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番外編 聖鐘祭

クリスマスは双色の世界では『聖鐘祭』です。

久々のミント。勉強頑張り過ぎると、ちょっと疲れちゃうから息抜きは大事。うん。うん……




 市場で美味しそうなドライフルーツを見つけたので購入した.



満足感と共にポーチへ買い込んだフルーツをポーチへ入れる私に、売り子のおばちゃんがにこやかに話しかけてきたんだけど、その内容に私は目をパチパチと瞬かせた。


「せいしょうさい、ですか?」


「この時期には聖鐘祭があるからね。良く売れるのさ。ウチで作るドライフルーツは評判が良くって、毎年すぐ売り切れていたんだけど、今年は場所取りに出遅れてね。お嬢さんが残っていたのを全部買ってくれて助かったよ」


 この時期の朝市は、先着順な上に時間が決まっているそうだ。

いつもとは違う店や商品が多いな、と思っていたので納得してお礼を言ってから市場を離れる。


 私と一緒に歩いているのは、サフルだ。

ベルは家の事情でいないし、リアンも実家に帰っている。ラクサも自分の工房に戻っているので、私は調合をしながらお店を時短で開けていた。

今、お店を守ってくれているのはルヴとロボス。二頭とも強くなって、泥棒程度なら普通にやっつけられるからね。盗賊も一撃だったし。



「サフル、聞いたことある? 私、あんまり知らなくて」



 こそっと聞けばサフルは少し考えて首を横に振った。

申し訳なさそうに眉尻が下げたので、慌てて別の話題を探す。


(私もサフルもあまり行事ごとには詳しくないんだよね。興味があるとか、そういうんじゃなくて……習慣がないから意識が向かないっていうか)


 きょろきょろしている私の目があるものを見つけた。



「ねぇ、サフル。あそこにいるのって教会の子供達じゃない?」



 人であふれる商店街の中で目についたのは、小さな集団。

よく見ると温かい服を着た年長の子供達が集まって、何かを買おうとしているようだ。

少し気になるよね、と話しかけるとサフルも頷いてくれたので近づいてみる。

彼らの前にある店は雑貨を取り扱っている露店だ。


 近づいていくと全員が真剣な顔で星を模した飾りを選んでいるのが分かった。

他にもリボンのかかった箱、小さな鐘、球体なんかが幾つかの色に分けられて箱に収まっている。



「おはよう。ねぇ、皆は何を探してるの?」


「うわぁっ!? って、え? ライムねーちゃん!?」


「お、おねえさんどうしてここに?」


「サフルにーちゃんも一緒ってことは、買い物にきたんですか」



 びくぅっと揃って肩を揺らした彼らは私とサフルをみて、安心したように頬を緩めた。

彼らは緊張するのはわかるなぁと思いながら、商品を指さす。



「これを買うの?」


「う…買いたい、んだけど……足りなくて」


「そっか。予算って限られてるのが普通だもんね。うーん……とりあえず、買わないなら離れようか。他のお客さんも来るだろうし、ね?」



 うん、と頷いて名残惜しそうに沢山の飾りから離れたた所で、三人の子供達を連れて近くにあったホットドリンクを買って渡す。サフルにも渡して、商店街の端っこで木製のカップに口をつけた。

器は返すと、少しだけお金が戻ってくる仕組みだ。



「良くはわからないけど、あの飾りが欲しかったの?」


「そう、だけど……そろそろ聖鐘祭で、今年は大きなツリーが届いたから飾りを追加したいって思ったんだ」



 この一言で私とサフルは視線を交わし、小さく頷く。

彼らは知っているのだ。



「ねぇ、もしよかったらだけど『教えて』欲しいことがあるんだよね。それで、話を聞かせて貰う報酬として、飾りをみんなで作らない? それじゃあ報酬としては足りないだろうから、私が塗料を買うよ。それでどうかな」


