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第1章

ここは悪魔の国。この国には2人の王子と1人の姫がいる。第1王子、つまり時期国王は頭脳明晰で威厳があり、王として、一国の主としては完璧な男である。

次に生まれた姫は容姿端麗、頭脳明晰の才色兼備のやはり完璧な姫である。


しかし、次に生まれた第2王子は悪魔の証の角、牙、羽の全てがなく、能力も普通、容姿が優れているわけでもない。この第2王子がこの物語の主人公である。

第2王子の名はシエル。シエルは幼い頃より完璧な兄と姉と比べられてきた。兄・ゲイルと姉・マリアとの間で、長い間寂しさと劣等感を感じて生きてきた。


「シエル、一緒にお茶にしませんか?」


「申し訳ありません姉様、兄様に呼ばれているので…」


「まぁ、お兄様に?」


「はい、では失礼します」


お兄様に先を超されてしまいましたわ……。


ゲイルの部屋に向かう途中婚約者のユリウスに会った。


ここで1つ補わなければならない。シエルは幼い頃より公の場では姫として他人と接するように教育されている。故に婚約者は男なのである。


ユリウスを見付けたシエルはユリウスに声をかけた。こちらに振り向いたユリウスの顔は、とても疲れきっていたが、シエルの顔を見るやいなや笑顔になり、明るく手を振りシエルの方へ走り寄ってきた。



「やぁシエル、今日も可愛いね」


「ありがとうございますユリウス様。今日はどんなご用事だったのですか?」


「今日はゲイル様に会いに来たんだ。父が倒れてしまったので、しばらく療養の時間をいただきに来たんだ」


「お父様がご病気!!それは大変ですね…僕でよかったらいつでも力になりますよ?」


「ありがとうシエル。その言葉だけでも嬉しいよ。しばらくは父の変わりに俺か兄が来るから暇ならば相手をしてくれるかい?」


「もちろんです」


ユリウスとシエルは少し他愛ない話をして、ゲイルの部屋に行かなければならないとユリウスに別れを告げ、先を急いだ。



ゲイルの部屋の前に着いたシエルは深呼吸をして部屋の中へと足を進めた。部屋の中は書棚と書斎しかなく、幾分殺風景な印象を受ける。その中心に陣取っている机にゲイルは座っていた。


自室に戻ったシエルは、1人枕に顔を伏せ、声を殺して泣いた。自分はいらないのだろうか、自分は誰にも愛されていないのだろうか、と考えると涙が溢れてきた。


どのくらい泣いていただろうか。やっと涙が止まり枕から顔を上げた時にはすっかり日が落ちていた。シエルは泣き腫らした目をこすって扉の方を見ると、扉の近くの机の上には、マリアからであろうお茶が置いてあった。重たい体をゆっくり起こしてお茶を飲む。とっくに冷めてしまったお茶は火照った体には心地いい。


「おいしい…」


それにしても姉様はいつ来たのだろうか…全然気が付かなかった…。


眠っていたのだろうか、と考えていると扉を叩く音がした。扉が開いて入ってきたのはマリアだった。シエルの顔を見て酷く驚いた。

「シエル、その顔はどうしたの!?」


「すみません、ずっと泣いていたので…」


マリアは、まぁ大変、と声をあげ、心配そうな顔をした。そしてシエルの隣に座り、新しいお茶を煎れはじめた。そのお茶をシエルに差し出した。シエルは差し出されたお茶を受けとると、ゆっくり口に運んだ。


「暖かい…」


「やっと笑ったわね、シエル。お兄様に何を言われたの?」


ずっと暗い顔をしていたシエルが自分のお茶を飲んで笑顔になった事にやっとマリアは安心した。そんな優しい姉に、シエルはまた泣きそうになった。自分は愛されているんだと実感出来た。不安もなくなった。


「ありがとうございます姉様。自分でなんとかしますから心配しないでください」


「シエル…貴方が言うのならば信じるわ。でも、自分じゃどうにもならなくなったら私の所へいらっしゃい。力になってあげる」


「ありがとうございます。姉様のおかげで楽になりました」


「ならばどうして泣いてるの?」


そこで初めて自分が泣いている事に気が付いた。頬を伝う一筋の涙は、さっきまでの悲しい涙ではない、安心して流した暖かい涙だった。無意識に流れた涙はとても綺麗だ。


「辛かったのねシエル…気付いてあげられなくてごめんなさい」


マリアはそっとシエルを抱きしめる。マリアの腕の中でシエルは静かに泣いた。悲しくてじゃなく、嬉しくて、優しく抱き締めてくれる姉の腕の中で泣きながら微笑んだ。ありがとうと小さく呟きながら…。


「シエル、まだお兄様に何を言われたのか言いたくない?」


「実は…」


シエルはポツリポツリと話始めた。ゲイルに、明日のパーティーに出なくていいと言われた事、その言葉を聞いて悲しくなって泣いてしまった事。全てを話してからゆっくり体をマリアから離した。


「そう、そんな事があったの…」


「兄様が僕を心配してくださっているのは分かってるのですが何故か悲しくなってしまって…」


「大丈夫、お兄様も貴方をとても愛しています。もちろんお父様もユリウス様もです。だからそんなに不安にならないで。もっと自分を愛してあげて…」


「はい」


マリアが部屋を出ていったあと、シエルはずっと考えていた。実は愛されている、必要とされているのだと始めて思えた。その事を教えてくれたマリアに感謝しながらお茶を飲んでいると再び扉を叩く音がした。


つづく


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