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七福神観察日記 ~作家志望の僕が実際に出逢ったあまりにも個性的過ぎる七福神の生態を綴ったノンフィクション小説~  作者: 葉月 陽華琉
第二柱  福禄寿観察日記  ~作家志望の僕があまりにもアニオタ過ぎる福禄寿との連絡先を交換した事に因って取材欲が強まったが、なかなか思い通りにいかなかった話~
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取材

Huluの画面をスクロールし、どの映画に手をつけようか迷いながらエクレアを堪能していると、スマホが鳴った。

福禄寿かららしい。


「はい」

「あっ、もしもし」

「はい」

「今からそっちに行ってもいいですか」

「ちょっと、忙しくて」

「あら、そうですか。ではまた、近いうちに」

「あっ、はい」

「あっ、そうだっ! 今度のテレ東の深夜がヤバいねんっ! あんな、全部の枠がもう、激熱ねんっ!」

僕は思わず通話を切った。

今頃あの男は、「もしもし? もしもし? もしもーし」などと云っているのだろう。

いや、もしかすると、まだ通話を切られた事に気付ずに関西弁で喋り続けているのかもしれない。


 本棚に若干埃が付いているのに気付き、ウエットティッシュを手に取ると、想定より軽く、同時に出た二枚がラストだった。

本棚を拭いた後も、エンジンが掛かった様に、カーテンのレール、テレビの裏、ソファーの脚、窓とドアの桟、冷蔵庫の上など、他の埃ポイントも気になる様になってしまい、除菌スプレーとティッシュで代用した。

なくなったウエットティッシュと残り僅かになった除菌スプレーを近所のドラッグストアで買い、家に向かう。


 その時、後ろから名前を呼ばれて振り向くと、街灯に照らされた福禄寿がいた。

「何で電話切っちゃったんですかぁ」

「いや、あの、間違えて押しちゃって」

「間違って押しちゃったんなら掛け直して下さいよー。気付いたら九時過ぎてましたよ」

この男から電話が来たのは八時頃だった気がする。

通話が切れている事に一時間も気付かずに喋り続けていたのかと思うと、ぞっとした。


「一段落ついた感じですか?」

「えっ」

「いや、『忙しい』って云ってたんで。飲みに行きません?」

「いえ、忙しいので」

「でも、一段落ついたんですよね?」

「帰ってまた仕事するんです」


「飲みに行きましょうよ」

「忙しいので」

「行きましょうよ」

「忙しいので」

「アニマックス、契約したんですよね? 飲みながら感想語り合いましょうよ」

「いえ、忙しいので。あの、失礼ですが、『忙しい』って電話でも云いましたよね。何故此処に」

「パトロールですよ、パトロール。さっきこの辺で男に厄与えたんです。昨日も何人かに与えましたし」


 「だからその男は、朝まで便所に籠りっきりで全然寝れてない訳ですよ」

福禄寿はそう云うと、芋焼酎が入ったお猪口を口に傾けた。


 彼女にDVを働いた男を虫垂炎にした話。

レンタルDVDショップで提示したカードが他の店舗で作って一週間が経過していなかったためにレンタル出来なかった事に対して、店員に理不尽なクレームを一時間程浴びせた男に、財布を紛失させた話。

人の家のチューリップを切断した男を、一晩中腹痛にした話。

福禄寿の話を、メモ帳に記す。


「いい事をした人や悪い事をした人を見付けたら、七福神さん達の判断でその行動に合ったレベルの運を与えるって事ですか」

「ええ、そうです」

「この人にはこれくらいの運を、みたいな」

「ええ、そんな感じです。因みに、我々七福神は与えた厄が発生すると何故かくしゃみが三回出るんです。で、僥倖を送ったらしゃっくりが出るんです」

何だか取材らしくなってきた。

小説の為の取材をしている。

そんな自分に思わず酔ってしまった。


「僥倖や厄の内容は、レベル毎に決まってるんですか」

「僥倖は全てのレベルがそうなんですけど、厄に関しては、内容も発生する日時も、基本的にはランダムなんです」

「基本的には、と云うと」

その時、福禄寿のスマホが鳴った。


「もしもし。はいはい」

福禄寿はたこわさを摘まみながらスマホを耳にあてた。

恐らくこの男は電話の相手が嫌いなのだろうなと、面倒そうな表情と相槌で察した時、福禄寿は電話の相手にこの居酒屋の名前と住所を伝えた。

「誰か、来るんですか」


 スマホをテーブルに置き、芋焼酎が入ったお猪口を口に傾けた福禄寿は云った。

「ええ、まぁ」

ええ、まぁ、じゃねぇよ。何勝手に呼んでんだよ。

いや、待てよ。その電話の相手も神様なのか。

それを訊こうとした時、福禄寿は個室を出た。


 すぐに戻って来た福禄寿と共に、見知らぬ中年の男も個室に入って来た。

赤と白と紺のFILAのトレーナーとチノパン姿で小汚い茶色のポシェットを襷掛けした白髪交じりの短髪のその男も、僕がいる事を福禄寿から聞かされていなかったのか、「誰」と、べっ甲柄の丸眼鏡越しに僕を凝視しながら云った。


 福禄寿が僕の名前を教えると、僕が人間だと知ったFILAトレーナーは「あっ、ども」と、福禄寿の隣に座りながら僕に軽く頭を下げた。

この男が電話の相手なのだろうか。何故、こんなに来るのが速いのだろう。

「ちょっとトイレ」

「ん」

福禄寿は再び個室を出た。

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