エピローグ
盛大で華やかな挙式は滞りなく終わった。ヴァルタルは大勢の人々の前で、彼女が自分だけのモノだと大袈裟なくらいにアピールをした。普通なら結婚したのだからそんな事をする必要などないのだが、何しろ彼女は魅力的な女性だ。油断ならない。特に純白のドレスを着た彼女は最高に綺麗だった。もしかしたらこの瞬間にも、この美しい彼女に心奪われている男達がいるかも知れないと思うと気が気でない。
それに、自分と彼女の事を未だに陰で不純だと笑う者達もいる。そんな人間に如何に自分が彼女を愛しているかを見せつけてやったのだ。それと我ながら性格が悪いと思うが、セシリアには内緒でベアトリスとその夫にも招待状を送っていたのだが、結局欠席だった。ただ、悔しがり怒り狂うベアトリスの姿が目に浮かび、内心痛快だった。愛するセシリアを傷付けた罪はこんな事では消えないが、細やかな復讐だ。因みにルーカスには招待状は送っていない、というより送れなかったが正しい。勘当された後、彼の行方は分かっていないからだ。残念ではあるが、まあ仕方がない。
「ヴァルタル様?」
「あぁ、すまない。少し考え込んでいた」
セシリアの声でヴァルタルは我に返る。暫し意識を飛ばしていたが、今はそれどころではなかった。所謂正念場というやつだ。挙式の後、シュワール家の本邸では豪華絢爛な夜会が開かれ、今も尚それは続いている。夜会は一晩中続き、終わるのは朝方になるだろう。主役の二人であるヴァルタルとセシリアは、挨拶回りを済ませ早々に退散した。何しろ今夜は待ちに待った初夜なのだ。一秒でも早く彼女に触れて、彼女と結ばれたい。
「どうした、セシリア。そんな端に寄って」
身体の線が透けて見えるくらい薄いネグリジェを着て、ベッドの端で小さくなるセシリアを見てヴァルタルは笑う。手招きをするが、恥ずかしそうにするばかりで中々近付いて来ない彼女に、ヴァルタルは待ち切れず自ら近寄る。
「あ、あのっ……」
「セシリア、恥ずかしいのか?本当に君は可愛いな……」
「ヴァルタル様……んっ」
我慢出来ずに柔らかな唇に食らいついた。段々と彼女の身体からは力が抜けていき、ヴァルタルは身体を支える。夢中で貪りながら、初めて彼女と床を共にした夜を思い出していた。
可哀想なくらいに傷心し、酔い潰れていた彼女をベッドに寝かせた。口付けをすると、薄らとした意識の中で彼女は応えてくれた。一応彼女に抱いていいかと訊ねると、彼女は頷いてくれた。まああれだけ酔っていたのだから、そんな確認は意味がないのだが。ただヴァルタルはこんな機会は二度とないと、自分の都合の良い様に判断し彼女のドレスに手を掛けた。
「ヴァルタル、さま……」
「セシリア、可愛いよ……あぁ堪らないな、もう、俺だけのモノだ」
彼女には言っていないが、実はあの日、最後まではしていない。かなり辛かったが、流石に泥酔状態の彼女にそこまでは出来なかった。ただ既成事実が必要だったので、彼女には何も言わなかった。
「辛くないか?」
「大丈夫、です……」
事が終わり、ベッドで二人裸で抱き合う。セシリアは恥ずかしいのかヴァルタルの胸に顔を埋めていた。そんな彼女に、また込み上げてくるものを感じ、ヴァルタルは生唾を呑む。
想像していた何倍いや何百倍も気持ちが良かった……。
これまで我慢をしていたが、あんな快楽を知ってしまったら、もう我慢など出来る自信がない。これ以上ないくらいにセシリアが愛おしいのに、抱いた後、更に愛しさが込み上げてきた。彼女が欲しくて仕方がない。正に幸せの絶頂だ。
「セシリア、もう一回いいか」
「え、あっ……」
結局この後朝方まで彼女を抱き続けてしまった。
◆◆◆
ヴァルタルと初夜を迎えた翌朝。セシリアは悲鳴を上げた。その理由はシーツが赤く染まっていたからだ。
「セシリア⁉︎どうしたんだ⁉︎」
「ヴァルタル様!ち、血がっ」
ヴァルタルは、パニックなるセシリアを優しく抱き締め背中や髪を撫でて落ち着かせてくれた。そしてそんな彼から衝撃の事実を告げられた。
「心配はいらない。これは君が純潔だった証だ」
あの夜からずっと自分は生娘ではないと思っていた。呆気に取られるセシリアにヴァルタルはあの晩の出来事を事細かく説明してくれた。
「軽蔑したか?」
互いに裸のまま抱き合いながら、セシリアを見る彼の瞳は不安気に揺れている。
「騙し討ちみたいな真似をして悪かったと思っている。だが、軽蔑され嫌われようと、今更俺は君を絶対に手離さない。諦めてくれ」
謝罪なのか脅されているのか、はたまた諭されているのか分からないが、一つ言える事は彼は至って真剣だと言う事だ。思わず笑いそうになる。
「諦めるも何も、もう私はヴァルタル様の妻です。これからは、何があってもずっと貴方の傍にいます。だから私を、手離さないで下さい」
私達はあんな始まり方だったけど、そんな事は関係ない。未だに不純だと笑う人達もいるが、そんな人達に私は胸を張って言える。誰よりもヴァルタル様を想い、ただ純粋に愛していると。この想いに嘘偽りはないのだと……。
お終い




