case.5 恐怖な事件
早めに書けたので投稿致します。問題編はこれで一旦打ち止めです。数日後から回答の作成に取り掛かります。
「やっぱ山はいいな」
ある日の休日、俺は友人と車で山に来ていた。コンクリートで舗装されていない道路を通って来たため振動でお尻が痛むが、ここから見える景色は大自然を満喫できる。
「ここら辺は地元の人も滅多に来ない穴場だからな。都会の騒音を忘れられるし、俺はよく来るんだ」
そう言ったナガトはまるで懐かしいものを見るように澄んでいた。
「お前って昔は田舎暮らしだったのか?」
「ああ、東京には中学生の時に越して来たんだ。小学校の登校で一時間半掛かったのは忘れられないね」
振り返って見ると、苦笑いするナガトの背後にある森に、何匹かのハエが飛んでいるのが見えた。更に奥にはもっと多くの虫が飛んでいる。自然なのだからハエが飛んでいても不思議ではないが、普通にしては少し多い気がする。もしかしたら大型動物の死骸でも向こうにあるのかと思って目を凝らして見ると、ナガトが前から覗き込んで来た。
「どうした、眉間にシワ寄せて、何かあったか?」
「何かあるかもしれないと思ってね。ほらあそこ、ハエみたいなのがいっぱい飛んでるだろ?」
「本当だ。ちょっと近くに行ってみようぜ」
「エッ?」
「ほら早く、何がいるのか気になるだろ?」
そう言ってズンズン歩いて行ってしまったナガトを俺は呆れて見ていた。何があるにしても遠目に見るならまだしも、わざわざ近づいて見たいとは思えない。
「まじかよ。俺はここで休んでるからな」
そう言って待っていると叫び声が聞こえた。声の主はナガトだ。熊とかに襲われたのかと身構えたが、あいつの性格からしてノコノコ来た俺を驚かそうとしているのだろう。ゆっくりと警戒しながら進むと、腐敗臭が鼻をついた。やはり何かの死骸だろう。最悪だ。大木の陰に、こちらに背を向けて座り込むナガトを見つけた俺は飛び回るハエを払いながら近づいた。
「おいナガト、これで死骸の一部投げてきたら許さんからな。さっさと帰るぞ」
ナガトの肩に手を掛けようとした俺はその瞬間、腐敗臭の原因を見つけて硬直した。
「ひ、人……?」
それは宙に浮いた、人のような何かだった。木の枝に繋がっている頑丈そうな荒縄がワイシャツの襟を締め付けている。首吊り死体だ。しかし、顔がウジに覆われて宇宙人みたいな異形のものになっていた。唯一、衣服からこの遺体が男性のサラリーマンであろう事が推測できるくらいだ。足下を見れば綺麗に揃えられた革靴と仕事に使っていたであろう鞄が置いてある。
そこまで見たところで、いきなり手首を掴まれた。咄嗟に振り払って距離を取るとさっきまで放心状態で惚けていたナガトだった。
「お、おい、これ……どうなってんだ?」
「多分自殺だろう。とりあえず車まで戻って警察に連絡しよう」
そう言って俺たちは急いで車に戻って警察を呼んだ。
『……と、まあこんな事が昨日の休日にあったんだ』
語り終えた俺は、向かいに座る女子大生、内田彩を見た。彼女と友人二人とは何かと犯罪の話題で盛り上がる仲だ。先日、遂に名前と連絡先を交換して今日こうしてお茶をしている。他の二人は都合がつかないとのことでテーブルには俺と内田さんの二人だ。
「……ご友人にご愁傷様と伝えておいて」
「なぜかスルーされる俺!?」
「貴方は自分から首を突っ込むたちでしょう?」
そう言って内田さんは優雅に紅茶を飲む。
「いや、話したろちゃんと。俺回避しようとしてた側でしょ」
「それはさておき、今日ここに居るってことは特に問題なかったのね」
「いや、大ありだ。今頃捜査本部も立って本格的な捜査をやってるんだろう。面倒だから今はケータイの電源も切ってる」
「身元の確認で何かあったのかしら? 例えば……そう、鞄から会社の告発状でも出てきたとか?」
「考え方は合ってるが、考えるべき部分が少しズレてるな」
俺は不敵に笑みを作る。警察は直ぐに気付いただろう。恐らく、俺よりも詳しい情報を読み取っている。ただ、気になるのは……。
「さあ、貴方にこの謎が解けるかな?」
事件概要
昨日の午前、神奈川県〇〇山の頂上付近で首を吊った成人男性の遺体を観光に来た大学生二人が発見。死後三日から五日と見られる。死体の状況は上述の通り。
問題
主人公は何故、捜査本部が立つ可能性があると予想したのか?妥当性のある答えとその理由を述べよ。尚、警官やその他第三者から聞いたわけではなく、あくまで主人公が観察と推理から導いた結論である。
※注意
この問題はミステリのように必要な材料を全て渡されてトリックを解き、犯人を特定するものではありません。実際の事件で何に重点を置くべきか。そこから情報をどのくらい取り出せるかを問う問題です。
したがって、この問題の絶対解はなく、あくまで妥当性の有無が重要です。
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