合に限り効力を発する』
お互いが両想いの状態でキスをしない限り、カタルは人間になれるはずもなかったのだ。
さすがに魔女もそんなところまで、予想していなかった。だから、カタルが人間になれるとは微塵とも思っていなかったのだ。
「まさかサラがキスしてくれるとは思っておらなんだわい。しかも両想いだったとは……まぁ、カタルも人間になれて幸せになったのだから結果オーライじゃな」
魔女は笑いながら、森の家に帰って行った。
お読みいただきありがとうございます。
最後の意味(二つの条件が予期せずクリアされたからカタルが人間になれた部分)が伝わるかしらと思いながら書き上げました。
わかりにくかったらすみません。精進します<(_ _)>
楽しんでいただけましたら、↓の評価をしていただけますと嬉しいです。