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客間に通されたヴァルタルは、内心少し緊張しながら長椅子に座った。向かい側にセシリアが座ると、屋敷の侍女がお茶を用意し、淹れ終わるとそのまま下がって行った。部屋には彼女と二人きりとなる。


「それで、私にお話とは……」


不安気に忙しく視線を彷徨わせる愛らしいセシリアを見て、どこか込み上げてくるものを感じながらもグッと堪え平常心を装う。


「その前に、君に謝りたいんだ。すまなかった」


謝罪しながら頭を下げると、彼女は目を丸くした。


「え、あの……」


「君も噂は耳にしているだろう?」


「はい……」


「今更で言い訳に聞こえるかも知れないが、俺はあの日、君に言った言葉に嘘偽りはないよ。ただ何の連絡もしなかった事はすまなかった。悪気はなかった、君には俺の気持ちは伝えてあるから問題ないと思っていただけなんだ……だが軽率だったと反省している。実は今、俺の父に君との結婚に関して話していて、正式に許可を貰ったら君に結婚を申し込むつもりだったんだ」


『君は彼女にずっと片想いしていたから実感がないかも知れないけど、彼女からしたら君はただの他人だからね?その他人から酔った隙を狙われそのまま一夜を過ごし、帰り際にたった一言「責任は確り取らせて貰うから心配はいらないよ」って言われて、その後は音沙汰なし。普通ならやり捨てられたって思うから!』


ヴァルタルは先日のロルフの説教を思い出していた。確かにロルフの言う通りだった。今思えばようやく彼女と接点が出来て、更には一夜を共にし、また更には自分の気持ちを伝える事が出来、正直一人舞い上がっていた。その所為か彼女ならきっと分かってくれているだろうと妙な自信があり、そう思い込んでいた。だが実際はロルフの言う通り、彼女にとっては一夜を共にしただけの他人でしかないと理解した。


『君が今しなくちゃいけない事は、結婚の申し込みじゃない。彼女からの信頼を得る事だ。普通他人ならゼロからスタートだけど、君の場合マイナスからのスタートだから、必死に頑張りなよ』


恋は盲目、あの本に書いてあった。確かにそうだ。冷静になって考えれば分かる事が自分にはまるで見えていなかった。莫迦な自分は、一番肝心である筈のセシリアの気持ちを考えていなかった……。


『今君の頭の中は、ずっと想い続けていた女性と甘い夜を過ごした=相思相愛=結婚みたいに、お花畑状態になっているんだ』


お花畑とは失礼過ぎるだろうと思ったが、その言葉はヴァルタルの胸に深く突き刺さり、何も反論出来なかった。



「セシリア」


「は、はい」


「俺は君が好きだ。君が欲しい」


彼女はヴァルタルの告白に心底驚いた様子で、固まった。


これはもしかしなくても、嫌がっている……?


その反応を見てこれまで鋼の心臓と自負してきたヴァルタルだが、心が折れそうになる。だがこれは全て自分の招いた結果だ。甘んじて受け入れるしかない。


「俺は真剣に、君と結婚したいと思っているんだ。一夜の過ちなどと思いたくないし、君にもそんな風に思って欲しくない。だが無理強いはしたくない。そこでだ、暫く俺に時間をくれないかな」


淡々と話してはいるが、実際は身体中に汗が流れるのを感じ、心臓が早鐘の様に脈打っている。ヴァルタルは一旦落ち着く為に呼吸を整えてから、意を決して口を開いた。


「君と、デートがしたい」




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