クラスの美少女が盗撮した俺の写真を見てニヤニヤしてるんだけど
突然だが、俺、田中祐樹には好きな人がいる。
その相手は今日も今日とてお美しい姿でクラスに笑顔を振りまいていた。
秋月まなみ。
クールな顔立ちと黒髪ベリーショートで、女子から『王子様』と言われている彼女だが、肌は白く透き通っており、仕草や表情も女性らしいため男子からも人気が高かった。
そのため、入学した時は男女問わず告白が絶えなかったが、秋月自身部活に集中したいという事で一度も付き合った事はないらしい。
そんな秋月の事を俺が意識しだしたのは、入学して1年が過ぎた6月の事。
俺が所属している天体部で遅くまで作業をして帰宅していると、ソフトボール部のグランドで練習している秋月を見つけた。
そしてその時の秋月は、泥だらけのユニフォームで黄色の金属バットを腕がちぎれそうな程思いきり振りながら、号泣していた。
ちょうど運動部の夏の県大会が行われている時期であるため、その涙の理由ははおおむね予想できた。
ただその姿は、クラスでいつも見ている冷静で丁寧で綺麗な秋月のイメージとかけ離れていてとても印象的だった。
きっとこの瞬間に俺は秋月を好きになったのだと思う。
見た目などではなく、自分が好きな事を一生懸命、号泣できるほど打ち込んでいる彼女にとても惹かれた。
そうやって恋に落ちて早3か月、すっかり夏の残暑も落ち着き運動部の連中の肌はこんがりと焼かれ、学校の制服もブレザーに変わったのだが、俺と秋月の関係は何も変わる事がなかった。
ただ、秋月を意識しだして1つ思った事は、とにかく秋月と目が合う。
例えば登校の時、秋月と俺は偶然にも毎朝同じ電車同じ車両に乗っているのだが、一分間隔で目が合っている。
きっと秋月からしたら急に、もさっとした同級生からじろじろ見られるようになり戦々恐々として余計気になってしまっているに違いない。
だが俺は秋月を見ることをやめられなかった。なぜなら、秋月は見ているだけで幸せな気持ちになるからだ。
今の人生で恋とは無縁だった俺は、見てるだけで幸せになれるこの感覚は初めてでとても心地よかったため、やめる事ができなかったのだ。
そんなこんなで、何もアクションを起こせない俺は、今日もクラスメイトに囲まれている秋月を隅から盗み見ていた。
「相変わらず秋川ちゃんの事好きな、お前」
「……うるせー」
すると、前の席で悪友の武田がジト目でそう声をかけてきた。
武田は俺が秋川を好きな事を知っており、時折こうやって弄ってくる。
ちなみに武田は野球部の主将であり同じくソフトボール部の主将である秋月と交流があるため、前に恋愛相談をしてみたのだが『お前らうざい』と言われたのみだった。
いやお前らってなんだよ、と思ったが武田があまりにもめんどくさそうだったためそれ以上は追及できなかった。
「お前らの事はじっくり見ていくことにしたから、まぁ頑張れや」
「……はぁ、応援してもらえてると受け取っておくよ」
俺は適当にそう返して、当たり前のようにまた秋川の方に目を向ける。
「っ!」
するとまた秋月と目が合ってしまった。
それだけで俺の心は幸せで満ちて、今日一日頑張れると思えた。
はぁ、幸せだ……。
「……ったく、はやくくっつけよ(orはよくっつけよ)」
前の武田から何やらイラついたような声が聞こえたが詳細までは聞き取れなかった。
まぁとりあえず今はこの幸せな感情を存分に味わうとしよう。
〇
その日の放課後。
俺はいつも通り天体部で作業して、最寄り駅で電車を待っていた。
この時間帯はサラリーマンの帰宅ラッシュと被るため、駅のホームは電車を待つ人で大量の列をなしていた。
はぁ、相変わらず人多いな。結構ギュウギュウになるからマジで乗りたくないんだよな。
でも、家の夕飯時間もあるし……。
そんな事を考えていると、駅のホームに地響きを鳴らしながら電車が滑り込んできた。
そして電車のドアが開いた瞬間に、ホームで待っていた人が一斉に電車へ乗り込んでいく。
俺も前の人に倣って電車に乗りこみ、いつもの座席前のポジションでつり革を握った。
その一連の動作で、俺はほとんど顔を上げずに、スマホに目を落としながら移動してしまっていた。
だからだろう。
「……っ!」
俺は、今自分の隣にいる人物の事に全く気付かなかった。
その人物ーー秋川まなみは、俺の事など気づかず、いつものように美しい横顔でスマホを見ており、左手で髪を耳にかける仕草もとても美しかった。
確かに秋川からしたら俺なんて普通の同級生だろうし気づかないのも無理はない。
しかし俺にとっては重大事件だ。
なにせ大好きな人間がこんなに近くにいるのだ。
汗があふれ出してくるし、俺の耳は真っ赤になっているに違いない。
それくらい俺は平常心ではいられなかった。
しかし、それ以上に平常心ではいられない事が目の前で起きてしまう。
それは、秋川が今見ているスマホの画面。
そこにまるで盗撮したような俺の写真が写っていた。
教室で授業を受けている俺や昼休みに爆睡している俺、武田と談笑していたり、体育祭でリレーに出る俺など様々な写真を秋川は恍惚とした顔で見ていた。
加えて秋川がその写真を見ながら、「ぐふふ」となにやら小言で呟いている。
「え……」
そんな目の前の光景が信じられず、意図せずもれてしまったその声。
