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第2章

誰だろう、そんな事を考えていると、私だ、という声が扉の向こう側から聞こえた。そう、訪ねてきたのはゲイルだった。ゲイルはゆっくりと部屋の中に入ってくる。


「突然すまない、少し話があるのだが…」


「はい、なんでしょう?」


「先程言った事なのだが…マリアから、私の言動でシエルが傷ついていると聞いたのだ。もし、傷付けてしまったのなら申し訳ない。どうも私は言葉が少し足りないらしい。シエルにもマリアにも迷惑をかけてしまった」


「兄様…」


ゲイルの言葉にシエルは、自分の中の不安やわだかまりが消えていくのが分かった。愛されていないのではないかという不安と、完璧な兄と姉に対する劣等感を背負って生きてきたシエルにとって、ゲイルのこの言葉ほど嬉しいものはなかった。


「兄様、ありがとうございます。兄様のそな言葉を聞いただけで嬉しくて、今までの不安がなくなってしまいました。」


「こちらこそありがとうシエル。お前にそう言ってもらえてよかったよ。それでは、仕事があるから私はもう行くが、何かあったら必ず言いなさい。大切な弟のためならば私はどんな事でもしよう」


大切な弟という言葉にシエルはさらに嬉しくなった。マリアだけでなくゲイルにも自分は愛されているのだと知ることが出来た。シエルは、僕にとっても大切な兄様です、と去っていくゲイルの背中を見送りながら心の中で呟いた。伝わる事を祈りながら…。


今日はシエルのもとを訪れた者が多かったため、シエルは疲れきっていた。疲れきっていたシエルはまだ夜も更けきらないうちにベッドへと横になった。


「(疲れたな…でも、今日は嬉しい事ばっかりで良かった)」


横になったまま天井を見つめ、今日の出来事を思い出してみた。初めは普段と変わらない1日になると思っていた。でもゲイルの部屋に呼ばれて、パーティーには出なくていいと言われた。悲しくて自分の部屋で泣いていたらマリアが慰めてくれた。その後、ゲイルが訪ねてきて、自分の事を大切な弟だと言ってくれた。思い返すだけで自然と笑みがこぼれた。


「何を笑っているんだい、可愛いシエル」


声に驚いて振り返ると、そこにはユリウスが立っていた。


「ユリウス様!!どうしてここに…?」


「帰ろうと思ったら、シエルがベッドに横になるのが見えたから来てみたんだ。迷惑だったかな?」


いいえ、小さく返事をすると、ユリウスはシエルの横に腰掛けた。


「それで、どうされたんですか?」


「マリア姫からシエルが泣いていたと聞いたので大丈夫かなと思って…大丈夫かい?」


「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしました」


ペコリと頭を下げると、突然抱き締められシエルは驚いた。どうしたのだろうと考えて、小さく名前を呼んでみる。しかし、返事はなく、抱き締める力が少し強くなった。戸惑っているとゆっくり体を離され自由になる。


「ユリウス様…?」


「シエルは強い子だね。誰かに甘える訳でもなく、自分で何でも解決してしまう。きっと今でも辛いだろうに…」


「ユリウス様…僕は本当に大丈夫ですから。姉様がお帰りになった後、兄様が来てくださって、ちゃんと僕の話を聞いて下さいましたから」


そう、ユリウスは呟くと立ち上がり、邪魔したね、と言いながら出ていった。どうしたのだろう。シエルは心配になったが黙ってユリウスの背中を見送った。


翌朝、慌ただしい足音でシエルは目を覚ました。まだ覚めきらない頭で朝の身支度をしていると、廊下からけたたましい男の声が聞こえてきた。


「何をしているのだ軍曹!!早く準備を整えろ!!」


「は、はい〜〜〜??」


声の主は、国で唯一の将軍・リョウガだった。何事だろうかとシエルが部屋から出ると、それに気付いたリョウガが駆け寄ってきた。

「シエル様!!起こしてしまいましたか?」


「いえ、大丈夫です。それより何かあったのですか?」


「えぇ、もうすぐお客様がいらっしゃるのでその準備を…皆様国賓ですから警備が大変ですよ…」


「ご苦労様ですリョウガ様。でも頑張りすぎてはダメですよ?体を大変にしてくださいね」


「ありがとうございますシエル様。お支度が出来ておられるならば食堂までお送りしましょう」


ありがとう、そう言うとシエルはリョウガの隣に歩み寄り2人で歩き出した。その光景を陰から見ていた父は第二王子の優しい心と将軍の心使いに微笑みを浮かべた。


食堂には既に全員揃っていた。リョウガは一礼をして仕事に戻った。


「遅れて申し訳ありません」


「今日はお客様がいらっしゃるというのにあなたは少し自覚が足りないのではなくて?」


「申し訳ありません…」


王妃、つまり兄妹の母はシエルを嫌っている。母は何も取り柄のないシエルを一族の恥として嫌っている。逆に完璧なゲイルとマリアの事は溺愛していた。


「まったく…少しはゲイルやマリアを見習ってほしいものだわ」


「申し訳ありません…」


「と、とにかくご飯にしましょう?さぁシエル、座ってちょうだい」


「はい…」


その場はなんとかマリアが取り繕ってくれたが食事は楽しいものではなく重苦しいものだった


食事の後、沈んだ気持ちのまま、シエルは自室へと戻ることにした。途中、時々視線を感じるものの気にせず自室へと歩みを進めた。

部屋に入ろうとした瞬間、後ろから口を覆われ、睡眠薬の様なものを嗅がされてしまった。



気を失ってしまったシエルを二人の男達が何処かへ運んだ。



その光景を目撃したリョウガはすぐに部下をゲイルの部屋へ向かわせ、自分はシエルの後を追った。




「失礼しました!!」



「何事だ?」



突然部屋へ飛び込んできた兵士に眉をひそめるが冷静にゲイルは声を発した。



「実は…」



兵士から知らせを聞いたゲイルは部屋を飛び出しリョウガの後を追った。途中会ったマリアとユリウスに事情を説明し協力を願い出た。もちろん二人は協力したいと言ってくれた。


微かに残っていた足跡を追うと意外な場所にたどり着いた。


つづく

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