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七福神観察日記 ~作家志望の僕が実際に出逢ったあまりにも個性的過ぎる七福神の生態を綴ったノンフィクション小説~  作者: 葉月 陽華琉
第四柱  弁財天観察日記  ~作家志望の僕があまりにも美意識が高過ぎる弁財天とスケジュールがなかなか合わず、取材と執筆が暫く滞った話~
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都合

朝と帰り道に、違う場所でガムを踏むという災難に見舞われた日、返って来た弁財天のメッセージは、再来週の土曜日の夜なら空いてるという内容だった。


 漸く取材を再開出来る。

平日の夜は、ジムでの運動やランニングをして時間を過ごし、土日は、日中が何れもバイトで、夜はエステやらホットヨガやらネイルサロンなどの自分磨きに忙しいらしい。

平日の日中が仕事の僕とは基本的に生活リズムが合わず、先日カフェで逢ったのはたまたまだったらしい。


弁財天との待ち合わせの日。

十九時になる頃、最寄り駅の二つ先の駅を出て少し歩いた場所に、レストランが見えた。

白い外壁の大きな建物の上部にある金色の筆記体。

確かこの様な名前だった気がする。

この店の常連らしい弁財天のLINEに添付さられていたURLを見返して名前を確認した時、「あっ、もう着いてたんだぁっ!」と、背後から聞えた。

振り向くと、弁財天が僕を妙な渾名で呼びながら小走りで向かって来た。


 プロポーズに使う様な店の雰囲気に少々緊張を覚える中、「オリーブオイルに含まれてるオレイン酸は、お肌を修復して整えてくれるの」、「アボカドには、お肌の乾燥を防ぐリノール酸とか、皮膚の免疫を向上させるビタミンAとか、シミとか原因になる活性酵素を除去する抗酸化作用があるビタミンEが含まれてるの」、「ローズヒップティーには、メラニン色素が作られるのを抑制したり、コラーゲンを生成したりするビタミンCがまれてて、ビタミンCを保護して向上させる効果があるビタミンPも含まれてるの」などと、食事しながらいちいちその料理や食材の美容効果を紹介していった弁財天は、「あっ、ごめん。取材だったね」と、ティーカップを置いた。


 この女は美容の話になると止まらない、いわゆる福禄寿の美容バージョンではないかと危惧していた矢先の言葉に、安堵した。


「アタシね、前はOLやってたの」

幾つか質問するつもりでいたが、話を聞くスタイルもいいかと思いながら、ポケットからメモ帳を取り出した。


「最初さぁ、なかなか仕事に慣れなくて失敗ばっかだったの。ホント、毎日失敗してたもん。怒られる度にすごく悔しかったの。次こそは絶対見返してやるって。で、段々慣れてきて、よく褒められるようになったの。何か、成功は成果を得られて、失敗は成長を得られると思うの。成功したらそれがそのまま自分にとってプラスになるし、失敗したらそれを次に生かす事で、成長出来るっていうか。でもね、何か、慣れてからは段々仕事がつまんなくなってきちゃったんだよねぇ。全然楽しいって思えなくなってきたし、苦手かもって思った人間ちゃん何人かいたし」

弁財天はフォークに刺したカプレーゼを口に運ぶ。


「何か、すごく面倒臭くなっちゃったんだよねぇ。で、毎日職場に行くのが嫌になっちゃってたんだけどさぁ、アタシ、面倒臭いってすごい事だなって思ったの。だって、いつもの事を面倒臭いって思うって事はそれくらい頑張れてるって事だもん。仕事に限らず、何かを始めるのが面倒臭いのは頑張れない性質の証って感じだけど、いつもの事を続ける面倒臭さは頑張ってる証だと思うんだよねぇ。そう思うと、何か、やる気が出てきたの。今までの自分に負けたくないっていうか。で、今は、コンビニのバイトしてるんだけどさぁ、もう、失敗ばっかりなの」


 弁財天は、バイトでの失敗とそれから得た教訓を次々と紹介していく。

僕が聞きたいのはそんな話ではないのだが、仕事論から人生論にシフトしていった弁財天の話はどんどん膨らんでいく。


「ねぇねぇ、お兄さんのお家にお邪魔していい?」

特に収穫のない時間が終わり、帰り道を歩いていると弁財天は云った。

知り合ったばかりの一人暮らしの男の家にお邪魔する事への危機感がないどころか、自ら提案してきた事に、少し驚いた。

だが、家なら弁財天の真の姿を見せてもらったり、じっくりとインタビューが出来る。

もしかすると、弁財天はそのつもりで云ったのかもしれない。

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