唸れ擬態、からの何それ知らない
伯爵も夫人も外見は親友の両親に瓜二つだが、本人そのものではない。二人に前世を重ねて生きるのは余りにも失礼だ。
セムラはもちろん、伯爵も夫人もそれ以上の追求をやめた。憑き物が晴れたように穏やかな表情に戻った二人は、恐らく一日中私の心を慮るばかりでいたはず。遠慮でも妥協でもなく本心からの言葉だとわかってもらえたのだろう。
前世で親友が好きだったプラリネの人生を乗っ取る第二の人生になど、何の意味もないのだ。現時点で精神の引っ込め方はまだわからないけれど、今はただありのままのプラリネにこの身体を返してあげたい。そして謝りたい、いきなり身体を奪ってごめんなさいと。
「セムラさんは外の教師。私は内側での教師。プラリネを、誰よりも聡明で誰からも愛される世界で一番幸せな女性にしてみせます」
「決心は、固いようだね」
「はい」
お母様が回収と提供の転送魔法を操りながらのディナーは静かで、雑談に弾む余裕こそないものの沈黙の質が先刻よりずっと穏やかな時間だった。
前菜のグリーンサラダ、魚料理は鱒の塩漬け。肉料理はやはり、卵白消費のための塩釜焼きで火を通した鴨。日本で生まれたゲームだからだろうか、食事はどれも美味しい。
どうかプラリネが今、この身体の奥でお腹を空かせていませんように。どんな形でもいい、私と同じくこの美味しいディナーを味わって幸せな気持ちでいますように。
ごめんなさいプラリネ。せっかくあなたの大好きなご両親とセムラも一緒の晩餐なのに、私の中で一人にさせて。親友と彼女のご家族と出会い団欒の幸せを知った私が、今は誰よりも近くでプラリネを孤独にしてしまっている。その事実が悲しくて悔しい。あんなに辛い高熱にうなされた末、やっと会えた大切な家族とのディナーなのに。どうして私がここで食事をしているのだろう。出てきていいんだよプラリネ。
「今の二人になら、話してもいいのかもしれないな」
フィナンシェが乗ったデザートのプレートまですっかり空にした頃。三人は食後のエスプレッソ、私は無糖のココアを啜り終えてやや経ってから、伯爵が厳かに切り出した。
そういえば、ディナーが終わったというのにまだ施錠魔法が解除されていない。
「ナエさんの記憶によれば、この世界にはプラリネと同じ年齢の男爵家のご令嬢が現れて、聖女と呼ばれる彼女も王立学園へ入学するのだったね」
「仰る通りです。その男爵令嬢は、私の知る物語の中でこのディヴァンドワーズ州の王家、王位継承権こそ持ちませんが第二王子であるザッハー・ディヴァンドワーズ殿下と結ばれたことがあります」
「結ばれたことがある、とは?」
「その物語には、読者の選択次第で結末が何種類か用意されていたんです。状況によっては、他の結末を迎えることもありました。私個人は、その聖女である男爵令嬢とザッハー殿下が結ばれるストーリーが一番好きだったので、こちらの世界でもそうなってほしいと思っています」
「いくつか聞きたいことがある。まず、君のその思い入れの所以をお聞きしても?」
これまでの至って真面目な空気に楔を打ち込まれ、私の背中を急に脂汗が滲み始める。
とんでもない急展開だ。私のオタ活における最推しCPについての思いの丈を正直に語れというのか、よりにもよってこんな上品な育ちのパンピー相手に。
親友と同じザッハー様という攻略対象を最推し男性キャラにもつ共通点がありながら、私と親友の間では同意以上同担未満の壁があった。親友はザッハー様×プラリネ派、私はザッハー様×ヒロイン派という近いようで果てしなく遠い解釈の差だ。
