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チョコレートの季節  作者: けろよん


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8/8

音羽の決心

 校門から校舎までの距離を、音羽は急ぎ足で歩いていく。もう迷いは無い。

 入口で立ち止まり、邪魔にならないように横へ移動する。

 大勢の生徒達が校門や昇降口を抜け、学校へと入っていくのが見えた。

 途中で香の放送が聞こえてきた。


『今からチョコを配ります。生徒のみなさんは校庭に集まってください』


 折原君が香なんかに誘い出されるなんて思いたくなかったが、音羽は気になって少し足を伸ばして、背伸びをしながら校庭の方を見渡してみた。

 折原君の姿は……見えない。ひょっとしてまだ来てないのだろうか、それとももう校舎に入っているのだろうか、それとも自分の見えない校庭のどこかにいるのだろうか、それとも……


「折原くーん」


 音羽は小さく口に出して呼んでみた。何かを期待したわけではないごく何げない行動。だから……


「ん? 僕?」


 すぐ近くから声がした時には本当に驚いた。音羽は飛び上がるようにぎこちなく振り向くという奇妙な行動をしてしまった。

 振り返ったすぐそこにいたのは……


「お、折原君!!???」


 ずっと気にしていた彼の姿だった。不思議そうにこちらを見つめている。

 すぐに訳知り顔になって口を開いた。


「君はあの時の。この学校の生徒だったんだね。あの時はジョンが迷惑かけたよね。あれからちゃんとよくしつけておいたからもう大丈夫だよ」

「そう、良かったですわ。ジョンは元気?」

「ああ。もう、元気なもんさ。昨日ちょっと変なことがあったけど、今でもやんちゃな僕のベストパートナーさ」

「凄いですわね。また会いたいわ」

「それだったら今度家へおいでよ……って調子良すぎかな」

「い、いえ。そんなことは……」


 二人して赤くなってうつむいてしまう。立ち直るのは彼の方が早かった。


「それで、僕に何か用があったんじゃないの?」

「は、はい。実は受け取ってほしい物が……」

「え……」


 気のきいた台詞の一つも言うことも出来ず、ただチョコを渡したいという意志のままに鞄を開けて手を入れる音羽。

 バレンタインと言う意味のある日のことを思い、正はじっと音羽の行動を見守っている。


「いたっ!」


 何か角張った物が頭に当たるのを感じ、音羽の手が止まった。


「だいじょう……いたっ!」


 声をかけようとした正の上にも降ってくる。二人して地面を見下ろし、空を見上げた。

 たくさんの包装紙にくるまれたチョコが雪のように……いや、流星雨のように青い空から降ってくる。

 落ちてくる音、叩きつけられる音、ぱこぱこという音が辺り一帯に広がっていき、


「うおー!! チョコだー!!」

「天からの恵みだー!!」


 生徒達の喜びと歓声の大合唱がそれら全てを包みこんだ。


「香……」


 空を見上げ、音羽は昨日の友の姿を思い出す。

 派手なのが好きだと言っていた彼女、中学生らしく別のことをやりたいと言っていた彼女、きっと今頃どこかで満足そうに微笑んでいることだろう。

 それは今の自分も同じだ。今年は二人の進む道は違ったけど、結果は幸せに包まれている。


「ここは危ないよ! 避難しよう!」


 彼が素早く音羽の手を掴んでくる。音羽は幸せの笑顔でうなづいた。


「はい!」


 二人して雨の降りしきる中、手を取り合って校舎の中へと入っていく。ずっと夢に見ていた光景。自分は今彼と一緒にいるのだ。


「音羽ーーーーー!!」


 後ろからのよく響き通る声に二人揃って振り返る。

 走ってくるのは音羽の兄光一だ。その後ろにはどこかの親切な生徒なのか、眼鏡の少女が音羽達の幸せを写そうとカメラを向けてくれている。

 幸せを胸一杯に広げ、音羽は大きく腕を振る。


「お兄様----!!」


 答えるように兄も大きく腕を振り上げる。


「貴様ーーーーー!! 音羽には近づくなと言っただろうがーーーーー!!」


 いつもと違う兄の様子に上げた手を少し降ろす音羽。


「お、音羽!? 君が!?」

「はい!!」


 自分の名を呼ばれ、音羽は満面の笑顔で答えた。

 それから起こる一つの騒動。それはまた後の話である。

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