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七福神観察日記 ~作家志望の僕が実際に出逢ったあまりにも個性的過ぎる七福神の生態を綴ったノンフィクション小説~  作者: 葉月 陽華琉
第五柱 布袋観察日記 ~作家志望の僕があまりにも冗談が面倒臭過ぎる布袋に、心が折れそうになりながらも取材に臨んだ話~
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方法

「じゃあ、早速見せてもらっていいですか」

「はい。ですが、条件があります」

「何ですか、条件って」

「トイレ貸して下さい」

そんな事かよ。


「あっ、はい、どうぞ」

布袋は立ち上がりながらアロハシャツのポケットからスマホをテーブルに置いてトイレに向かった。

スマホの下には小さな青いキャンパスノートがある。

人間に与えてきた運の記録だろうか。

戻って来た布袋は再びテーブルの前に座り、「あっ、良かったら見ません? 私のネタ帳」と、ノートを差し出し、僕は思わず受け取った。


 表紙には、〝ネタ帳〟とボールペンで書かれている。

思い付いたギャグやダジャレを記録しているのか。

無駄なストイックだな。


 表紙を開くと、上部に〝ダジャレ〟と書かれ、その下にはダジャレが箇条書きされている。

半分程は自信があるのかピンクの蛍光ペンでアンダーラインが引かれているそれ等を見る限り、布袋はタクシーでストックをほぼ出し切ったらしい事が解った。


 ページを捲ると、上部には〝こんな名前はいやだ〟と書かれ、その下には、〝脚場倉きゃばくら 好男よしお〟、〝世久原せくはら 好男よしお〟、〝田日岡たぴおか 好男よしお〟の三つが書かれている。


 隣のページには上部に〝なぞかけ〟と書かれ、その下には〝どうでもいい話と掛けて、録画した番組と解く、その心は、どちらも、きょうみない(興味ない・今日見ない)〟と、一つだけ書かれている。


 ページを捲ると、上部に〝ブラックジョーク〟と書かれているだけで、その下には何も書かれていない。何故、思い付いていないのにカテゴリーを作ったのだろう。

それから、次のページ以降は何も書かれていないらしい。


「はい、見ました」

ネタ帳を返した。

何故、これを僕に見せたのだろう。


「じゃあ、真の姿、見せますね。ちょっとだけですからね」

そう云った布袋は、自分の頭上で掌を擦り、煙を出した。

そして、布袋の姿を覆ったそれが次第に露になっていく。


 スキンヘッド。

八の字の髭。

からし色の着物。

首に下げた茶色の大きな数珠。

垂れた胸。

風船の様に膨れた腹。

肩に背負った大きな袋。

左手に持った軍配。


「もういいですか、戻っても」

「あっ、ちょっと待って下さい。その袋は何が入ってるんですか」

「これですか? これは普通に、所帯道具です。私、ホテルを転々としてるんです。昔からそういうスタイルなんです」

そう云った布袋は再び自分の頭上で掌を擦って煙を出し、仮の姿になった。

あまり本当の姿を見られたくないのだろうか。


「あの、大黒天さんを呼んで戴けませんか」

「いやぁ、やめといた方がいいんじゃないですかねぇ」

「取材をしたいんです」

「大黒天さんに逢う唯一の方法が、四捨五入すると三つあります。一つ目は、大黒天さんのいるホテルに行く」

布袋はそれから、大黒天が勤めるホテルの名前と大まかな場所を云った。


「二つ目は、パトロール中の大黒天さんを探す」

布袋は大黒天が現在住んでいるらしい地名を云った。


「三つ目は、大黒天さんの行きつけの立ち飲み屋に行く」

布袋はその店名と場所を云った。大黒天は毎日二十時頃にその店を訪れているらしい。

「えっと、呼んで戴くのは難しいですか」

「この三つが大黒天さんに逢う方法です」

昨日ブチ切れられため、ばつが悪いらしい。


「でも、やめ、だぁっくしょいっ! やめといた方がいい、でぃやぁっくしゅっ! やめといた方がいいですよ。あの方に会うのはおすすめしな、じゅっくっしゃっ!」

三度のくしゃみ。

お待ちかねの三度のくしゃみだ。


「布袋さん、千里眼使って下さい。厄が実行されたんですよね。どんな厄なのか千里眼で見てもらっていいですか」

「あぁ、はいはい」

布袋は目を瞑った。


「んー、厄じゃないっぽいですねぇ」

「えっ、あの不倫した人に与えた厄が実行されたんじゃないんですか」

「いや、そういう訳ではないっぽいですねぇ」

「でも、三回くしゃみしたって事は厄が実行されたって事なんですよね」

「おや、どうやら今のは厄とは関係ない、普通のくしゃみ三連発だったみたいですね」

布袋はそれから、「じゃあ、私、明日オーディションなので。ハロプロの」と云うと、自ら大笑いして出て行った。


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