第三話 いちゃいちゃした()
「なんで死なないんだよ!」
荒れ果てた大地。一言で言えばそれは荒野。岩がところどころむき出しになっている赤黒い大地。植物なんてものはろくに存在せずあっても干からびた小さめの木くらい。
そんな光景が視界に広がっていた。
そしてメリアはその大地の支配者であるかのように、周囲に光琳を纏い空中に浮遊している。こちらに目を向け、まるで愛息子を見つめるような慈愛に満ちた目をした。
彼女は破壊者であった。この大地を破壊しつくした張本人であり、それをなんの悪とも思っていない。すべて善意によるものなのだ。
どうにかメリアを止めようと、足を踏み出した。たった一歩、しかしそれは鉛のように重く動かしがたいものになっていた。
心の葛藤に耐え、どうにか踏み出した一歩目。突然彼女は、まるで親の敵を見るような目になった。その目線に足をすくませながら右手を動かし、ズボンのポケットに入っている
物を取り出す。黒く小さな無骨なもの、しかしそれでいて頼りになる物体を握り締める。
唯一の攻撃手段であるファイブセブンである。震える手を押さえて、ゆっくりと彼女の心臓に向けて構える。ぶれない様に左手で右手を包み込み、トリガーを引いた。
――ドガッ!!
相変わらずエアガンらしからぬ強い音を発しながら弾は飛んでいく。白い螺旋を描きながら何者をも貫けるかのようなそれ。しかし、メリアの光琳に触れた瞬間―――弾は鋭い光を発しながら消滅した。
有効打では無い、しかし多少の損傷は与えただろうか。そんな憶測のもと更なる射撃を試みる。片膝を地面につけて構えの体制を取り限界まで速射する。反動で銃全体が勢い良く跳ね上がり心臓以外の場所に、数発は結界から外れてどこか彼方へと飛んでいった。
結界に命中した何発かの弾丸、その全てが先ほどと同じように消滅するがそれでいい。
銃を腰に構え大地を蹴る。走りながらもメリアに射撃を続ける。初めて拳銃の腰撃ちなんてことをしたが、まったく命中しないわけでもなくそれなりに効果は出ていた。
弾丸が命中することによって出る強い光。それによってメリアは全く見えなくなっている。ならば彼女からもこちらは見えないハズだ。そのまま彼女の真下まで潜り込む。彼女の結界が指向性であることを仮定しての賭けだった。
―そんな幼稚で淡い希望は、儚く砕け散る。
「甘いわね。そんなことで私の目を欺けるとでも?」
俺の足元に何かが着弾して地面を軽く爆ぜさせた。
効果が薄いことは予想していた。しかし全く効果が無いなんてことは想像すらしていなかった。
驚いて射撃を止めたことで、メリアの無表情な顔を拝むこととなる。
「じゃあ、終わりにしましょ。『フレアバースト』」
絶望の合図だ。
メリアの突き出した銀色の杖から漆黒の光が甲高い音と共に四方八方に広がる。そして、彼女は微笑むような軽い笑顔で言った。
「チェックメイト♪」
世界は爆炎に包まれた。
「相変わらず弱いわね。さっさと強くなったらどうかしら?」
「弱いと思ったなら手加減してくれよぉ!?」
メリアの仮想空間から帰ってきて、何度目かの口論が始まる。
エアガンがとても強力だと判明し、家に帰ってからメリアにそのことを言ったら、
「へー、そんなものがあるのね。私に見せてくれない?」
というので外に行こうとしたら、メリアが家を包み込む魔方陣らしき何かを展開させた。そして気がついたら謎の植物が生える草原。その中心に君臨なさる女神メリア様。
メリアは、手加減というものを知らなかったとだけ言っておく。
―――
「必殺、三点バースト喰らえっ!」
「ははは!そのくらいじゃあ傷一つ……なにっ!?」
俺もメリアもいい感じに頭がおかしくなってきた頃。訓練という名の地獄を味わい、ようやくメリアに一矢報いることができた。支給された小石程度の大きさの『魔石』を使い魔力を上手く弾に纏わせ、銃の周りの大気を部分的に圧縮することで反動を抑える。そうすることで可能になる寸分狂わぬ強力な三連激によって結界の一部を削ることが出来たのだ。
その名も『集中裂破』
……べっ、別に厨二病じゃないんだからね!
ロイが脳内コントを炸裂させているとメリアが結界の削れた部分を少し見た後、エアガンを睨むように見下ろしてきた。
「貴方は私を怒らせた…さぁ!その身をもって無礼を知るがいい!」
メリアの杖に魔力(よくわからない青い靄)を大量に纏い始めた。それは強烈な渦を発生させ、地面にある小石や小枝などをあろうことかメリアのいる地上10m付近まで舞い上がらせる。
「メリアさんっ!?そんな禍々しいものをぶち込まれた暁には死んじゃいますよっ!?」
「だいじょーぶ、ここは創造空間なのよ?臓器の百や二百程度吹き飛んだとしてもまったく痛くないから安心していいわよ」
「それ、気絶してませんかっ」
「気のせいよ。さてと、『スパイラルサフィード』!」
抗議の声もお構いなしに恐ろしいものを飛ばしてきた。
じっちゃ、ばっちゃ。今まで楽しかったよ、ありがとう。吹き飛ばされながら現実逃避を始める。
「ふぅ……さて、次は『五重局地四戦結界』を破れるようになるまで訓練ね。安心して。戦術魔法をほんの二十発くらいで一枚くらいは破れる程度の結界だから」
わけがわからないよ。そんな言葉が頭を過ぎりながら、頭を地面に強烈に打ちつけ気絶した。
ふと目を開けると木目が見えた。
不規則だなー、おっとあの木は長生きしたんだな年輪やべぇ。
現実逃避は素晴らしいものだ。なんといっても例え豆腐メンタルだったとしても精神寿命が五割増しなのだ。横を見ればきっとタンスがあって、そこに高校の学生服があるさ。さぁ、勇気をだして首を横に向けよう!
椅子に座る俺好みの銀髪ちゃんと目があってもそれは空想だ。彼女は軽くため息をついて、それから軽く微笑んで言い放つ。
「さて、貴方がようやく使い物になってきたから出発しましょうか」
息を吹き返したばかりの人に向ける言葉では決して無いものを耳にした。
固まる俺に手を差し伸べるメリア。
…デレ期ですか!?ていうかこの短時間でデレるとかチョロインじゃないですかやだー!
そんな俺の心を読んだのかどうなのかは知らないが急に不機嫌そうな顔をする。
「チョロインって、意味は分からないけれど異様にイラっとしたわ」
読まれていた。
軽く冷や汗が出てきた。
「変なこと考えてないで、はやく起き上がりなさいよ」
すべすべの彼女の手、それを掴もうとすると心拍数が急上昇する。
流石童貞、この程度でも緊張する。
少々顔を赤くしながら手をつかむ。そして、ぐっと手を引かれ―
「一本釣りっ!」
「ぎゃぁぁっぁぁ!!」
彼は非常に滑らかで美しい弧を描きながら、少し煤けている床に向かって飛び込む
ドンッ!!
肺から勢い良く酸素を天井に届くかのように吹き飛ばした。新記録である。
「出発しましょ?」
爽やかな笑顔でロイを見るメリア。仰向けに倒れふせ、手を微かに上げるだけで精一杯なロイ。
そんな彼の手を引きずり、メリアは家の外に出た。