ジラートの法則
南の海で、船が遭難をした。
船長や乗員、そして私達乗客を含めると、およそ五十人ほどである。私達は残った水と食料を分配すると、残りの一週間近くをただ漂流した。
ところが八日後、遠くに小さな島が見えて来た。
五十人は手に手にオールとなるものを持っては、その島へ向かって必死漕ぎ続ける。もう少しでその島へと辿り着きそうになったとき、一人の男が口にする。
「こんな小さな島では、たとへ上陸できたとしても助かる見込みはないだろうな・・・」
(今そんなことを言う必要があるのか?・・・)
皆んなは一斉に、その男へ厳しい視線を送る。そんなことを意に関せず、男は更にたたみかける。
「もともと俺達は死ぬ運命なんだよ・・・」
少しでも希望を胸に櫂を漕ぐ皆にとって、男の言葉は不快以外の何ものでもない。
「黙って櫂を漕ぐんだ。その先、私たちは嫌でも五十人で共同生活をしていかなければならないんだから・・・」
別の紳士が皆を叱咤激励する。
しかして、船は無事にその島へと辿り着くことができた。はじめ小さく見えていた島は、思ったよりも大きく、更にその島には原住民が二百人ほど彼らを暖かく迎えてくれた。
それでも、例のあの男はいつまでも不平不満を口にする。
「何れはこの野蛮な原住民たちとも、きっといざこざが起きる時が来るものさ・・・」
この言葉には、原住民たちも皆一様に不快な顔を表す。
はたして男は、この後も皆の者達と上手くやっていけるのだろうか、それだけが心配である・・・
【ジラートの法則】
人は普段の生活の中で、平均して250人ほどの人間と繋がりを持つと言われている。
つまり、一人を不快にすると言うことは250人を不快にする(敵に回す)と言うことにもなりかねない。と言う「人付き合いについての法則」である。