「……い、いいの? でも、教えるってライムねーちゃんに俺たちが教えられることなんてないと思うんだけど」



 チラチラと視線を向けられたことに少し驚きつつ、しっかりしているなぁと思わず笑う。

ちょっとこっちに、と小さく手招きすると私の前に並んで、興味深そうな顔。



「あのね、私もサフルも『聖鐘祭』っていうのが分からないの」



 そう告げると三人の顔には純粋かつ心からの驚きが。

ギョッとして目を見開く、嘘だろ……と呟く、固まって動かなくなるといった反応に、少し予想をしていたとは言っても何だか申し訳なくなってきた。


 嘘じゃないんだよね、と呟くと固まっていた一人の女の子が首を傾げる。



「で、でも……眼鏡のお兄さんから教えられなかったんですか? だって、聖鐘祭って」


「リアン? リアンは特に何もっていうか、いま冬期休暇中だから会ってないよ。家に帰ったんだ、私以外の二人」



 そういうことなら、と頷いた三人から聖鐘祭について教わる。


『聖鐘祭』っていうのは、どうやらかなり有名なお祝い事らしい。

子供達曰く『生きていることを祝う日』で、昔神様が作り出した生き物がすぐに死んでいく中、生き残った生物が厳しい冬という季節を乗り越えようとしているのを見て作られた日なんだとか。


 暫くすると、命があることに神々や周囲に感謝をささげる日になったらしい。

神へ感謝の気持ちを伝える為に『鐘』が鳴らされ、神々が好きな冬でも枯れない『ウィリージュ・リーン』という赤い実をつける棘のついた葉を飾るらしい。


 ご馳走は『雑穀パン』『ミートパイかミートタルト』『ゴロ芋を使ったスープ』『ドライフルーツ入りの甘い菓子』を用意する。すべてが用意できなくても、どれか一品でもあれば良いとされているんだとか。


(だから、店の人はお菓子を作る為にドライフルーツを買ったと思ったのか)


 なるほど、と頷いていると私とサフルに続けて言われたのは、プレゼントがいるという情報。



「……ぷれぜんと?」


「うん。自分の大切な人や友達なんかに贈り物するの。小さくてもいいから」


「自分は貰えなくても、相手に贈ることが大事なんだって。相手に『大事に想っています』が伝わればいいのよ、ってシスターたちが言ってた」



 なるほど、と頷いてお礼を言う。

すると、子どもたちは必要なものについて詳しく教えてくれたのだ。

部屋に木を置いて、それに飾りをつけ『神様に感謝してるよ』っていう目印にするんだ、とかリースを作ってドアに飾ると幸運が舞い込むとか、厄除けになるとかそういう情報がいっぱい出てきて目が回りそうになる。



「もしよかったらだけど、工房で作業しない? 飾りは私も買わなくっちゃだし、鐘だけ買って行こう。小さなやつ。木は……どうしよっかな」


「教会の裏にあるよ。ライムねーちゃんならシスターたちも喜んでプレゼントしてくれると思う。元々、切った分だけ植えて毎年増やしてるんだ」



 へへ、と笑う子供達の提案を受け入れて、私達は市場で買い物をする。

売れ残っていた少し歪な鐘や数が半端なものをまとめて、そしてリボン・塗料は端切れや使いさしを購入したことでかなり安く買えた。


 ポーチを持っていたこともあって、まず教会へ。

そこでシスターカネットたちにツリーのベースになる木を貰った。

裏庭では木の実なんかを拾って、工房で作業する予定だったんだけど……ミントの強い要望で教会で作業をすることに。


 子供がいっぱいいたので手伝ってもらうことに。

教会には大きなツリーがあったので、必要な分を確保したら後はプレゼントすることにしたのだ。全部私の財布から出てるし、リアン達は特に何も言わないだろう。



「さてと……針と糸が使える人は、布の切れ端を細く裂いてリボンを作ろう。光沢のある生地を選んだし、糸もいっぱいあるから好きな糸を使って、ほつれない様に処理してね。まだ時間はいっぱいあるし、工房の分ができたら後は教会で使って。あ!金の糸とか銀の糸で刺繍すると綺麗じゃないかなぁ」


