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「ベアトリス」
ルーカスは背中からベアトリスを抱き締めるが、彼女は身動ぎ嫌がった。彼女から拒否されるのは初めてで、ルーカスは目を見張る。
「どうしたんだ?体調でも優れないのか」
「……気分ではないだけです」
最近彼女の態度が素っ気ない。あの夜会の日からだ。
「そんなに、あのヴァルタルと言う男が良いのか」
その瞬間、ベアトリスは弾かれた様にルーカスを見た。やはりそうかと、ルーカスはため息を吐く。そんな気はしていた。彼女がヴァルタルと出会した時、明らかに様子がおかしかった。
「最悪だな。君は私という婚約者がありながら、他の男に靡くのか」
ルーカスの言葉に彼女は顔を顰め、睨んできた。
「では、言わせて頂きますが、そういうルーカス様もあの夜会の後、セシリア様に会いに行かれてますよね」
「なっ……」
ベアトリスの言葉に図星だったルーカスは黙り込んだ。実はあの夜会の翌日以降、何度もセシリアに会いに行っている。婚約破棄してから、あの夜まで彼女には一度も会っていなかった。噂は聞いていたが、どうせ嘘だと気にも留めていなかったが、ヴァルタルと一緒にいる彼女を見て愕然とした。てっきり自分と婚約破棄になり、悲しみに暮れ落ち込んでいるとばかり思っていたが、実際は真逆だった。隣にいるヴァルタルに、恥ずかしそうにしながらも身体を寄せ幸せそうに笑っていた。
あんな顔、見た事ない……。
自分が彼女を捨てた筈なのに、まるで自分が彼女に捨てられた気分になった。そんな風に思ったら、無性に彼女を手放した事が惜しい気がしてきた。今の自分には完璧な女性であるベアトリスがいる。彼女と婚約した時、それはもう歓喜したが、急に彼女が霞んで見えた。ルーカスは我慢出来ずに、翌日セシリアの屋敷を訪ねた。だが、門前払いをされてしまい彼女に会う事は出来なかった。それでも諦められずに、未だに何度も会いに行っている。
「き、君には関係ないっ!」
「関係ありますわ。私は貴方の婚約者ですのよ。これって、立派な浮気ですわ」
「別にやましい事は何もしていない!君こそ、浮気じゃないのか⁉︎」
「浮気じゃありませんわ!そもそも私はヴァルタル様と結婚したかったんです!でも、ヴァルタル様と私じゃ家柄が釣り合わないと諦めたんです!だから仕方なく貴方で妥協してあげたんですの。貴方は代わりなんです!それを浮気って」
ベアトリスは嘲笑し鼻で笑った。それを見て頭に血が上るのを感じた。
この自分があの男の代わり?妥協?
「ふざけるな‼︎少し顔が良いからと調子に乗るなよ‼︎こんな女だと分かっていたら婚約なんてしなかった!最悪だ!君が私を誘惑した所為で、私はセシリアを手放す事になったんだ!どう責任をとってくれるんだ⁉︎」
ルーカスはベアトリスに掴み掛かり、そのまま床に叩き付けた。彼女は唸り声を上げて、動かない。暫くして、彼女が身体を起こそうと動いた所を髪を掴み引っ張り顔を上げさせる。
「いいか、ベアトリス。これからは君は私の言う通りにしろ」




