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オチ

「おかえりなさい、あなた(ダーリン)!」


 数日後の夜のことである。

 新居へと帰ると、妻のステラマリナが妙にご機嫌で、波打つ金(ウェービー・ブロンド)の髪を揺らしながら玄関のオルゾのもとへとやってきた。


「ああ、今帰った……ご機嫌だな」


「ふふ、わかる?」


 もちろんだ。オルゾは頷く。

 ステラマリナは彼のことを『オルゾ』または『旦那様』と呼ぶ。『あなた(ダーリン)』とは聞いたことがなかった。


「じゃーん、見て見て!」


 ステラマリナに手を引かれて入った寝室。電気をつけられるとオルゾはぎょっとして一歩後退った。

 キングサイズのベッドの上を占拠するかのように巨大な影が鎮座していたからだ。

 それは全体的にはペンギンのようであり、だが爬虫類のような尾が生えていて、くちばしからはだらしなく舌を垂らしていた。


「なんだこいつは。……縫いぐるみ?」


 それはオルゾの身長ほどもある巨大な縫いぐるみであった。


「そうよ! オルゾったらセレブの間でも大人気のキャラクター、ペンギンとドラゴンのハイブリッド、ペンドラゴンのアーサーちゃんを知らないの!?」


 ステラマリナはそう言って縫いぐるみに抱きつき、むふーと満足げな息を吐く。もちろんオルゾはそんなものは知らない。


「買ったのか?」


「違うわよ、今日届いたの。ほら、結婚の時の目録にアーサーちゃん人形と書いておいたんだけど、さすがにこれは来なくて!」


 イタリアの結婚式にはリスタ・デ・ノッツィという習慣がある。

 新郎新婦が結婚式の祝儀に欲しいものを目録に纏めておくのだ。基本的には新居で必要となる細々とした家具などを書いておくのが一般的である。

 オルゾとステラマリナの新居にある家具も、それで頂いたものが大半を占める。ただ、今回の結婚は完全な政略であったし、結婚前に二人が話したことなどほとんどなかったため、目録はステラマリナが一人で用意していたのだ。

 よもやこんなものを入れていたとは。

 ふと、オルゾの脳裏に嫌な予感がよぎった。


「なあ、これの差出人は?」


「アキッレーオとあったわ。わたしは知らない人だけど……」


「俺の兄だ」


「まあ!」


 ステラマリナは琥珀アンバーの目を輝かせた。


「オルゾ、お兄さんなんていたのね! いつか紹介いただけるかしら?」


「アレは碌なもんじゃないから会わなくていい。……ところでコレの値段は?」


「確か20000ユーロ近かったはずよ?」


 オルゾはふらりとよろめいた。

 馬鹿げている。いや、ぬいぐるみ業界はアンティークでなくとも時に非常に高額のものが出されるのは知っている。かつてヴィトンの出した熊のぬいぐるみ(テディ・ベア)はさらにこの10倍くらいしたことも。

 いや、問題はそこではない。

 なるほどアキッレーオが幾らでも良いと言うわけだ。渡したのが10ユーロなら、10ユーロの小さなサイズのアーサーちゃん人形とやらを贈ってきたのだろう。

 彼がどこでリスタ・デ・ノッツィの中身を知ったのかはわからないが、つまり、大金を渡したからここまでデカくて間抜けな人形を贈ってきた訳で……。


「そりゃあ大したものだ。……それを新郎本人から借金して贈ったのでなけりゃあな!」


 オルゾは拳をアーサーちゃんに振り下ろした。拳で感じるアーサーちゃんの手触りが妙に良かったのがオルゾを妙に苛立たせた。


「あはは、ウケる」


 ステラマリナはベッドの上で笑い転げた。

この作品は基本的にブランドや商品は全て実在のものの名前を使っていますが(例えばデュポン社もシュート・ザ・ムーンというライターも実在する)、今回の縫いぐるみのアーサーちゃんは架空のものです。


殴ってオチつけているので流石に実在のものにはしなかったという配慮。

デザインのイメージはまあ分かる人は分かるでしょってことで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます わたしはこのシリーズは洒落ていて好きです 「情けは人の為ならず」でしたね [一言] 弟の奥さんの好きなものまで知っているとは…… 流石に有能な殺し屋ですね 情報…
[一言] なんだかんだ、仲のいい兄弟ですねw
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