「そうですね。私は比較的刺繍が得意なので……ライムの工房に飾るリボンに刺繍を入れてもいいですか?」


「うん。私は刺繍あんまり得意じゃないから助かるよ。小さい子や刺繍が苦手だったら、残ったペンキとか塗料で木の実に色を付けて。乾いたら穴をあけて紐を通して飾れるようにしよう!鐘はちょっと形が歪だったりするけど、工房にはこれだけあれば足りるから、後は使ってくれると助かるかな」



 行儀のいい返事はとても楽しそうで、賑やかに、でも争うことはなく子供達がテキパキ作業をしていくのに驚いた。

もうちょっと騒がしいと思ってたんだよね。


 そして、気付いた。子供達やシスターが暮らす建物の中が綺麗になっていることに。

以前は、あまり使っていないらしい場所は少し汚れていたり、使用頻度が高い所は散らかっているなど、手が回っていないことが何となく窺えるような場所だった。

 でも今は、しっかりと綺麗になって、子供達も随分落ち着いているように見える。



「驚きました? ライム達と知り合ってから、将来のことを考える子が増えたんですよ。年上の子が変わって、下の子たちも変わってきました。今までは放り出していたことも、子供たちなりに根気よくやる様になって……私たちのお手伝いも良くしてくれるようになったんです。服も食事も寝床だって格段に良くなったから、余裕ができたのかもしれません。ふふ、私達シスターもですけどね」


「そっか。やりたいことが見つかったら、よそ見する暇なんてないもんね。けど、私達がどうのっていうより、ミントたちが今まで頑張ってきた結果が出てきただけだと思うなー。いっつも頑張ってるし、一生懸命だっていうのは凄く分かるよ。大変な時も周りの事を見て、何かできないかって考えられるのって本当にすごいと思うもん」



 私にはできないな、と笑うとミントは恥ずかしそうに微笑んでそっと目を伏せた。

小さな声で「ありがとうございます」と聞こえてきて、なんだか凄くミントらしいなって思うと笑えて来た。


 それからは、子供達と協力して飾りを作り、大きなツリーを飾り付けた。

話を聞いて駆けつけてくれたシスター・カネットや満足そうな子供達に見送られ、私はミントと一緒に工房へ。


 サフルは先に工房に戻っている。

実は、子供達と教会に向かった後にミントから「護衛は私がしますので、お先に工房へ戻って構いませんよ。用事、ありますよね?」と聞かれていたのだ。

 サフルは最初戸惑っていたけれど、ミントに何かを囁かれてハッとした表情になり、私に何度も頭を下げ、帰って行った。


 教会から工房までの道はそれなりに距離がある。

でもだれかと一緒なら、あっという間についてしまうので、私は教会が見えなくなったのを確認してからミントの袖を少し引いて道の脇へ。

 石畳の坂が終わって、他の道と交わるところを避けると空き家の前になった。

人通りがないのはいつものことだ。



「ミント、これ……えっと『あなたに鐘の音が幸福を運んできますように』で、いいのかな。あってる? あってなかったらごめんね」



 ポーチから取り出したのは、小さな宝石を入れるケース。

簡単にリボンをかけただけのそれをミントに握らせる。中に入っているのは、ちょっと変わった形のパールと身代わりクレシオンアンバーを使った小さな胸飾り。


 これ、冬期休暇に入ってから真っ先に作ったものの一つ。

パールはリアンやベルに話をして買い取っているから問題なし。



「本当は合格したら渡そうって思ってたんだけど、聖鐘祭のことを聞いて……その、試験前に渡して頑張ってもらおうって気持ちになったんだ。教会の仕事も大変だと思うのに、勉強も頑張ってるミントに出来る事って言ったらこれくらいしか思い浮かばなくて」


