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「あの夜、君と出会したのは偶然なんかじゃない。俺は君の婚約者だったルーカス・フェリエールが浮気をしていた事を知っていたんだ。それであの夜は彼の動向を探っていて、そこに君が現れた。君は彼の浮気を目撃しショックで走り去り、その後を俺は追って、偶然を装って話し掛けた」


「何故、そんな事を……⁉︎もしかして、ヴァルタル様は」


ヴァルタルはセシリアから身体を離し、彼女を真っ直ぐに見た。

彼女はハッとした表情をしており、何に気付いた様に見える。ヴァルタルは息を吐き、ようやく理解してくれたのかと、苦笑しながらも気恥ずかしさを感じた。だが、セシリアは思いの外鈍かった……。


「ベアトリス様がお好きなのですか」


「は?」


期待した言葉とはまるで違う事を言うセシリアに、思わず間の抜けた声を出してしまった。何故そういう方向に考えがいくんだ⁉︎と内心彼女に突っ込んだ。


「それであの二人の動向を探られていたんですね。……申し訳ありません、私が至らないばかりにルーカス様を繋ぎ止める事が出来なかった所為で、ベアトリス様はルーカス様と」


「ちょ、ちょっと待ってくれるか⁉︎」


これ以上誤解をされては収拾がつかなくなる。ヴァルタルは焦って、セシリアの話をぶった切る。すると彼女は目を丸くして口を閉じた。


「確かに俺はルーカスを探ってはいたが、ベアトリス嬢は関係ない」


「そうなんですか、なら何故ルーカス様を……」


ヴァルタルはワザとらしく咳払いをしてから、セシリアから視線を外した。


「……俺は二年前、君に一目惚れをしたんだ。だが君には既に婚約者がいた……諦めなくてはと思いながらも、ずっと想い続けていた。浅ましい事に俺は、君とルーカスの仲に亀裂が入る日を待ち望んだ。そして彼が浮気をしていると分かった時は、君には申し訳ないがそれはもう歓喜したよ、俺に好機が回ってきたとね。一度目、君と出会した夜、あれは偶然じゃない。君に会う為に俺はあの場に行ったんだ。二度目の夜も、傷心した君を慰めて気を引こうと考えていたが……酔っている君を見て、魔が差した。君は人気があるから、ルーカスと婚約破棄となれば直ぐに男達が群がると分かりきっていた。そうなる前に、君を手に入れたかった……既成事実さえ作ってしまえばそのまま結婚に持ち込めると思ったんだ……最低だと自分でも分かっている。だから、俺は君が思っている様な人間じゃない」


ここまで来たら嘘を吐く訳にはいかず、真実を彼女に話した。自分が他の女を好きだと誤解をされるくらいなら、まだ真実を話して嫌われた方がマシだと思った。セシリアを見ると困惑した表情でヴァルタルを見ている。当然だろう。自分の知らない間に、大して面識もなかった男から二年も想い見ていたと言われ、挙句意図的に事に及んだと聞かされ、普通に考えれば気持ち悪いに決まっている。黙り込むセシリアに耐えきれずにヴァルタルは完全に顔を背けてた。何と言われるのか、怖くて堪らない。


「ヴァルタル様」


「……あ、あぁ」


覚悟はしているが実際に「嫌い」「最低」「気持ち悪い」などと言われたら冗談抜きでショックで泡でも吹いて倒れそうだ。


「もし、ヴァルタル様が嫌でなければ、今日これから最後までデートを続けて貰えませんか」


意外過ぎるセシリアの言葉に、ヴァルタルは思考が停止した。




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