らのべのてんかい【改悪版】
交通ルールを守りましょう。
「遅刻だ遅刻~!」
オレは慌てて身支度を済ませた。
また寝坊してしまった。今朝も、再婚した継母の連れ子である「血のつながらない妹」と、近所に住む「幼なじみの学級委員長」に精神が崩壊するまでディスられて目が醒めた。慌てて歯をみがくふりとトイレに入るふりと着替えるふりをして玄関に向かう。つまり、歯が汚くて膀胱がパンパンでパジャマ姿のまま出かけようとしている。
だが、こんなに慌ただしい状況でも朝食は大事だ。階段を降り玄関に向かう途中、食卓に置いてあったカレーパン(食パンにカレーを塗ったパン)だけを握りしめて家を飛び出した――手がカレー臭かった。
「血のつながらない妹」は一足先にとなりの幼稚園に登園、「幼なじみの学級委員長(男)」は向かいにある小学校へ登校していた。オレは高校へ245.3キロの道のりを走って向かって行った――これは、スパルタスロンと同じ距離だ。
学校まであと300メートルのところに曲がり角がある。ここを曲がれば学校まであと少しだ。曲がり角をカレーパン(食パンにカレーを塗って長時間経ってしまったためラスクのように乾燥したパン)をくわえながら曲った時、オレに突然の出会いが待っていた。
向こうから、同じように遅刻しそうで食パン(食塩をふりかけたパン)をくわえて全力でこちらに向かって走ってくる――
――自動車とぶつかった。
オレは10メートルほど吹き飛ばされた。自動車も尻もちをついて横転した。
「あイタタタ・・・あっ!」
オレは自動車の姿を見て顔を赤らめてしまった。自動車は転倒した衝撃でスカート・・・じゃなくてボンネットがめくれあがり、中のパンt・・・エンジンルームが丸見えになっていたのだ。
自動車もその事に気づき――
「あっ・・・ちょ何見てんのよ、えっちぃ!」
「何言ってんだよ、ぶつかってきたのはそっちだろ!?」
「もう知らない!私、遅刻しそうだから行くわね!」
そういうと自動車は、たまたまその場にいたクレーン車に体を起こされてその場から立ち去っていった・・・ひき逃げだ。
オレは全身複雑骨折と内臓破裂とアレルギー性鼻炎の重傷だったが、かろうじて歩けたのでそのまま学校に向かって行った。
※ ※ ※
――オースマーンサーンコーン♪
始業のチャイムが鳴ったがまだ教室内は騒がしい。
「おーい!お前たち、チャイムが鳴ったぞ!早く席につけー!」
担任の「全裸先生」が入ってきた。全裸というのは名前ではない。
「あ~、今日は授業を始める前に転入生を紹介する」
――高校生活もあと1ヶ月で卒業という3年の3学期に転入生とは珍しい。
「入ってきなさい」
すると、けたたたたたたましいエンジン音とともに、そのままでは入れないのか「バリバリッ・・ドーン!ガシャン!」と強引にドアを破壊して転入生が入ってきた。教室が狭いので後ろ向きで入ってきて全裸先生のとなりに縦列駐車で停まった転入生はそのまま自己紹介をした。
「初めまして!ハイ=ブリッドといいます。エンジンは1,8L直列4気筒、最高速度は180Km/s、趣味はドライブです!みなさん夜露死苦おねがいします!」
「――ん!?あれ?・・・あ~~~~~~っ!オマエは!?」
転入生を見て、オレは思わず叫んでしまった。叫んだ勢いで脳天から血がピューッと吹き出した。
そう、転入生とは朝の通学路の学校の300メートルの手前の曲がりの角でオレとぶつかった自動車だったのだ。
「あれ?あ~~~っ!アナタ・・・ウソでしょ?」
かのじょも動揺したらしくハザードランプをぱちくりと点滅させていた。
作者も動揺したらしくルビの振り方を間違えてしまった。
運命的な出会いだった――どうやら頭頂部の出血は治まったようだ。
※ ※ ※
休み時間、自動車がオレのところにやってきた。
「あのさぁ・・・放課後、時間ある?」
「え?・・・ん、どうだろう?」
オレはカバンの中を確認した。
「大丈夫、時間はあるよ!」
カバンの底の方に時間が隠れていた。今日はちゃんと持ってきたようだ。
「で、何か用?」
「あ・・・ちょっと話したいことがあるから・・・ここまで来てほしいんだけど」
そう言うと自動車はコンソールボックスにあるカーナビを指差した。地図には体育館の裏が表示されていた。
「えーっと・・・まぁいいよ」
オレは少し躊躇した。朝の出来事もあったのでとどめを刺されるのかと思ったが、とりあえず用心しながら行ってみようと考えた。とりあえず今日の部活(オッペケペー部)は休もう。
「あ、あとそれから・・これ見て」
車がハート形のシールで封をした封筒を渡してきた。渡すと同時に急旋回して大急ぎで自分の席に戻っていった。クラスメイトが3人ひかれた。
渡された封筒の中を見たら「車検証」と書いてあった・・・いらない。
※ ※ ※
――放課後、全方向に入口がある体育館の裏・・・裏ってどこだ?
