死の檻1
ただ怖かった。
少しづつ、私が私で無くなっていく。いや、心が亡くなっていく。
何がおこっているのか、全く分からない。
でも、一つだけ。<死にたくない> そう、思った。
だけど、このままじゃ、生きていけない。身体も普段通りじゃない。心も死にかけている。
どうしよう・・・。焦った。焦っている。でも、ここから動けない。やっぱり同じ事を考える。どうしよう。
こんな経験は初めてで、解決策が浮かばない。
ネットに助けを求めてみるか?今時の考えだが、悪化する可能性もある。多くの情報は混乱をまねく。特に今の状態で、私は正確に判断できないと思う。
でも、このままではいけない。
仕方なく、携帯を見る。
鬱、統合失調症、脅迫性不安症、自律神経失調症・・・。多くの精神疾患があるが、あまり今の自分の状況に当てはまらない。
それもそうだ。人はそれぞれ違う。心の在り方が。
似たような症状から解決策を模索するしかない。
片っ端から調べ始めた。
どうやら、生きたいと思っているなら、身体の方が心よりは健全らしい。
とにかく動いてみよう。身体と心、両方疲れてバランスが取れれば、落ち着くようだ。
動き始めて少し、身体が痛い。体力は確実に落ちている。
気にせず動いた。心の死を感じないために。
成る程、動いてる間は、心は死を意識してない。
涙は止まらないが、少しはマシなようだ。
人の居ない場所は此処にはない。あまり人前では泣きたくないが、赤く腫れた目と鼻を啜る音で、分かってしまうだろうか?
いや、ここでは泣いている人など珍しくないだろう。
それに、ここに居るのは・・・。 今は考えるのは止めよう。心にブレーキがかかった。
動いたことで、少し考える力が戻ってきたのか?
分からないが、<死にたくない> は心からの声らしい。
身体の痛みを無視して、その日は動いた。涙は止まらない。心が悲鳴をあげる度に動いた。
次の日に変化は訪れた。身体からの悲鳴。血が出た。
今日は動けない。あぁ、でも・・。
また、心の死を感じる。
身体も心も死に向かっているのか?
それでも、死を迎え入れる準備はできない。
何故だろう?何が私を<死にたくない> と思わせる?
私の心は死を感じている。なのに・・・。
やりたい事を探してみる。きっと心残りがあるのだろう。それが<死にたくない> 叫びだ!
纏まらない考え。<死にたくない> と叫ぶほど、私にやりたい事が見つからない。
困った。いや、違う!
「1人で死にたくない」のだ。
誤解がないように記すが、誰かを巻き込んで死にたい訳じゃない。
此処では、人の死は軽い。私の為に涙し、手を握ってくれる人は1人も居ないのだ。
私が<死にたくない> のは、この死の檻の中でだ!
あぁ、どうしよう。
分かってしまった。
これは絶望だ。心は今も確実に亡くなっている。
私はここから出られない。
違う。仮に私が強い意志を持っていれば、脱走もできるだろう。
小説のヒーローならそうだ。ヒロインなら助けてくれる誰かが現れるだろう。
でも、残念ながら、私はそこら辺にいる、その他大勢なのだ。
ヒーローの近くにも居られなければ、ヒロインの友達にもなれない。
遠くから危険を回避してきた、その他大勢。
仮に悪を働く事に躊躇いがない場合はどうだろう?
それも無理そうだ。
私は臆病な自分を知っている。他人の目が気になるのだ。他人の目は心の鏡と言うが、私は迷惑だと分かっていて、他人に迷惑をかけられない。
これまでトラブルを避けて生きてきた。
この生き方を変えるチャンスだとしても、私はそれを選べない。
臆病で、どこまでも他人の目が気になる。
生き辛い。
結論は変わらない。
私はここから出られない。
ここで、心の死を感じているしかないのだ。