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不死者の剣  作者: 富山荘
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ゲームをしてみよう

 辺りに動く影はなく、光源が目視出来る距離には1つもない。暗い暗い洞窟の奥深くで、人型ではあるが人にしては細すぎるシルエットが洞窟の奥まで届く程の音量で叫ぶ。


 「……ここは……何処だあああああああああああああああ!」

 


  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ホーク!そっち行ったぞ!」



 声の方向を確認すると巨大な猪型モンスターがこちらに向かって突進を仕掛けてきている。レベルは80だが、ボス級モンスターと呼ばれる通常よりも強化された個体であるため、レベル以上の強さを有している。しかしホークと呼ばれている黒騎士を操作する青年が画面越しに笑う。


 今のところは予定通り。いや雑魚猪が出てきた以上、想定以上に運が良い。思わずにやけてしまった顔を幼馴染にでも見られたりすれば、また馬鹿にされるのは目に見えている。


「予定通りこいつは俺一人で倒す。ウイングはダンジョンストーンを壊してくれ」


 今日付き合ってくれているリア友に指示を送る。友人は彼女と一緒にプレイするエンジョイ勢なので、今日付き合ってくれたことに感謝しなくてはならない。いや、いつも彼女自慢してくるこいつに感謝など必要ないな。


「了解だ。万に一つもないとは思うが死ぬなよ?このくそ長ダンジョンをもう一周するなんてごめんだぞ」



 微妙に心配するところが違うようだが置いておく。出口の扉に手を掛けているウイングに了解の意を伝えるためのサムズアップスタンプを送信する。それを確認したのか彼は豪華な装飾が施された扉の奥に消えていく。



 魔猪ゴールドボア、豊富な耐性と高い体力と防御力という猪とは思えない硬さを持ちながら、攻撃力も決して低くないモンスター。その硬さから詰みボスとしても有名で、MP切れやアイテム切れで負けたという話はよくネットに転がっている。


 しかしそれはあくまで初見パーティーの話で、対策を取っている熟練プレイヤーからすればドロップ品が美味しく、攻撃パターンも単調。相手からの遠距離攻撃もないので行動が読みやすい当たりボスなのだ。耐性が豊富ではあるとは言っても弱点がないわけじゃなく、そこを見極める事さえ出来れば、初見でも倒せるボスモンスターなのである。


 ......実際、自分が挑んだ時は、最初挑んだ時には手も足も出ず、完膚なきまでボコボコにされたのは懐かしい思い出だ。



『エレメンタルパワー』『キラービースト』『カウンターストライク』『ディフェンスパージ』



 4つの魔法を固有スキルである『詠唱短縮』によって、ゴールドボアが辿り着くまでの間に魔法名を読み上げ多重展開する。全ての魔法が支援魔法なので、ホークの体をオーラで包み込んでいる以外に主だった変化はない。


 次にホークが取った手は、盾を構えての絶対防御態勢である。散々雑魚だと侮ってはいたものの、ソロで真っ向勝負は幾らこのゲームをやり込んでいるホークでも難しい。にも関わらずホークは余裕を見せ、敵を煽る。


「来いよ、単細胞!」


 

 当然、ゴールドボアは人型NPCでは無く、ただのモンスターなのでこちらの魔法発動や煽りについて考える事はない。盾を構えていようが、尻を出して煽ろうがお構いなしに突撃を続ける。


 ガンッという大きな金属音と共に盾と猪が正面衝突する。しかし戦士系職業を取得しているホークは盾で受け止めることが出来れば勢いで飛ばされることはなく、後ずさりもしない。だがボスクラスの攻撃ともなれば、戦士職が盾で防いだとしても貫通ダメージをもらってしまう。当然ホークも例外ではなく、貫通ダメージが体力ゲージの半分以上入る。このダメージは計算通りではあるのだが。



『反撃の狼煙をここに。今その苦痛を糧として、我が敵を喰らえ。カウンターストライク』



 短い詠唱を終えると同時に、ホークの目の前で止まっているゴールドボアに赤い魔法陣が出現する。禍々しく赤く光る魔法陣は一秒後に、龍の形に変えた赤い光が魔猪を包み込む。光に飲み込まれた魔猪は間髪入れず雄叫びをあげる。


 光が消えると傷だらけの姿が露になる。表示されている体力ゲージを見ると、僅か一撃で三分の一ほどまで削られていた。一方、貫通ダメージをもらい体力が半分を切っていたホークの体力は満タンになっており、彼の顔はこの戦闘が始まって一番の、下種な笑い顔を晒していた。



「フハハハハハ!どうだ、一撃で決め切る自信はなかったが、結構いいダメージが入っているじゃないか。バフを増やせば案外一撃もいけそうだな!だが、俺らのパーティーのバフ要員は俺だからな。これ以上覚える魔法の種類増やすためには何レベ上げることになるのやら」