貴族にしては基礎教養が少ないものの、気になるのはその程度。他はポジティブさや優しさ、無私の奉仕体質が親友を思わせるゆえに私はヒロインたんが好きだ。「スイプリ」女性キャラでヒロインたんが一番好きだ。天真爛漫でどこまでも心優しく明るいヒロインたんをザッハー様に絡ませて理想のシンデレラストーリーに萌え滾りたい。
ヒロインたんを親友に重ねすぎてヒロインたんを幸せにすることで親友に恩を返す気持ちにすらなれるので、必要ならば当て馬も辞さない。
とは常々思っておりますがあまり二人の間を引っ掻き回して悲しませるのはもっと嫌なので、可能な限りあらぬ誤解を生じさせることなく立ち回り、二人の幸せを誰より近くで見守り祝福したい。キューピッドに徹し忠誠を誓う王子に「ヒロインたんの今度の休日スケジュールはこんな感じだそうですよこちらの人気カフェでアフタヌーンティーデートは如何ですか」みたいな仲人イベントで貢献したい。
だが欲を言えば途中の障害が大きければ大きいほどより愛も燃え上がるというものですので、願わくば軽めの誤解止まりな当て馬ポジションを一度は経験したのち、身を引いた方が殿下のためではと思い悩むヒロインたんを自分の心に嘘をついてまで諦めるんじゃないわよと馬に乗せて二人乗りで野を駆け王子の元に送り届けたい。本心を打ち明け互いに愛を伝えきつく抱き締め合う二人が思い出の花畑の真ん中で口付けを交わす姿を遠く崖の上から見届けたのち、誰に知られることなく背を向けそのまま愛馬とともにひっそり故郷に帰りたい。そして二人の結婚パレードの日には人混みの外からそっと見守り、ヒロインたんが私の視線に気付く前にそっとその場から去って背を向けたままひらひらっと手を振りたい。そんな感じで二人の幸福においてこれ抜きで語れない重要度の礎になりたい。
ええそうです。この願望をそのまま同人小説の原稿に具現化し、寄稿した文庫本サイズの合同本が某大手出版社編集さんの目に留まったお陰でプロデビューの道を掴みましたが何か。
「『銀の聖魔力』を持つ聖女様を、そのまま男爵家に留めておくのは危険です。狂化現象被害者数の増大を原因とした人口減少により、瘴気を祓える唯一の聖魔力を欲している切羽詰まった国家は世界各地に数多存在しています。貴族カースト最下層の男爵家は、ほとんどが商家上がりです。その格の低さゆえの自由度からいつでも聖女様を逃がせるフットワーク面においての利点こそあります。ですが、逆を言えば格上貴族ひいては他国の王族による拉致がひとたび成功してしまえば最後。戻らない期間を浄化の旅と思わせ非人道的従属の隠れ蓑に利用されても、取り戻せる算段がありません。共国内の王家のどこかが婚姻で囲い込まなければ、聖魔力を乱用される新たな犯罪を招くだけです。公務という形で能力行使の機会を敢えて制限しなければ、聖女様の人権を守ることができません」
言いたくないところを隠しながら聞き手の殆どが納得できる文章を構築するというのは、実はそこまで難しいことではない。想像力を掻き立てるために感情と倫理観に作用する展開へ繋がる言葉を選んでいけば、自ずと『嘘にはなっていないが真っ当に見せかけ本音を隠しただけの安易に大衆受けする答え』は作れる。
卑怯とでも言え、アラサー限界オタクの処世術をナメるな。
真にやばい性癖持ちのオタクとは、痛々しく浮くよりも完璧な社会人に擬態してこそ。その擬態ありきで言葉の節々や日常溶け込み系コラボグッズのファッション小物から一言二言ずつ探りを入れ、少しずつ少しずつ時間をかけて確信に近付いていく過程からでしか得られない達成感がある。その先に深めた絆同士で語らうニッチでディープな解釈談義ときたら、もう取り返しのつかない多幸感を伴うなんてものではない。いっそシャブまである。
