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セシリアが夜会の開かれるオービニエ侯爵家の屋敷に到着し馬車から下りると、既に夜会が始まっている様で音楽が洩れ聞こえてきた。

ルーカスの侍従が屋敷に来た時間は夜会の始まる時間だった。他意はないと思いたいが、もしかしたらセシリアを後から来させる為に意図的に仕向けた様に感じてしまう。


足取りが重い中、セシリアは侍従に案内され広間に向かう。正直、帰りたい。何となく不穏なものを感じる。何故彼は先に行ったのか……。考えられる事は、ベアトリスだ。彼女をエスコートする為に、セシリアとの約束を反故にして更には時間まで遅く来る様に仕向けさせた。若しくは、夜会そのものを欠席させようとした可能性もある。


モヤモヤと考えながら歩いていると、広間に着いてしまった。此処まで来たのだから流石に帰れない。内心ため息を吐きながら、セシリアは中へと入った。


軽快な音楽や煌びやかなシャンデリアと夜会の参加者達。皆一様に愉しそうにしていたが、セシリアに気が付いた瞬間、ヒソヒソと話し始める。気不味そうにする者や好奇の眼差しを向けてくる者もいる。居心地の悪さを感じながらも、セシリアは広間を見渡しルーカスを探した。すると探すまでもなく、直ぐに見つかった。彼はベアトリスと仲睦まじい様子で身体を寄せ合い、ダンスを踊っている。余程夢中になっているのだろう、セシリア同様ルーカス達にも向けられている周囲からの視線に、二人が気付く様子はまるでない。


仕方がない。取り敢えず二人のダンスが終わるまで、壁の花にでもなっているかと、端に寄った。だが、壁の花と言うよりは珍獣になった気分になる。何しろ周囲はセシリアから距離を取り、遠巻きにチラチラと眺めてくるからだ。


どうしてこんな目に遭わなくてはならないのか……。


ルーカスとベアトリスの事でショックで仕方がないのに、晒し者にまでなるなんて思いもしなかった。本当に最悪としか言いようがない。

暫くして音楽が変わると、ようやくそこで二人はダンスを終えて下がって来た。セシリアは一瞬躊躇うが、グッと身体に力を込めると、ルーカスとベアトリスに声を掛けた。


「ルーカス様、お待たせ致しました。遅くなり申し訳ありません。それに、ベアトリス様、ご機嫌よう」


背後から声を掛けると、二人は振り返り何時もと変わらない笑みを浮かべる。


「セシリア、遅かったな。今夜はもう来ないのかと思ってしまったぞ」


少し眉根を寄せ如何にも心配しているかの様な態度と白々しい言葉に、笑顔が引き攣ってしまう。


「セシリア様、ご機嫌よう。中々いらっしゃらないから、丁度ルーカス様と心配していた所でしたの」


ふんわりとベアトリスの金色の髪が揺れる。青い瞳と鈴を転がすような声。同性のセシリアから見ても、文句のつけようもないくらい魅力的な女性だ。きっとルーカスでなくとも、男性ならば誰だって彼女に惹かれるに決まっている。


「私、知りませんでした。お二人は、随分と仲が宜しいのですね」


言ってはダメだと思いながらも、勝手に口を突いて出てしまう。


「君が遅かったから、ベアトリスと少しダンスをしていただけだ」


「そうですわ、セシリア様。誤解なさらないで下さいな」


笑みを浮かべながら、弁解をする二人の顔がまるで仮面を貼り付けている様に見えた。どうして今まで気付かなかったのだろう。ルーカスもベアトリスも、笑っているのは口元だけで、セシリアを見ている目は冷めている。


「そう言うの、良いですから……」


「セシリア?」


「私、知っているんです。以前お二人が口付けをしているの見てしまったから」


言ってしまった……だが、後悔はない。三か月前は、忘れようと思った。だが今日改めて二人が仲睦まじくしている光景を見せられて、それが間違いだったと気が付いた。


「……たく、面倒な女だな君は。そういう事は、普通見て見ぬフリをするのが当然だろう。そんな事も分からないのか」


セシリアの言葉を聞いたルーカスの顔からは、スッと何時もの穏やかな笑みは消え、代わりに嘲笑された。


「そうですよ、セシリア様。そんなんだから、ルーカス様は貴女に愛想尽かしてしまうんです。私なら浮気の一つや二つ、見て見ぬフリをしますわ。それが淑女というものですもの」


浮気をされたのはこっちなのに、何故か開き直った二人に叱責をされる。


「まあ、良い。そろそろ頃合いかと考えていたんだ。良い機会だ、言わせて貰う。君みたいな、つまらない女性とは結婚などしたくない。故に君とは婚約破棄させて貰う」


婚約破棄って何だっけ……急展開に頭がついていかず、莫迦みたいに一瞬言葉の意味を考えてしまった。


「ベアトリスは君とは違って、全てが完璧だ。容姿、性格、立ち振る舞いから思考まで、君は彼女に劣っている」


今までそんな風に思われていたんだ……。


セシリアは、唇をキツく噛んだ。悔しくて、悲しくて、情けなくて、自分が惨めに思えた。ずっとこの二人はそうやって、自分を蔑んでいたのだろう。


「……分かりました、ルーカス様のお好きにして下さって結構です」


ようやく絞り出した声でそう答えると踵を返した。これ以上この場に留まりたくない。先程から聞き耳を立てていた周囲からの視線も痛い。


「セシリア様、ルーカス様を譲って下さって本当にありがとうございます」


そんな愉しげなベアトリスの声が背中越しに聞こえて来た。






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