 「このゲームレベル上げるの大変すぎ」などと文句を垂れている間に、痛手を負わされたことに腹を立てた(体力が減ったから行動パターンが変わっただとは思うが)魔猪がダメージ時とは違う咆哮を放つ。咆哮自体にダメージはないが萎縮というデバフがつき、一定時間こちらの魔法関連のステータスを除く、全ステータスがダウンする。



「ま、今更こんなことされたところで勝利は揺るがないが……な!」



 相も変わらず突進を仕掛けてくる魔猪を少し憐れみながら、片手斧を頭めがけて思い切り振り下ろす。当然ただの一撃ではない、戦士スキルによる確定クリティカルと防御力貫通の乗った強力無比の一撃だ。



『兜割り』


 

 甲高いクリティカルに入った音を合図に魔猪ゴールドボアの体は震え、砕け散った。このゲームには剥ぎ取り機能はない。ドロップ品は自動的にバッグに入り、ボス級などの場合は入手アイテム一覧としてドロップ品のウィンドウが出現する。当然、ゴールドボアもボス級モンスターなのでホークの画面をウィンドウが埋める。しかしホークはそれを確認せず一瞬で閉じる。



 「グォォォォォォ」



 獣とはまた違う聞くだけで不快な咆哮が進入禁止エリアの方向から聞こえる。これがダンジョンストーンを優先した理由であるリポップだ。このゲームのダンジョンはボスを一度倒したところで終わらない。ダンジョンストーンがある限り無限にスポーンし続けるのに加え、出てくるモンスターが強くなっていくのだからたまったものじゃない。



「黒い塊……?名前表記はスケルトンの王か?俺の知っているスケルトンではないな。もしスケルトンの王がバグっているだけならいつものステータスだとソロでも倒せないことはないが……。萎縮を食らってる状態だと少しきついか。仕方ない、壊してくれ」



 ガコンという音共に周囲を照らしていた青い篝火が全て赤に変わる。そこにバグったスケルトンの姿はなく、炎の明かりが異様な模様であるボス部屋の壁を照らしていた。



 俺を置いて先に行けをしたフレンドにはボスを倒したら連絡するとだけ伝えておき、連戦が出来るか確認する為に待ってもらっていたのだ。



「もう1回猪が出てきてくれれば素材を換金出来たんだけどな。ってなんだこれ」



 画面下、自身の体力ゲージの上にはどれだけバフが掛かっているかがアイコンで表示されているのだが、そこには萎縮の人型マークや攻撃力アップの剣マークの他に見慣れない蛇のマークが表示されていた。



 「秒数の表示はなし……か永続バフはイベント時限定だったはずだけど何かイベントでも始まったのか?えーっと、名前は円環を為す輪廻?聞いたことないな」



「おい、ホーク!踏破報酬要らないなら総取りするぞ」



 あいつはなんて事を言うんだ。ボス討伐報酬と道中の探索分だけではこの洞窟に使った時間とアイテムが釣り合わない。イベントバフは放置していても期間が終わると効果が消失するものばかりで今何かが起きる事はないはずだ。そう考えフレンドの待つお宝部屋へと急いだ。




 ――――――――――――――――――――――――



「明日も朝練あるから朝早いし、今日はもう寝るわ」



 ダンジョンから帰還し、ホームタウンまで帰ってきた所でフレンドに告げられて現在時刻が2時前なのに気づく。よく部活ガチ勢の癖にここまで付き合ってくれたものだ。ちなみに明日と言っているが、こいつにとって寝るまでが今日で寝た後が明日らしい。



「おけ、俺も今日は眠いしもう寝るわ。どうせまた朝になったらあいつが起こしにくるしな。」



 毎朝、俺の親に頼まれたからと言って起こしにくる幼馴染、古河向日葵。特に付き合っている訳でもないのにも関わらず世話を焼いてくるので勘違いしてしまいそうだが、彼女はただ世話を焼くのが好きだと公言していたのでそう思うことにしている。



「お前が羨ましいよ、可愛い彼女に毎朝起こして貰って飯まで作って貰ってるなんて。まるで通い妻じゃん」



「わかってないな、お前は。朝から付き合ってもいない美少女が居る、それも毎日なんて溜まって仕方ないんだぞ。」



「本当に爆発して欲しい悩みだよそれ。それじゃまた明日学校で。」



 ログアウトを見届けてから再度バフの欄を確認する。相変わらず蛇のマークは消えておらず、ホームタウンへの帰還途中にネットで調べてみたが、同じ現象になったという情報は載っていなかった。念の為、運営にメールを送っておいたが返事はいつになるのやら。



 そうこうしている間にも眠気が襲ってきたので、早急にパソコンの電源を落として目覚ましを幼馴染が来るであろう10分前にセットし、ベッドに深く潜る。あいつの様に朝練があるわけではないが今から寝ると4時間ほどしか眠れない。ショートスリーパーとは言え、このままでは早死にしそうだと考えている内に瞼は落ちた。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 次に目を覚ました時そこはふかふかのベッドではなく、ごつごつの岩壁に囲まれた謎の異空間だった。



 「……ここは……何処だ!」


 

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