インテリマフィアなオルゾさんと婚約者の彼女のババア。
ステラマリナルートのオマケ短編です。
即興小説、お題は「彼女とババア」
「シニョーラ、もう一度言ってみろ」
オロトゥーリア組の幹部、オルゾは高級仕立服のスーツに皺がつくほどきつく腕を組み、歯を食いしばるようにして低い声で唸った。
端正な顔立ちに切長の眦。銀縁眼鏡の下の眉間に深い縦皺を寄せる。
彼のカバン持ちであるエキーノは思った。
ーーシニョーラがクソババアと聞こえた……。
オルゾという男は30代にして組のナンバースリーに位置する、極めて有能なインテリである一方で極めてキレやすい男としてその筋では有名である。
一方で近くで彼に仕え続けているエキーノからすれば、熱しやすく冷めやすい性格であり、あえてキレてみせていることもあると言える。
つまり、このマフィアという男たちの中で暴力という手段を取れる男だと示しているのだ。無論、気が短いということは彼から見ても間違いないが。
ーーやべぇよ、オルゾさんガチ怒だ……。
なぜガチ怒と判断できるのか。
普段、彼が最も大切にしている物であるスーツに皺が残るような怒り方はしないからだ。
オルゾの前にいるのは彼の婚約者ステラマリナの祖母である。
色を失った白銀の髪をストレートに伸ばし、全身をプラダでコーディネートした女。70代後半とエキーノは聞いているが、背筋はしゃんとしておりそうは見えない。
オルゾから殺気に近い威圧を浴びながらも怯むことのない胆力。悪魔の赤の唇を弧に歪める。
「聞こえなかったのかい、シニョール?まだ若いのに耳が遠いんじゃかわいそうだねぇ?」
ーー煽りやがったババア!くそ、シニョールがクソガキと聞こえるぜ。
エキーノの心臓が緊張に大きく跳ねる。
彼女は続けた。
「簡単、実に簡単なことじゃないか」
だがこの場にはもう1人、強心臓のものがいる。2人の対立をニヤニヤと眺める女。豊かで波打つ金のロングヘア、琥珀の瞳。ステラマリナだ。
「うちのマリナと結婚するんだろう?アタシのことをちゃんとノンナと呼びなさい?と言ってるんだよ」
オルゾの呟きが聞こえる。
ーーストレガで十分だろうが……。
「それじゃあ、嫁にはやれないわねぇ」
その小さな呟きを聞き留めたのか、そう言うと彼女はステラマリナの袖を引いて抱き寄せた。
オルゾの指の爪がさらにスーツへと食い込んだ。オルゾは耐えている。これは副首領の持ち込んだ政略結婚だ。断るわけにはいかないと必死に自制している。
エキーノは身を低くし、飛び出す構えをとる。
「……よろしくおねがいします……ノン……ナ」
オルゾは頭を下げた。礼を取ったのではない。
憤怒の形相を隠したのだ。
「結構、仲良くやんな」
そう言って彼女はオルゾの頭をくしゃくしゃと撫でると事務所を出て行った。
エキーノは駆け寄る。
「オルゾさん!ご立派でした!」