脱毛やら美容やらファッションのような輝きになど、コスプレイヤーでもない限り真に興味などある訳がない。表に出せないキャラ同士の幕間解釈プレゼン大会と化した宅飲みでより純度の高い狂気に浸るため、我々あたおかオタクは推しを概念として身に纏い、推しをイメージさせる色味や材料の飲料を煽り作中に登場した料理を食らう。狂気に始まり狂気に寝落ちをかます内輪ノリこそ、オタクが生を実感するひとときなのだ。
隠すべき気持ち悪さが本性だからこその、そこを隠蔽し「これが好きなオタクみんな気持ち悪いよな」と推しを乏しめることのないよう培ってきた分厚い化けの皮。大衆に対しての当たり障りない伝え方をこれ以上ない慎重さをもって持ち合わせているにすぎない。
「二つ目の質問だ。九つある王家のうち、ディヴァンドワーズを限定して推す理由は?」
「王家が土魔法の黄色を象徴に掲げるここディヴァンドワーズ州の地の利です。共国で唯一海に恵まれない内地の州ですが、転移術と転送術を駆使した公共移動機関が他の州よりも発達しており、転移と転送の魔法陣が改良に改良を重ねた独自の発展を遂げています。聖女様の保護を目的とした逃亡補助を低リスクで実行でき、拉致元の攪乱にも効果は絶大。直接武力行使されたとして、州有貯蔵庫を他州の倍以上所持している当州の兵糧の利は明らか。陸上一次産業に傾倒しすぎているきらいは否めず、州属魔導士と魔導騎士軍こそ他州よりも少ないものの、逆に周辺はディヴァンドワーズの圧倒的食糧自給率の高さをあてにして各々の二次産業や軍事力を強化させてきた州ばかり。今まで他州に惜しみなく食料を供給してきた恩の分だけ援軍が望めるうえ、私ナエの前世の知識を応用すれば復興も速められるはずです」
永遠にも似たコンマ数秒のち、言わなければ勝ちと開き直った私は即座にうまいこと模範解答を叩き出した。
負の心同士が引き合い結びつくことで生じる具現化エネルギーをこの世界では瘴気と呼ぶ。瘴気は同じく負の感情に惹かれて集まり、その場にいるうち負の感情の持ち主を狂化させ魔瘴獣に変化させてしまう。
それを完全に祓えるのは、聖女だけがもつ銀色をした第十属性の魔力『聖』だけ。
公式設定本に開き癖が付くほど読み込んだ最推しとヒロインたんの設定が記載されたページの文面は、脳の皺より深く刻み込まれている。精神年齢二十六歳の咄嗟の機転と執筆系オタクの記憶力、どんなもんだい。
「わかった、では三つ目の質問だ。瘴気の原料として考えられる負の感情やそれを引き起こす状況を今思いつく限りでいい、挙げてみてほしい」
「悲しみとか痛み、苦しみ、嘘や妬み嫉み……劣等感、高慢、嗜虐欲、殺意、疲弊、飢え、伝染病、虐殺……ざっと思いつくものはこれくらいですね」
「では四つ目の質問だ。その負の感情がより強く発生するのに必要な条件として考えられる事象は。もしくは連想させるものは」
「悲しみは……大切な存在の死、痛みは……瀕死の怪我、苦しみはその怪我が長く放置されざるを得ない環境、嘘はプロパガンダ、嫉み嫉みや劣等感は身近な人の昇進……やはり戦争でしょうか。戦勝国も戦敗国も同じだと思います、あっ」
「そう、戦争よ。戦争が起きれば、長く続けば、濃厚な瘴気がより多く発生し狂化現象も比例して増加するはず。なのにその条件からこの共国は例外的に大きく外れているの」
公式設定本には『闇の黒シェチェルブラー国が瘴気を吸収充填してエネルギー源に変換できるよう、瘴気に呼応する特性を持つ特産品の闇晶石を融合させた兵器を開発に成功。大量生産することで瘴気の蔓延量が激減し、民の中に狂化が発生することなく終戦を迎えた』と記載されていたはずだ。私も親友も事実、公式設定だからこそ何の疑いも持たず他の部分についての解釈を深める語り合いに集中していた訳で。
