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「何がおかしいんですの⁉︎」


セシリアが小さく笑うと、ベアトリスは過剰に反応し、怒声を上げる。


「申し訳ありません、ベアトリス様。でもベアトリス様の事を笑った訳ではないんです。ずっと何も気付かなかった私自身が鈍感で莫迦過ぎて、可笑しくなってしまって……」


一頻り笑った後、スッと表情が抜け落ちたのを自分で感じた。


「ベアトリス様。確かに貴女の仰る通り、私は貴女みたいに綺麗でもなければ賢い訳でもなくつまらない女で、貴女からしたら引き立て役に過ぎないかも知れません。貴女がヴァルタル様と結婚したいと仰るならそれもまた仕方がない事だと思います」


「セシリア⁉︎」


ヴァルタルはギョッとした様にセシリアを見るが、セシリアは彼ににっこりと笑って見せた。


「ただそれを決めるのは私でもなければ貴女でもない、ヴァルタル様自身です。ヴァルタル様がベアトリス様を妻にと望むなら、私は潔く身を引きます。私は愛する方には、幸せになって貰いたいんです。例え自分が彼に望まれなくても……」


嘘じゃない。彼がもしベアトリスを選ぶなら、辛く悲しいが仕方ないと思う。セシリアはいつの間にか、優しくて誠実な彼に惹かれていた。ずっと一緒にいたいと思えるくらいに、彼が好きだ。だから自分の幸せよりも、ヴァルタルに幸せになって貰いたい。こんな風に思えたのは生まれて初めてだった。ルーカスへは決してない感情だった。


「それと、ルーカス様ですが……ベアトリス様が要らないと仰るなら仕方ありませんが、私に返されても困ります。だって、私もこんな性悪女と浮気する様なしょうもない方は要らないですから」


今度はベアトリスを真っ直ぐに見てにっこりと笑って見せると、彼女は口元をワナワナと震わせていた。だが言葉が出ない様で黙り込んでいる。流石に口悪く言い過ぎたかも知れない。きっとヴァルタルにも引かれたかも……と思うが、気分は清々しい。


「ははっ、完敗だな。本当に最高だよ、君は。これは、ますます君を好きになってしまうな」


ヴァルタルは声を上げて笑いながら、セシリアの額や頬に口付けをする。予想外の反応に目を丸くするが、彼は愉快そうに笑う。その事に思わず頬を染めた。


「俺の望みも幸せも全て、君にある。君以外考えられない。セシリア……改めて言わせて欲しい、俺の妻になってくれるか」


「ヴァルタル様……はいっ」


嬉しさと安堵感に思わず涙が溢れてきた。ベアトリスと彼が浮気しているとルーカスから聞かされて、不安で不安で仕方がなかった。信じたいのに、ヴァルタルもまた彼女を選ぶのではないかと、心のどこかで諦めている自分がいた。信じきれなかった自分が情けない。


「セシリア!君は錯覚しているだけでその感情は紛い物だ!目を覚ませ。その男に身体を奪われて、仕方なく好きだと思い込もうとしているだけだ。過ちを正当化する為にな」


床に転がり意識を飛ばしていたルーカスは、いつの間にか目を覚ましていた。身体を起こし床に片膝を突きながら頭を押さえている様子から、まだ立ち上がる事が出来ないのだと分かる。


「私は確かにベアトリスの誘惑に惑わされてしまい、過ちを犯した。だが、いやだからこそ気が付けた。本当に愛しているのは君だけなのだと。遠回りしてしまったが、これも愛の試練なのかも知れない。いや絶対にそうに違いない!私達の愛が真実か否かを神が試されたんだ!さあ、セシリア!」


「っ……」


そう言いながらルーカスは手を差し出してくるが、セシリアはそれを叩き落とした。正直かなり気持ちが悪いし怖い……。ヴァルタルにしがみ付く様に身体を更に寄せると、彼はぎゅっと抱いてくれた。


「確かに始まりは不純でした。周りからもそんな目で見られている事も知っています。でも、私はヴァルタル様と過ごす内に、彼の優しさや誠実さに少しずつ惹かれていきました。私はヴァルタル様が好きです。この気持ちは本物です。貴方や他の誰かから、とやかく言われる筋合いはありません!」


言い切った……ルーカスを睨みセシリアは息を吐く。ルーカスは口を半開きにして呆然として見ている。そんな中、ベアトリスの隣にいる青年が茶化す様に口笛を吹く。


「何だか見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、ラブラブだね」


「ロルフ、余計な事を言うなっ」


「はいはい」


薄明かりでも分かるくらい顔を赤くして抗議するヴァルタルに、ロルフは肩をすくめ笑った。


「セシリア、帰ろう」


彼に手を引かれ扉に向かうが、セシリアは足を止めた。ヴァルタルは不思議そうに見てくるが、振り返り言い忘れた事を告げた。


「言い忘れましたが、私、ルーカス様が嫌いです、と言うか気持ち悪いです……。もう私に関わらないで下さいね」


静まり返る部屋を、セシリアとヴァルタルは仲良く後にした。






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