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不死者の剣  作者: 富山荘
2/4

色々試してみよう

 光源らしい光源は見当たらないが、遠くまでクリアに見える。しかし少し息を吸っただけでも分かるほど空気は澱んでおり、深呼吸でもしようものなら咳が止まらなくなること間違いない。呼吸は最低限に抑えていた方が良さそうだ。



 周囲に人工物は一切見えず、岩の壁に囲まれた一本の道と言うのが一番正しい表現だろう。見た目だけで言えば昨日入っていたダンジョンの壁に似ている。しかしあちらは人の手が入っているような規則的な形をしていたが、こちらはどうも自然に出来たという印象が強い。人が掘った訳ではないならどうやって出来上がったのか謎ではあるが。



 総括するとここは洞窟のようだ。どちらに進めば良いかわからないので向いていた方に少し進んでみたが、人どころか生物の気配すらない。これは一先ず状況を整理する必要がある。

 


「俺は三鷹健斗、高校2年生のゲームとVが好きなヘビーオタク。布団で寝て起きたら見知らぬ天井されていた。こんな所に見覚えはなく、どこかさっきまでやっていたゲームに似た雰囲気を感じる……と」


 

 声に出して状況整理するのは大切だと思っている。本来なら紙に書き留めるのが一番だが鞄がないので紙もない。こんな場所に来た記憶は無く、家からどこか別の場所に飛ばされたと考えるのが妥当か。誘拐されたという線もあるが、それにしてはここは人の気配が無さすぎる。


 完全に考え方が厨二だがそれ以外だと夢と思うしかない程度には現実離れした状況だ。ゲームに似た世界もしくはゲームの世界に放り込まれるなんて、いったい自分が何をしたっていうんだ。



 竜が作った世界、「サンクチュアリ」を舞台としたMMORPG『SleepingDragon』は多様な人間系種族や職業が選択出来るのは勿論の事、他のゲームと一線を画す機能が備わっていた。それは音声認識機能である。

 


 例えば火属性低級魔法『ファイヤーボール』を発動する際にやるのは魔法タブを表示、使いたい魔法を選択、その後キャラクターが詠唱し発動。と幾つかのステップを踏まなければいけない。しかしこのゲームは通常の発動方法以外にった方法が採用されていた。それが音声認識である。


 音声認識を使うときは『ファイヤーボール』とマイクに向かって叫ぶだけでモーションに入り、魔法を使う事が出来る仕様になっていた。認識としてはプレイヤーがアバターの代わりに詠唱を肩代わりするもので、アバターと一心同体となってゲームをプレイしよう。というコンセプトだと公式サイトに載っていた気がする。



「だけどあのゲームはVRゲームではなく、唯の3Dゲームだった。こんな風に自由に体を動かすなど出来なかったは……ず……」


 

 体に異常がないか確かめるために手を動かしている時、違和感に気づく。光源がない洞窟のはずなのに、視界が昼間のように明るい時点でおかしいという気持ちはあった。異様に軽い腕や脚、手を握った時の遮る事がない硬い感触、全てが変わり果てていた。


「なんだこれぇぇぇぇぇぇぇ!手が骨に……いや身体が骨になっとる!」


 彼は全身肉なし骨人間へと変貌を遂げていた。

 

「いやいやいや、おかしいだろ!これは絶対夢……そう夢だよ。…………骨になっていたから異様に体が軽かったのか」


 夢だと早々に断定するのも良いが別の可能性も考慮するべきだ。ゲーム時代とは様変わりしすぎだがもしここがゲーム内ならば運営と連絡を取ることが出来れば大きな前進だ。

 


『オープン ウィンドウ』

 


 呟きが終わると同時に、ゲーム時代と同様に複数のウィンドウが出現することに安堵し、ここがゲームの中である可能性が高くなることに絶望する。ただゲーム時代と違い視界が奪われる事はなく、骨の顔の前に四角の薄い板が浮遊している。ゲームをリアルにしたらこうなるのかと素直に感心が生まれてくる。

 

 ゲーム時代はオプションウィンドウ、アイテムウィンドウ、ステータスウィンドウの3つが並んでおり、様々な事に触る事が出来た。どうやらその辺りは変わっていないらしい。


 正直、これが出来なければ何もする事が出来なかった。だが表示されただけで干渉出来なければないのと同じ。恐る恐る未だに納得していない骨の手でアイテムウィンドウに触れてみる。すると画面が遷移し、現在の所持アイテムと装備品の一覧が表示された。一覧とは言っても今持っているとされているのはボロボロの剣、木の盾、木の弓の3つしかなく、消費アイテムの類は一切ない。

 


「ゲーム時代のアイテムはなし……か。恐らくアカウントが変わっている扱いだと思ってよさそうだ。全ロスするくらいなら、レアアイテム使っておけばよかったな」

 


 周囲に比べるとやり込んでいる自信があった分、持っていたアイテムが使えれば、この世界で上手く扱えるかは別としてとりあえずすぐ死ぬ事はない。なんて甘い考えは、儚く散っていく。