伯爵夫人から指摘されて初めて気が付いた。九つの小国すべての戦死者と家族の無念の瘴気がたった一国の新兵器だけで一割近くまで減ったと、本当に信じて良いのだろうか。
「五つ目の質問だ。ならば何故シェチェルブラー国の圧勝をもって戦争は終結しなかった? 全ての対戦国から生まれる瘴気全てエネルギーになるというなら、一方的な侵略で世界全土を支配する統一帝国を築いていて当然だろう」
文面だけを見れば、復興財源を確保するのに夢しかない発明だ。瘴気滅却のためにその武器を求める国が後を経たないはずなのに『悪用による新たな開戦を恐れ、全ての開発記録と生産済み兵器を炎の赤グラニタータ州に依頼し完全焼却した』とは。
平和主義と言うにしても随分と欲のない話であり、そこまで無欲ならそもそも参戦自体が国家理念に矛盾する。余りにも都合が良すぎる戦争締結までのシナリオに、どうしてかつての世の私は何ら疑問を抱くことなく迎合していたのだろう。
「ここまでの話で、疑問があればなんでも答えよう。ナエさんには、全てを伝えるべきだ」
私は、このゲームにおいて最も肝心な設定について何の疑問も持たずにここまで来たのかもしれない。それが何なのかを知らなければ。
落ち着け。考えろ。今まで私のなかで当たり前でしかなく疑問を持とうとさえしなかったところに、きっとこの胸のざわめきの答えがある。
「瘴気エネルギー変換システム自体が、最初から存在していないプロパガンダということですか」
「その通りだ」
「その瘴気が世界で最も多い国は、どこですか」
「和国だ。自然に恵まれ海に囲まれ、二千年の間世界で唯一の永世中立国を保っている、島国だ」
前世でも、日本生まれのゲームらしい和の要素をネオヴィクトリアンのデザインの中に異端ながらもこれだけあからさまにぶち込み整合させるセンスがすごいと評価されていた和国の設定を、もう一度頭の中で反芻する。
ヨーロッパの貴族を踏襲したような階級社会が基本だった「スイプリ」世界のなかで、末端男爵家の養女であるヒロインたんは銀の聖魔法という異端の能力から友人が出来ず寂しい思いをしていた。
貴族教育を熱心に受けるプラリネに憑依した今だからこそわかった、まずそこがおかしい。ヒロインたんが養女になったのは、プラリネが熱を出す一年前の五歳の時。少なくとも男爵同士でくらいなら、付き合いの長い令嬢達のなかに、どれだけ得意な魔法持ちだろうがそれゆえのヒロインたんの孤独に寄り添える心優しい人格者の一人や二人いてもいいはずだ。その男爵令嬢同士でも馴染めなかったというなら、原因は能力ではなくヒロインたんの性格そのものによほど男爵令嬢たちと噛み合わない何かがあると考えるべきだろう。
貧しい農民大家族のなかで唯一銀の聖魔法を持っていると発覚した長女のヒロインたんは、視察のためにたまたま農園の近くに来ていた男爵の耳に入るや養女として引き取られた。爵位を受けたばかりの新参成金男爵家にとっての利害の一致から、大金を積まれて。五歳ならまだギリギリ貴族教育を叩き込むのに間に合うと見込んだのだろう。
たとえどんなに厳しく辛くとも、農民の頃よりも遥かに裕福な生活ができるうえに元の家族達が支援を受けられるとなれば石に齧り付いてでも熱心に教育を受けるのが本来の心理のはずだ。階級社会はより上のカーストに立ったもの勝ち。特に商家上がりがほとんどの男爵同士となれば横の繋がりがすべて。
貴族社会ではない場所で何一つ不自由なく恵まれた生活を長いこと送ってきた人生の経験者でもない限り、貴族教育を投げ出そうという考えに至らないのが普通だろう。自分が逃げれば元の大家族が農園を奪われスラム街に堕ちるのだから。
「聖女って、みんなこの世界の生まれですか」