時間を持て余したオレはオッペケペー節を歌いながら自動車が来るのを待っていた。
すると全速力でこちらに突っ込んでくる自動車の姿が見えた。再びはねられるかと思ったが自動車はオレの手前でドリフトパーキングをして停まった。
「ごめ~ん、待った?」
自動車はハザードランプを2回点滅させてこう言った。車内から「目的地です」という声がかすかに聞こえた。
「話って・・・何?」
オレは自動車に聞いてみた。もしかして示談の話だろうか?
すると自動車はモジモジとワイパーを左右に動かしながらこう言った。
「あ・・・あの・・・唐突な話でゴメンね。ワタシ・・・その・・・あ、アナタのことが・・・好きなんです!」
――本当に唐突な話だ。
これまでの話のどこにそういう展開になる要素があったのだろうか?
「だから・・・その・・・わ・・・私と付きあってください!」
「うん、いいよ」
オレは即答した。この話にはのっておこう。
なぜかというと、作者が最近残業続きでもうこれ以上、話を広げるのを面倒くさがっているからだ――1秒でも早く寝たいらしい。
「じゃあどうしよう?このまま2人でドライブでも行く?」
「え~~、でもその前に病院でしょ!?」
「そうだね!アッハッハッハ」
「プッ・・・ププーーーーーー!」
自動車はクラクションのような笑い声をあげた。
※ ※ 米
週末――
傷もすっかり治ったオレは自動車と初めてのデートすることになった。
コンビニでポンコツ味のカップ麺とハリポタ味のスナック菓子を買ったオレは、コンビニの駐車場で待ち合わせをしていた。
自動車がやってきた。アクセルとブレーキを間違えてコンビニに突っ込むというお約束。相変わらずのドジっ娘ぶりだ――微笑ましい。
オレは自動車に聞いた。
「今日はどこに行く?海?高原?」
すると、自動車から予想外の答えが返ってきた。
「今日はねぇ~・・・『異世界』!」
――え?・・・異世界?
するとまだ状況が呑み込めていないオレを乗せた自動車は、コンビニ前の直線道路を、どこかのタイムマシンのようにスピードを上げて時空を超えた。
次の瞬間、中世ヨーロッパのような見たこともない場所に『転送』されてしまった。
――こうして転送されたオレと彼女はそれぞれ勇者と騎士になって国王から魔王討伐を命ぜられ何だかんだあったけど最終的に魔王を倒し国が平和になってオレ達は次期国王と王妃になっ・・・
〝プップー!!〟クラクションが鳴った。
――え?
自動車に止められた・・・え?どうしたの?
「じゃっ、帰るわよ!」
「へ?・・・何で?」
「いいから、行くよ!」
「え?ちょっと!ちょっとちょっと!!」
すると自動車は異世界に未練があるオレを強引に乗せてUターンして加速した。
「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!?」
京●急行のドレミファインバータのような叫び声をあげたオレを無視し、加速した自動車とオレは再び時空を超え、元の世界に帰ってきた。
「何で?・・・あっ!」
――やっとオレは気が付いた。
車はUターンして帰ってきた。
そうか!つまり、これは――
「ラノベの転回だ!」
・・・・・・・・・なんじゃそりゃ?
最後までお読みいただきありがとうございました。
以前、「らのべのてんかい」という話を書いたとき、そういえば曲がり角でぶつかったらその相手が転校生だった・・・という「お約束」が抜けていたよなぁ~、と思ったのでその設定も入れてみました。
前作と大して変わらないと思いますが『若干』質が低下したかなと思い【改悪版】というタイトルにしました。よろしかったら前作もお読みいただき、「微妙な違い」を見つけていただけたらなぁ~と思います。
それでは、最近残業続きで疲れているので1秒でも早く寝ます・・・おやすみなさい(笑)