そしてそれは秋川にもばっちりと届いてしまったようで、秋川はゆっくりと俺を見て絶望的な表情を見せた。
「……」
「……」
その後俺たちは、お互い黙ったまま電車に揺られ続け、先に最寄り駅に着いた俺が何もなかったように電車を出た。
「えっと、夢だな、これ」
俺はあの出来事が信じられずにそう呟いて、帰路に向かった。
〇
その翌日。
結局昨日の夜は秋川の事を考えすぎて、一睡もできなかった俺は睡眠不足のまま教室に入った。
「あの、田中君。少しいい?」
すると、開口一番にもじもじしたように秋川がそう声をかけてきた。
「お、おう、全然いいぞ」
まだ朝のHRまでは時間がある。
俺と秋川は一緒に教室を出て、屋上に向かった。
そして屋上に着くと、秋川が顔を真っ赤にしながら話始めた。
「えっと、田中君に言いたいのは、昨日の事で」
「うん」
「すみません! 私、田中くんの事盗撮してました!」
腰を90度に曲げ、頭を下げる秋川。
練習してきたのかと言いたくなる程綺麗な謝罪姿だ。
「……えっと、そう、なんだ」
「……き、嫌いになったよね? 私きもいよね? 本当にごめんなさい」
「い、いや別にいいんだが、なんでそんな事したんだ?」
「え、えっと、それは……その、田中くんの顔を見ると幸せな気持ちになるっていうか、心地よくなるっていうか」
「……」
「その、私田中くんの事が、好き、なんです」
「……」
「え、田中くん? 固まってる?」
……可能性としては考えていたが、まさか本当にこんな事が起きるとは。
人間、驚きすぎると何もできなくなるというのは本当らしい。
「……あの、結果はわかってるんですが、一応、念のため、告白の返事貰ってもいいですか……? 勿論私盗撮するようなキモイ女だし無理だろうけ」
「俺も大好きだ」
「だ、だよね。無理……って、え?」
「だから、俺も、秋川の事、大好きなんだけど」
「……」
どうやら秋川もさっきの俺と同じ状況になっているようだ。
顔が固まってしまっている。
「う、嘘。だって、私たち、何も関わりないし」
「話したことなくても、俺はソフトボールしてる秋川を見て素敵だなって、思ったよ。それで、好きになったよ」
「……あぅ……嬉しいし顔赤くしてる田中くん可愛すぎて死ぬ」
「いや死なないでくれ。でも、俺こそ秋川に好かれるなんて」
「私は……もう10年田中くんの事好きだから」
「え、10年?」
「うん。小学校3年生の時に、近くの小学校の子供会で天体観測しに行ったの覚えてる? あの時私田中くんに会ったんだよ。同じグループで」
そのイベントは覚えている。
俺が天体に興味を持ったきっかけの出来事だったから。
しかし、秋川の事は全く覚えていない。
「あの時、夢中になってる田中くんを見てカッコいいなって思って、多分それから今までずっと好き。他校を、交流があるイベントは積極的に参加して田中くんがいないか一生懸命探したし」
……やめてくれ。
「塾で田中くんと同じ小学校だった子に田中くんがどの中学か聞いて、部活で田中くんのいる学校に行くときはずっと探してた。一度だけ見つける事が出来たんだけど、その時は可愛い女の子と歩いててすごくすごく悲しくなった」
……顔がニヤけて仕方ない。
「町の花火大会でも、ショッピングモールでもずっと田中くんいないかなって探してた。だから、高校の入学式で田中くんを見つけたときは胸が飛び出るくらい嬉しかった。やっとこれで一杯アピールできるって思った。けど、私そういうの疎くて全然うまくできなくて」
「……」
「ずっと田中くんの顔見られたらいいなって、ほんの出来心で盗撮し始めたんだけど、色んな表情の田中くん見る度にどんどん好きが止まらなくなっちゃって。結局ずっと盗撮しちゃいました。すみません」
顔を真っ赤にしながらそう謝るも、秋川は零れる笑みが抑えきれていない。
そしてそれは俺も一緒だった。
にやけが止まらない。
「別にいいよ。大好きな女の子に盗撮されてもなんも思わない。むしろ嬉しいよ。それに」
俺は言いかけて、自分のスマホの写真を出す。
そこには、教室で笑顔を見せる秋川の写真が写っていた。
「……え、これって」
「……その、実は、俺も秋川の事見ると幸せな気持ちになるから、盗撮してたんだよね。ごめん」
そう、俺も秋川を盗撮していた。
理由は秋川と全く同じで、ずっと秋川の顔を見ていたかったから。
「ふふっ、私たち、何やってるんだろうね。きもいよね」
「ああ、本当にきもいと思う」
「でも私、今すっごく嬉しい」
「俺もだ」
涙を流しながら、笑みを見せる秋川はこれまで見たどの秋川よりも美しくて、いとおしかった。
「今度からは盗撮じゃなくて、ちゃんと写真撮ってもいいんだよね?」
「勿論。俺もいっぱい撮らせてもらうぞ」
「うん。じゃあ、1枚目ここでもいい?」
「え、あ、ああ」
秋川は俺に肩を寄せ、スマホで写真を撮る態勢になる。
「じゃあ、はいチーズ」
その瞬間。
なにか、頬に柔らかい感触を感じた。
それがなにかは写真を見ずとも分かった。
秋川は顔を真っ赤に染めたまま、満面の笑みのまま口を開いた。
「これからは、一緒に写真撮ろうね、田中くん。……好きだよっ」
きっと今の彼女の笑みは世界で最も美しいに違いない。
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