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チョコレートの季節  作者: けろよん


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1/8

冬の教室で

 秋が過ぎ、クリスマスが過ぎ、お正月が過ぎ、1月も半ばを過ぎた冬の寒さが最高潮を迎えた頃。

 冬の寒い教室で桐生音羽きりゅうおとはは窓際の席に座り、ものうげに空を見上げていた。

 今は授業中。耳には眠い国語の先生の読経のような声が聞こえてくるけど、彼女の思いは別の場所にあった。


「もうすぐバレンタインですわね」


 曇り空に向けてつぶやく。そう、もうすぐバレンタインデーなのだ。

 今まではとるに足らない毎年の恒例行事に過ぎなかった。執事の森谷に頼んでダンプ三台分ぐらいのチョコを手配してもらえばそれで済む話だったのだ。

 でも、今年は違う。何故なら今年になってついに彼女にも好きな人ができたからだった。


「ああ、折原君……」


 音羽は愛しい彼の姿を空に思い浮かべ、右手でシャープペンをくるりと回した。



 退屈な午前の授業がいつの間にか終わり、教室は昼休みのにぎやかさで沸き立っていった。


「音羽ー、音羽ー」

「桐生さん、水道橋さんが呼んでるよ」


 親切なクラスメイトAさんに肩を揺さぶられて、音羽ははっと我に返った。

 いつの間にか目の前に物静かな少女、水道橋香すいどうばしかおるが立っている。おせっかいなクラスメイトAさんは『じゃあ』と手を振って去っていった。


「朝から考え事?」


 言いながら香は椅子を引き、音羽の前に陣取って座った。音羽と香は一緒に飯を食うマブダチなのだ。(香談)

 まだ出会ったばかりだった頃に


「どうして一緒にご飯などいただかなければなりませんの?」


 とたずねたら、


「マブダチだから」


 と切り返されたのだから間違いない。

 その自称マブダチは今、音羽が弁当を出すよりも早く無言でパクパクと自分の食事に取り掛かっている。彼女は物静かで物おじしない子なのだ。だからこそ、音羽も付き合っていると言える。


「いただきます」


 音羽も自分の昼ご飯に取り掛かることにする。


「悩みがあるの」


 しばらくしてから、香が仏頂面の口を開いた。


「なんですの?」


 マブダチ同士の音羽と香は悩み事を相談しあう仲でもある。香からの持ちかけであることがほとんどだけど。

 音羽は箸を置いて聞いてあげることにした。香からの相談それは。


「もうすぐバレンタインだよね」

「そうですわね」


 香の口からその単語が出て音羽は内心びっくりした。が、幼い頃からしつけられたお穣様仕込みのたおやかさでもって元の平静な表情を維持したまま彼女の次の言葉を待つことにした。

 香の話はこうだった。


「わたしたちももう中学生だよね」

「はい」

「だから、今年はいつもと違うことをしようと思うの」

「そうですか」


 いつもとはダンプ3台にチョコを積んできて校庭にばらまくことである。音羽の提案で香も幼い頃から同じようにチョコを配っていたのだ。

 その香が今またバレンタインのことで音羽に相談を持ちかけようとしている。


「いつまでもダンプじゃ子供っぽいと思うのよね」

「わたくしもそう思いますわ」

「どうしよう」


 一通り話終えると香はまた無言で食事に戻った。こうなると音羽が返事をするまで彼女は喋らない。

 音羽は考えた。そして、思っていたことを思い切って口に出すことにした。


「今年は数を絞って本命チョコを一つだけ手渡しで渡すというのはどうでしょう」


 頭の中に愛しい折原君の姿が浮かび上がって顔が赤くなりそうなのを賢明に押さえようとする音羽。


「ホンメイ?」


 香はきょとんとしたような顔をしてから、箸を横に振りながら答えた。


「駄目だよ、それ。地味すぎ」

「地味……ですか」

「わたしはもっと派手にやりたいの。中学生らしく」

「では、空からばらまくというのはいかがでしょうか」


 地上が駄目なら空から。安易な発想ではあるが、香のことで難しく考える必要は無いと思った。

 それに自分のやりたいことはすでに決まっているのだ。

 折原君に……手作りのチョコを……手渡しする。


「いい考えだわ。さっそくお父様に超重爆撃機ヨルムンガンドを飛ばしてもらえないか頼んでみる」


 平和な空想にふける音羽の前で、香は決意に燃えていた。

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