死の檻4
日が傾く。空が青から黒へ変わる。
寝る時間だ。
人によっては安らぎの時なのだろう。
私には眠りが訪れない。でも、誰の目も気にせず、泣く事のできる時間だ。
ベッドをどれだけ涙で濡らそうと、吸収してくれる。週に一回は新しいシーツに交換してくれるので、多少濡れても気にしなくて良い。
こうなる前は寝る事が好きだった筈だ。寝つきも悪くなく、むしろ寝起きが悪い程だった。
ただ、眠れない事を意識させられる。変わり映えのない天井を見つめ、時間が過ぎるのを待つ。
日が登っている時とたいして変わらない。暗いだけだ。
周囲から寝息やイビキが聞こえる。イビキは嫌いじゃない。父も良くイビキをかくからだ。少し安心する。誰かが生きてる音だ。
でも、規則的に聞こえる電子音は嫌いだ。生を刻んでいる訳じゃない。これは死の秒読みだ。
此処ではこの音が時々、聞こえる。
私の心が死を意識させられる原因は分かっている。周囲が死に溢れているからだ。
死が迫っている者は、多くの管を身に纏い、身動きも出来ず、呻き声をあげている。
こんな最後は地獄だ!
だから、私は死を受け入れられない。呻いて、苦しんで、寂しさの中で一人戦う。それが死にいくという事なら、私は此処では死にたくない。
明るい顔で介助してくれる者はいるが、それは死を遠ざける手助けはしても、寂しさを埋めてはくれない。身体は治っても、心の悲鳴を聞いてくれない。
仕方ない。人手が足りないのだ。他人は人の心まで触れることは容易ではない。
私も臆病なので、触れられる事に怯えている。でも、助けて欲しいのだ。背中を撫でて欲しいのだ。
死の直前なら言えるだろう。でも、死に向かっている今はまだ。孤独に悲鳴を飲み込むしかない。
願っている。死ぬ時は家族に見守られたいと。間に合ってくれと。
死ぬ方も願うのだ。家族の側で、と。