質問の形をとったが、私の中ではそうではないと気付きつつある。終戦の記憶新しいハルバクラーヴァ共国、ましてやスラム街を除いて最も貧しい農民の生まれともなれば、わからない馴染めないと甘ったれたわがままなど許されるわけがない。
この質問自体から私の推理を悟ったらしい、伯爵と夫人は小さく溜息をついた。
「聖女召喚の儀式は、共国の州がそれぞれ君主政治の小国だった時代、九国戦争勃発の前年まではそう珍しいことではなかったのだよ」
やはりだ。ヒロインたんは、私の前世のような、よほど平和ボケ思想になって久しい高度な文明の国と時代からきた異世界人だったのだ。水準の高すぎる電気や機械の文明で生きてきた生育歴ありきのヒロインたんだからこそ、貴族教育を拒み投げ出されても男爵家は強く躾けられない。だって相手は「意思なくこちらの世界の都合で勝手に召喚された」被害者なのだから。
聖女として最低限の役割さえ果たしてくれればとやむを得ず甘やかし、いち男爵令嬢としての礼儀のなさに目を瞑るのも無理はない。まともな教養が身につくことを望めない以上、男爵夫妻としては家門の恥にならぬよう社交界に出さず、全ての教育と躾を最後の砦として王立学園に託すほかなかったのだろう。
気持ちはわからないでもないが、無責任にも程がある。前世で私がヒロインたんのことをいちばん好きな女性キャラだとはしゃぐ度に親友が生暖かい目をしていた理由はこれだったのか。生まれて初めてハマった恋愛ゲームだけに自分が盲目になっていたのがようやくわかった。それなりに裕福で両親の人脈がかなりの家庭に生まれた親友としては、貴族社会の縮図である王立学園で天真爛漫という大義名分のもとやりたい放題ストーリーを掻き回すヒロインの成長は余りにも今更すぎたはずだ。
自業自得の教養の無さを勢いだけの人助け精神で聖魔法頼りに乗り切る浅はかさは、結局はどのルートを辿ってもヒロイン補正の終わり良ければ全て良し落ち。親友の目からは、私の目以上に現実味に欠けていた茶番だったのだろう。よくよく思い返せば、ヒロインが玉の輿を掴むルートについて親友はストーリーを褒めた試しがなかった。
私もしかしてかなり失礼だったのでは。このヒロインたんを親友に似てるって褒めたぞ私、うわ最悪かよ。
それでも。やっぱり、私はヒロインたんを嫌いになりきれない。
青春真っ只中の花ざかりにおいて、スマホもコンビニもプチプラコスメもファストファッションもプラスチックも安い家電も存在しない世界に突然呼び出され、身体は栄養失調で痩せぎす、識字もままならない小学生。生まれは貧乏なその日暮らしの農民。ただ一人運良く金持ちに引き取られるも、前の世界で培った常識から考えれば理不尽で納得いかず無駄にしか思えない細すぎるマナーやエチケットのオンパレード。
それを社会のルールだから四の五の考えず黙って詰め込み従えと自室に缶詰めで教えられるのだ。前世と違い食事や服の奪い合いが常の家族を人質に取られたとて、やってられるかと投げ出したくなるのも無理はない。
今の私だって正直なところ、携帯に触れるものなら触りたい。
「異世界干渉の研究が進み、一方的な召喚術に限り可能という理論が世界魔導学会から発表された。召喚のための魔法陣が開発されて間もなく最初に異世界人召喚の儀式が行われて以来、世界各地でも文明発展や復興を目的とした聖女召喚の儀式が行われるようになる。しかし、その聖女召喚は年を経るにつれてリスクを追う諸刃の剣の儀式となっていった。術の副作用として、召喚地に瘴気と呼ばれる負のエネルギーが発生する事例が増え始め、狂化による魔瘴獣と魔瘴獣による被害が比例して増加した」
世間で流行りの異世界召喚だの異世界転移と無縁のゲームだとばかり思っていたのに。裏切られた気持ちと納得が共存する奇妙な感覚に戸惑う私をそのままに、伯爵の話は続いていく。