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「……軽蔑しましたよね」


セシリアとヴァルタルが馬車に乗り込むとゆっくりと動き出した。彼の向かい側に座るが、怖くてまともに顔が見られない。


「軽蔑?何故?」


「幾ら二人が悪くても、あんな風に侮辱するなんて淑女失格ですから……」


ベアトリスの事を性悪女だと言ったが、人の事を言えない。部屋を後にする直前、ルーカスへの捨て台詞は流石に言い過ぎだったかも知れない。別にルーカスやベアトリスにどう思われても構わないが、やはり好きな人から軽蔑されるのは辛い。セシリアは冷静になり、今更ながらに項垂れる。


「まあ確かに、意外ではあったよ。まさか君があそこまで言うなんて思いもしなかったからな」


愉しそうにそう話すヴァルタルだが、彼は優しい人だから気を遣っているに違いない。


こんな口汚い女は嫌だとか思われてやはり婚約はしないと言われたらどうしよう……。


「セシリア」


俯いたまま目を瞑っていたセシリアの耳元に、不意にヴァルタルの少し低い声と息が掛かり、ピクリと身体を震わせた。


「ヴァルタル様⁉︎」


驚いて顔を上げると、彼は立ち上がりセシリアを抱き上げ自らの膝の上に座らせた。


「俺のセシリアは優しく愛らしいだけじゃなく、芯が強くて、少しだけ気が強いのだと知って……惚れ直したよ」


「ヴァルタル様……」


「どんな君でも愛おしいと思う。だから軽蔑なんてあり得ない。寧ろ君の事が好き過ぎてどうにかなりそうなくらいだ。……遠くから見ているしか出来なかった君が、今こうして俺の前にいて触れる事も出来る。たまに夢でも見ているかと思ってしまうんだ。もう婚約までするのに内心莫迦みたいに不安になったりもする。ルーカスにだけじゃない。正直、今でも君を他の男に奪られてしまわないか気が気じゃないんだ。直ぐにでも君を俺だけのモノにしたくて堪らない」


首元に顔を埋めながらキツく抱き締められ、彼の呼吸や心音、匂いに包まれ頭がクラクラしてくる。


「私は既にヴァルタル様だけのモノです」


口から勝手にそんな言葉が出た。まさか自分がこんな事を言うなんて……凄く恥ずかしくなる。心臓が煩いくらいに脈打ち破裂しないか心配になった。


「頭では分かっているんだ」


頬を撫でながら顔を上げさせられると、熱を帯びた彼の瞳と目が合い、吸い込まれそうだと思った。


「セシリア……口付けていいか」


恥ずかしさに震えながらも、ゆっくりと頷いた。するとヴァルタルの唇がセシリアのそれに重なった。始めは触れるだけだったが、彼は言葉通り焦燥感に駆られる様にして直ぐに深いものへと変わった。


「はぁっ……」


暫く貪られる様にして口付けられていたが、息が苦しくなりセシリアが身動ぐと、ヴァルタルは唇を離す。


「す、すまない……調子に乗ってしまった」


「い、いえ……」


彼はセシリアの唇を親指で名残惜しそうに何度も撫でてくる。少し息遣いが荒い様に見えた。触れられている唇も、顔も身体も全てが熱い……どこか疼く感覚に不思議な気分になった。


「ヴァルタル、様……?」


名前を呼ぶと彼はハッとした表情で慌てて手を離す。


「ダメだな、自制が効きそうにない」


セシリアを抱き上げ、元の場所に座らせると彼もまた元居た向かい側に座る。


「今更だと笑ってしまうかも知れないが、君を正式に妻にするまでは手は出さないと決めているんだ」


彼の気持ちがヒシヒシと伝わってきて、大切に思ってくれているのだと感じた。その事が嬉しくて胸が一杯になる。


その後、馬車が止まるまで二人の間には沈黙が流れたが、心地良いものだった。




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