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新連載、というか初連載です!
よろしくお願いいたします!
「あっつ...」
一歩店の外に出れば、目が眩むような明るさの太陽が照りつけていた。
6月の湘南には、早くも夏が始まろうとしている。いつもより強く吹き付ける海風も、そのうんざりするような暑さをかき消すことはできない。
店の目の前にある境川沿いの遊歩道を見ると、川と遊歩道を隔てる柵の上に、湘南の海から登ってきた海鳥がずらりと並び、魚を狙って水面を睨んでいる。
黙っていれば可愛いのだが、夕方の日が暮れることになると一斉に騒ぎ出すし、踏んで遊歩道が真っ白になるのだから迷惑この上ない。掃除をするのは僕なのだ。
海鳥と一緒に、朝日を浴びてキラキラと光る川を眺めていると、ガタゴトと大きな音が段々と近づいてきた。音の方面に目を向ければ、緑と肌色の2色で塗装された、2両編成の小さな電車が目の前を通り過ぎて行く。
「江ノ電」こと「江ノ島電鉄」の車両だ。
江ノ電は、もともと地域住民の足として作られた非常に短い路線だが、30年ほど前、某バスケ漫画の名シーンで描写されたことがきっかけで人気に火がつき、江ノ島・湘南エリア有数の観光スポットである。
...しかし、人気が出たからといって、必ずしもいいことばかりだとは限らない。
特に休日には多くの観光客が乗車するので一本見送らないといけなかったり、電車の撮影を趣味をする通称「撮り鉄」が沿線の道路を塞いで撮影するため日常生活に支障が出るなど、近隣住民は頭を抱えているのだ。
なんて、中身のないことを考えていると、
「おーい、悟くん!店開けてー!」
「あっ、すいません!今開けまーす!」
オーナーの声が聞こえてきて、急いで店のシャッターを開ける。
「よいしょっと...!」
長年海風にさらされた影響で、店のシャッターは錆びて動きにくくなっているが、そこは毎回気合いで持ち上げる。
僕が働いている「ホワイトビーチ音楽スタジオ江ノ島店」は、江ノ島電鉄「江ノ島駅」から歩いて徒歩3分、境川の風歩道沿いにある築50年の3階建テナントビル「ブライイトビルヂング」の一階にある。
一応、江ノ島近辺では唯一の音楽スタジオだ。
そして、スタジオの唯一のアルバイトが僕「三好悟」だ。