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3

足早に人を掻き分け、セシリアは扉を目指す。その時、不意に使用人が手にしているグラスが目についた。普段なら酒は飲まない、と言うより飲めない。理由は簡単で、ただ単に弱いからだ。ワイン数口で酔いが回る。その場では気分が悪くはならないが、次の日、頭が割れるかと思うくらいに痛くなる。それが分かっていても、今はどうしても飲みたい気分だった。


「それ、頂けますか」


使用人の返事も待たずに、セシリアはトレーの上のワイングラスを勢いよく掴み取る。使用人は呆気に取られているが、そんな事はお構いなしにセシリアはそのまま一気に飲み干した。









例えるならば、まるで雲の上を歩いている様だ。とても気分が良い。セシリアは覚束ない足取りで、気が付けば中庭にいた。どうやって此処まで来たのかはもはや覚えていないが、そんな些細な事はどうでも良かった。それよりも身体が熱っているので、少し冷たい風が実に心地良い。セシリアはその場にしゃがみ込み、目を閉じた。


「やあ、また会ったね」


突然聞こえた声にセシリアは顔を上げる。すると、そこには何時かの美青年が立っていた。


「…… ヴァルヴァル、さま」


「惜しい、ヴァルタルだよ」


頭の中ではちゃんと「ヴァルタル様」と言ったつもりだったが、舌がもつれて上手く発音出来なかった。だが名前を間違われた彼は怒る事もなく、笑いながら手を差し出してきた。


「セシリア嬢、随分と飲んだみたいだね。大丈夫かい」


「……わたし、ダメな子なんです。だからルーカスさまに、捨てられちゃいました」


目の前に差し出された彼の手を取らず、ただじっと眺めた。どうしてそんな事を言ったのか、自分でも分からない。こんな事を言われたヴァルタルはきっと困るに違いない。そう分かっているのに、無性に彼に聞いて貰いたかった。


「あんな男は君の結婚相手に相応しくないし、あんな性悪女は君の友人には相応しくないよ。向こうから悪縁を切ってくれたんだ、寧ろ喜ぶべきだと俺は思う」


「……」


意外な言葉にセシリアは大きな瞳を見開いて、彼を見つめた。すると彼もまた真っ直ぐにセシリアを見つめる。優しさの中に少し妖艶さを孕んだ瞳から、何故か目が離せない。風で冷まされた身体が、また熱く感じる。


「おいで……セシリア」


気が付けば、彼の手を取っていた。


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