無念
布袋め……。
何が毎日だ。
もう五日目じゃないか。
大黒天と連絡先を交換しておけば良かった。
布袋が云っていたのは確かにこの店で間違いない筈だ。
布袋に大黒天の事を訊いたメッセージは一向に既読にならない。
時刻は二十一時四十二分。
もう二時間半程この店にいるらしい。
二十二時まで待ってみて来なかったら、この店で逢うのは諦める事にしよう。
幾何学模様の木材が施された擦り硝子の引き戸が開く音がする度にそれを確認しながら、時間を掛けてビールを飲む。
あと一分。
スマホの画面を一瞥しては、残り数センチのビールを意味もなく傾けたり回したりを繰り返す。
二十二時になった。
大黒天は来ない。
十秒だけ数えるか。
どうやら、自分はまだ諦められないらしい。
十。九。八。七。六。五。四。三。二。一。ゼロ。
やはり、来ないか……。
諦めてレジに向かった時、店のドアベルが鳴った。
振り向くと、店に入って来たのは、スーツ姿の見知らぬ三人組の中年男だった。
諦めた直後というドラマの様なタイミングで大黒天が現れる事を期待したが、そうはいかなかったらしい。
帰り道に遭遇する事を期待したが、それも叶わなかった。
大黒天のいるホテルは相当離れた場所にある。
恐らく一時間は要するだろう。
パトロール中の彼を見付ける偶然に頼るのも効率が悪い。
弁財天に布袋の情報を訊くとすぐに既読になり、返信が来た。
半年前までは立ち飲み屋にハマっていたが、最近はほぼ毎日バーに行っているらしい。
弁財天はそれから、店名と場所を教えてくれた。
半年前の情報を提供した布袋に苛立ちを覚えながら、その後に送られて来た長文に目を通す。
新しく入ったバイトが訊いてもいないのに彼氏自慢を頻繁にしてきてウザい事やら、マンションの隣の部屋の女が妊娠の発覚と共に夫が出て行った自らの現状を〝授か離婚〟と明るく称していたやら、無関係な話が連なった文章は、〝でも、あの人はやめといた方がいいかもだよー。〟という忠告で終わった。
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