道化師の花
男の子の手のひらには、真っ直ぐ茎の伸びた、綺麗な黄色い花が咲いていた。その花は、男の子が誰かを笑わせると成長した。逆に、誰かを笑わせることができなければ、どんどんと萎れていった。
男の子は、誰かを笑わせることが好きだった。他人に認められた気分になれるからだ。ここにいてもいいんだ。そう思える。
ある日男の子は、公園でひとりぼっち遊んでいる寂しそうな子に話しかけた。
「ねぇ、僕と一緒に遊ぼうよ!」
男の子は、ひとりぼっちの子とおしゃべりをすることにした。
「どこの小学校に通っているの?」
「南小学校です。」
よし、チャンスだ!男の子は、そう思った。
「えーー!!!めっちゃ近いじゃあぁん!!!」
すごく大袈裟に驚いて、尻もちをついてみた。
「え……。」
あ、しまった。
彼の手に生えたきれいな花が少しずつしおれていった。
「あいたたた。うわぁお!こんなに汚れちまった!!」
少し古い喋り方をする。そして、またもや大袈裟に驚いてみる。けれど、ひとりぼっちの子は、少しも笑わない。
「何をやっているのですか?」
冷たい目だった。
「いやぁ……。隣の小学校って聞いて、驚いたっていうか、なんというか……。こんな転んで、僕めちゃくちゃ恥ずかしい奴じゃねえか!!」
またもや、面白おかしい言い方をして、ヤケツッコミとかいうものをいれてみた。
「……あ、うん。」
完全にやらかした。これはもう、修復不可能。男の子は、彼に出会ったこと自体をなかったことにしなければならないと感じた。
そんなとき、男の子の友人が公園にやってきた。
「遅れて悪いー!!サッカー始めようぜ!」
「お、おう!」
「ん?なんだこいつ?」
「はじめまして。僕、南小学校の高木康太と言います。」
「ガハハッ!堅苦しいなぁこいつ!何者だぁ?」
「僕は、小学生2年生でして、この近隣に住んでおり……。」
「面白いなお前!一緒に遊ぼうぜぇ!」
男の子は、ひとりぼっちだった子が面白いと言われたことに、強烈な嫉妬と絶望を感じた。手のひらにある花が縮んでいく。
「あ、あの僕サッカーは苦手でして、」
「そんなこと気にすんな!ていうかお前、キャラ濃いな!」
「キャラが濃いとは、一体どういう意味なのですか?」
「ガハハハハハッ!そ、そういう所だよッ!アッハハハハッヒーッお腹痛い!」
目の前に黒いモヤがあるのを感じた。
それを振り払うように、彼は、腕をゆっくりと横に広げ、ほとんどなんにも考えずに、手と手を『パンッ』と叩き合わせた。
花が散る。茎が折れる。中から赤い汁がぐしゃっと溢れ出した。花から出た汁は、指を伝い、腕を伝い、最後には、地面へと落ちていった。
他人という存在が、馬鹿馬鹿しいと思った。
彼は友達に何も言わず家へ帰って布団に潜った。母親も、父親も、妹も、友達も、先生も、誰かの名前を頭の中で考えることすら面倒くさくなった。
彼の手に咲いていた花は、ありえない方向に曲がった関節を見ているようで、グロテスクだった。赤い汁と、黄色い花が、彼に何かを訴えることはなかった。
それ以来、彼の姿を見たものはいない。彼の友達が何度も家を尋ねたが、男の子は一向に気配を現さなかった。学校にも行かず、連絡もせず、部屋で1人、一体何をしているのだろうか。