 

「それにこの装備品、敵モブの骸骨(スケルトン)が身に着けている装備だよな。ということはつまり、俺は今人間の敵扱いなのか?それとも見た目だけなのか?」



 どちらにしても今の見た目だと人間と友好関係を作るのは難しそうだ。だがゲーム内では一部のモンスターを除き、知性を感じる事はなかったので同類とも仲良くできるか怪しい。これらを考えると最低限、身を守る程度には戦えるようにしなければならない。

 


 恐る恐るアイテムウィンドウにあるボロボロの剣を押してみる。すると右手に黒い塊が現れ、だんだんと形が変わっていき、刃こぼれをしているので叩くイメージが強い剣に変化する。

 

 

 「良かった、過程がどうあれこの部分はゲーム時代と一緒だ。こんな剣では心許ないが身を守る程度はなんとかこなせそうだ」

 


 剣を少し振り回してみた限り、元の体よりもよく動く。体が軽いのは勿論の事、力もひょろひょろだったゲーマー時代よりも大分ましだ。ただMPを感じることはできなかった。何かコツがあるなら誰か教えてほしいものだ。

 

 ボロボロの剣を戻し、次はステータスウィンドウに目を向けてみる。HPやMP等が数字で強さとして表されている。これもゲーム時代と同じだ。全体的なステータス悪くない、レベル1としてはだが。だが流石に骨なだけあって耐久性には不安がある。MPも少ないがあるにはある。ただ魔法やスキルを何1つ覚えていないのはハードモードが過ぎる。


 最後に一番重要であるオプションウィンドウだが……ノイズが走っている。文字はかろうじて読めないことはないが……ログアウトボタンや音量ボタンだったものを触っても何も起こらない。



 「ッ!?なんだ?どこからか複数の足音が聞こえる!それも洞窟で響いているからか決して少ない数じゃない!」


 

 辺りを見渡すも隠れられる様な場所はなく、音の方向へ進むか逆に進むかの二択しか残されていない。こういう事態に陥った時の自分は優柔不断だと常々思う。どうするかを悩んでいる内に音の正体がわかる所まで近づかれていた。


「あれは軍隊兎(ソルジャーラビット)?自分の見た目で大体は把握していたがモンスターもゲームと同じというわけか」


 軍隊兎(ソルジャーラビット) 平原や洞窟などどんな場所だったとしても、生き物が生息している場所ならば何処にでも湧いている敵モブで、一匹では野生生物に負ける可能性もある弱さだ。だが奴らには下位モンスターだと侮るべきじゃない能力が1つある。

 


 それはパッシブスキル:軍隊 同様のスキルを所持しているモンスターがその場に2体以上居るとその数に応じ、攻撃力と素早さが上がる。理論上は上昇値に上限はなく、群れれば群れるほど効果が増大していく。


 故に「ジャイアントキリングが出来る可能性を秘めている」と期待されていたが、その可能性は検証勢によって否定されることになる。実際のところはポップ数の制限と体力の低さが仇になり、不可能とされていた。しかしこの世界にはポップ制限なんてものはなかったらしい。

 


「なんでそこはゲーム通りにならないんだよ!畜生ぜってぇ倒してやる!」


 この世の理不尽さにキレている間にも距離が詰まる。何も全部倒す必要はない。自分が生き残れるだけ、つまり自分の通る場所にいる分を最低限倒す。当然仲間が襲われればこちらに向かってくるの目に見えている。だがこの健脚ならば走って逃げきれるだろう。おそらくは。


 先ほどと同じ手順で剣と盾を呼び出す。本来なら軍隊兎(ソルジャーラビット)の群れは範囲攻撃で一気に数を減らすのが正解だが、レベル1のスケルトンにそんなスキルや魔法があるはずもない。ゲーム時代であればレベル1だったとしても初期スキルがあり、最低限戦えるようにはなっていたはなのだがそこは現実(リアル)志向というやつだろうか。


「せめて戦士スキルを使うことが出来れば……って思ったけど俺まともに戦えるのか?ゲームの中だと強い自信はあったが、体育の成績は平均的だったし剣道や柔道なんて授業以外でやった事がない」


 おぼつかない足取りで速度を出すために敵へと走る。腕が少しでも立つ奴からすればダサい事この上なかっただろう。勢いが出たところで思い切り前へ飛ぶ。人間時の時よりも軽い体、地面を蹴る足の力も確実に上がっており、風を切る速度だ。そこそこ早い跳躍に体は驚くことなく冷静に空中で剣を構えなおす。



 兎との距離が縮まり叫ぶ、剣が届く叫ぶ。叫びながら閉じる瞼がないにも関わらず目を瞑る。これが失敗すれば確実に死ぬ。そう考えたとき目を開いているなんてできなかった。決してビビった訳じゃない。そうビビった訳じゃないのだ。



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