「これくらい、なんて」



 そんな、と言葉を詰まらせるミントに大したものじゃなくてごめんねと思わず謝罪が出た。

実は売られている、綺麗で可愛い装飾品はピンと来なかったんだよ。

どうせなら、自分で作った『役に立つ』アイテムがいいと思って、ラクサに頼み込んだ。

報酬は、ラクサがリクエストする食事を一週間作ること。



「自分で考えたデザインだから、その、売ってるやつみたいにキレイには出来なかったけど……邪魔にならないように小さめにしたから使える時に使ってくれると嬉しいなーなんて」



 杞憂は測定器で調べても、効果が出なかったという点。

大した効果がないのかな、と思いつつ『身代わり』クレシオンアンバーを使っているから万が一の時に役に立てばいいと思う。

 リアンに見てもらうことも考えたけど、なんかちょっと違うと思ったから頼んでいない。



「ら、ライム……こ、これ」


「聖鐘祭には、大事な人にプレゼントを贈るって聞いたから。ちょっと早いけど、当日はきっと会えな―――……わぷ!?」



 言葉の途中でむにゅっとしたものに顔を押し付けられる。

視界いっぱいに広がるのはミントが身につけているシスター服の生地。

ぎゅーっとされていることに気付くと同時に、背中に回される腕に力がこもった。

け、結構苦しい。流石大剣を振り回すだけのことはある。


 ミントは私より背が高いからか、ちょっと地面から足が浮いているのが怖い。

下ろして欲しい、と思いながら大人しくしていると、ミントのどこか湿ったような声。



「らいむ、ライム……っ!あり、ありがとうございますぅううう!! 私、わたし、ずっと聖鐘祭にプレゼント交換するのに憧れてて、でも、シスターの仕事をしていて親しくなれる人なんていなくて……!こんな風に『私』にプレゼントをくれたのはライムが初めてで、もう、嬉しくてどうしたらいいかっ」


「う、うん。あのね、お礼はミントの合格でいいから、勉強頑張ってね。あと、これも」



どうぞ、と渡したのはミントをイメージして作った香り付きのクリーム。

水仕事が辛い時期だろうから、オマケで。


 今度は本格的に泣かれた。


 ぐすぐす泣きながら、でも嬉しそうに笑うミントにつられて私も笑いながら工房へ。

出迎えてくれたサフルやルヴ達が驚いていたけれど、経緯を話すと納得して、何故かミントと意気投合していたのにはびっくり。

 仲良くなれたなら、まぁ、良いんだけど。


◇◆◇




「……あの、なんでラクサは頭抱えてるの? 私なりに聖鐘祭の言葉を考えてみたんだけど、失敗?」



 夕食を食べに来たラクサに報告を兼ねて話をすると、頭を抱えて机にべしゃりと臥せってしまった。

ギョッとして思わず聞いた私に、ラクサが「いや」と小声でごにょごにょ。


「ち、ちなみにッスよ? リアンやベルには……」


「勿論用意するよ。あと、ディルやエル、イオ、勿論ラクサにも!」


「そ……それなら、まぁ大丈夫だと思うッス。うん……いや、大丈夫なんだろうか……?」


 腕を組んで何やら考え始めたラクサは良くわからなかったけど、サフルがお風呂に入りませんかって声をかけてくれたのでお風呂に入ることに。

一声かけてその場を離れた。




 実はもう一話くらい書けそう。

需要の有無が分からないので、需要ありそうなら考えます。来年に回してもいい気がするし。

コチラまで読んで下さって有難うございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 需要大ありですぞ!!!!!!!
[良い点] 季節柄、こんなお話もいいですね。 [気になる点] 他のみんなにも同じの作ったら、クレシオンアンバーのことバレるけど、もう話してたんだっけ? 何で測定器に効果がでなかったのか。ライムが心込め…
[良い点] こういうほっこりエピソード大好きだからもっと読みたいっていう気持ちあるし お楽しみは来年まで取っておくというか、来年のこの時期も続いてるよという約束みたいなのも嬉しいんだなぁ
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